考え過ぎてしまって
心の声に耳を傾けながら、それでも決心がつかないのは、私の弱さなのかもしれない。
どう思われるだろう。どう捉えられるだろう。
そんな不安が堂々巡り、結局動けやしない。
そんなこと考えたって、何にもなりはしないのに。こうかもしれない、ああかもしれない。そんなあることないこと、実際に動かなければわからないことに縛られて、何にもできずにいる。
思わずため息をつきながら ちらり あの人の顔を見る。
ただ、飲みに行きたいだけなのに。
何でこんなに考え過ぎてしまうのだろう。
女性同士だし、もっと気楽に考えればいいのに。そう、男性を誘うわけではないんだ。ただ、お酒を飲んで、話しをしたいだけ。それなのに……。
迷惑ではないかしら、嫌な気持ちを与えないかしら。そんなことばかり考えてしまう。
たしかに、まだ、そんなに話しをしたこともないし、飲みに行きたい、って思ったのも、自己紹介のときの話しがおもしろくて、もっと聞いてみたい、と思ったからに過ぎない。
お酒好き、というのも聞いていたから、よし! と思ったのもきっかけだ。
平生、こんな素面の状態だとうまく話せないから、なおさら。でも、まずはここから話さないと、それもうまくいかないかしら。
「佳苗さん、どうしたんですか?」
と、俯いた途端に件の彼女から話しかけられた。
「えっ……えっ、と」
思わず動揺してしまい、ますます話せない。
それを見ても、かえって心配したように、どこか体調悪いですか? と聞いてきてくれるそのやさしさに、ますます話しをしたくなる。けれど
「だ……だい、じょうぶ、です」
かろうじて、そうしか言えなかった。
彼女はほっとしたのか、笑顔を見せながら
「それならよかったです。無理はなさらないでくださいね」
そう言って、自分のデスクに戻っていった。
私は ぼぅ とそれを眺めながら、慌てて自分の仕事に戻る。はぁ、せっかくのチャンスも棒にして……。
ひとまずその日の仕事を無事に終え、帰る準備をする。彼女はまだいた。けれど、
「お、おつ、かれさ、ま、です」
そう言って、静かに部屋を出た。
このままだと、いつまで経っても話しかけられはしない。慣れてくれば、私だってもう少し話せるのに。
いや、まだ、めげるときではない。慌てたって仕方ない。これからだ。チャンスがあれば、声をかけてみよう。
そう自分に言い聞かせながら、ぐるぐる巡っていることをいまだ手懐けずにいた。