たとえ ひとり でも
ふと、気がついた。
それは何か、前触れがあったわけではない。
けれど、もしかしたら、何気なく過ごしていた日常の中で、感じるものはあったのかもしれないし、前々からうすうす気がついていたのかもしれない――いや、うすうす、とか、気がついていた、とか、そんなことよりももっと、具体的に、知っていたのかもしれない。
わたしは、なんて、からっぽ、なんだろう。
このごろ、特に、そう感じる場面が多かったことに、いまさらながらに気がついた。
いや、知っていたけれど、ふたをしていたのだろう。
そうでなければ、自分を保てなくなるかもしれない、なんて、無意識に思っていたのだろう。
好きなことだってある、したくないことだってある。
快いことを知っている、不快なことを知っている。
それでも、なお、わたしには、何か、本当に情熱を傾けられるようなものがあるか、と言われると、何もない。
情熱、なんて、そんなものでなくてもいい。
そもそも熱や感情を持たない存在なのではなかろうか。
そんなことを、感じてしまう。
何かについて、知っていることなんて少ない。
興味を持てることなんて、ほとんどない。
それでも自分を保てなくなることなんて、ない。
わたしには、何もない。
それでもいいと思えるし、なんてつまらない人間なんだろう、とも思う。
ただ、どちらにしても、わたしはまだ、こうして生きている。
生きているし、生き続けている。
特に、理由もない。
死ぬ理由もないし、まだ生きているから、に過ぎない。
このまま、わたしは、どうしていきたいんだろう、な。
「まほは相変わらずねぇ」
なんてことをたまたま鉢合わせた以前の職場の同僚に話したら、そんな言葉が返ってくる。
夜の公園のベンチでふたり、缶コーヒーを握りしめる。
それ以上、何も言ってはこなかったし、これまでと変わらない笑顔を向けてくれる。
わたしも、特に悩んでいるわけではなかったし、缶コーヒーを飲み干したら帰ろうか、と考えた。
「大丈夫よ、前からそんなこと言いながら、ぎすぎすもしていたし、すなおに話しも聞いていたし、泣いたり、笑ったりしていたから」
以前の同僚はそう言うと、缶コーヒーをぐいっと傾けた。
そうして立ち上がり、手を差し伸べる。
わたしは思わずその手を取ると、立ち上がった。
そうして、わたしのおでこにでこぴんすると、
「まあ、そんな話しができるようになっただけ、いいかもね」
これまで見たことないくらい、満面の笑みを浮かべた。
おでこをおさえながら、小さくうなずくと、仕返しにでこぴんをしようとして、かわされる。
そうして、ふと、気がついた。
からっぽ、かもしれない、し、多くの人とかかわることは難しいかもしれない――けれど、
そんな、からっぽな、わたしにも、こうして話しを聞いてくれる人はいるんだな、と。
そんなこと、やっぱり、前から、気がついて、いや、知っていた、けれど。
そんなことに、気がつくことが、できた。
いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。