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音の不思議

 その男は、何やら慌てた様子で「なぁ、おい、聞いてくれよ」と肩で息をしながら別の男に話しかけていた。一緒に見舞いでも来たのであろうか、病院にかかっているふうには見えない。

「落ちつけって、どうしたんだよ?」

 よっぽど慌てていたのか、どうして病院内でこんなにも息を弾ませているのかわからないが、何やら真剣な顔つきだ。

「実はさ……今、看護師たちの会話が聞こえてきたんだが、こんなことを話していたんだ」

 どうやら、女性の看護師二人の会話が聞こえたようであった。それは、こんな話しであったらしい。

「もう、それはさ、だめだよ。整形の先生にちかんされてこい」

 えー、と言いながらもう一人の看護師は顔を伏せる。

「ちかんは……いやだ」

「そんなこと言ったって仕方ないでしょ? いいから、ちかんされてきなさい」

 と……。

「もう、びっくりして、さ……。どう思う?」

 もう一人の男の顔も神妙な顔つきになっている。

「先生に痴漢されてこい……どういうことなんだろうな」

 男二人で顔を見合わせて、痴漢って……、とほうけたように口を開けている。

 そんな話しを横で聞きながら、その看護師たちの顔が目に浮かぶ。話しを聞いていることも気づいていたに違いない。いや、気づいていなかったとしても、そう変わりはないと思う。

 相変わらず男二人は妙な顔つきのままこの場を離れていった。そうして、後ろにあった掲示板の『人工膝関節置換術』を見逃したまま、この先も悩ましい顔をしながら過ごしていくのであろう。

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ふみ
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