絵画
昨日は、一日雨だった。正確には、お昼前に一度止んで、日差しも差しこんできたというのに、夜になってからまた降り出した。
そんなふうに突然移り変わることもあるのだなぁ、なんてのんびり思いながら、一日を持て余していた。外に出る気は起きず、晴れてからもそれは変わらなかったし、夜に降り出した雨を見て、なおさら出なくてよかった、なんて思ったものだ。
今日はそんな昨日が嘘みたいにからりと晴れた空だった。乾燥もするし、空は澄み渡り、凛とした空気が心地もよい。この時期とは思えない昨日のへんてこな空気とはすべてが違い、待ち望んでいた季節感あふれるものであった。
それが関係あるのか否かーーそんな細かいことなんて気にする必要もないほど、すんなりと体を起こし、外に出かける。どうしようか、なんて考えることもなかった。
寒い さむい!
なんて思いながらも、心は軽やかで、気持ちよかった。
張りつめた冷えが、凍てつくこの感じが、この空気そのものが、私という輪郭を写し出し、描いて、表現してくれているかのよう。頭の冴え、手の形、指先の痛み、腰の動き、今ここでこうしているその全部を、くっきりと、教えてくれている。そんな気持ちで、胸がいっぱいになる。
だんだんと温まっていく体も、息の白さに呼吸、鼓動、何もかもが、心地よい。この解放感! 縮こまってしまいそうな寒さなのに、なんでこんなことを感じるのだろう。
そうこう歩いている間に、普段とは別のところに出た。こんなときにはいつもとは違うところへーーそんなことを思わなくても、自然にそんなふうになってしまっているらしい。
歩いているうちに何やら足が重く感じられると思ったら、かなりな坂を登っていた。そんなことにも気がつかないくらい、無意識に動いているらしい。私は一度立ち止まり ふぅ 息を整えると再び登り始めた。
坂を登り切ると、そこには公園があった。広さはそうでもないし、遊具もない。ベンチがひとつ、ぽつんとあるだけだった。しかし、
私はーー息を飲んだ。
昨日の雨で、銀杏の葉がすべて、すべて、落ちてしまったのだろう、か。もしかしたら、昨日ではないかもしれない。
そこにはただ、黄色が広がっていた。いや、そんなちっぽけな言葉で伝えることがもったいないくらい、圧倒的な色彩。地面が黄色に塗りつぶされたような、そんなことではない。葉の積み重なりに立体感があるとか、そんなことでも、ない。ただ、ただ、その色の広がりに、圧倒されていた。
こんなにも鮮やかに、軽やかに、銀杏の葉で満ちている空間が存在していること。
空の晴れやかな青も、この空気の冷えも、すべて含めて、ひとつの作品に思えた。あまりにも美しい。
私を描いたこの空気さえ含まれているのなら、これらを描いたものはなんであろう。そうして、
私もきっとこの美しい作品の一部なのであろう、という想像が働いて、瞬時に確信に変わった。誰かーー空気が、空気を描いたものが、私を描いた空気を描いたのであれば、きっと、そう。
きまぐれな私の心は熱を持って溶け出し、この絵画から抜け出そうとしてみる。それでも、空気の冷えは熱との絶妙なバランスを持って、私を写し出すことをやめなかった。
ほっとしたような心地が、なんとも言えない。けれど、いつまでもこの美しい場所にはいられず、歩き出す。どんどん離れていく、どんどん、消えていく。
そんな不思議を体感したような
なんとも言えない感覚が、ちっぽけな私の心持ちに広がりを持たせてくれたような、そんな、気がした。