答えより 自分で考える
これまで私が見てきた人たちは、どちらかと言えば手っ取り早く成功するための方法、ノウハウなどを聞いてきては、その通りにすることでたまたまうまくいく場合もあり、そうでない場合もあり、しかし共通として応用が効かない感じが見受けられた。
そうして感謝もされれば恨まれることもあれば音沙汰なく消えてしまった者もいる。どちらにしても、私からすればお門違いなものだ。
私は、そんな彼らを導くようなことをするつもりもないし、聞かれたからそれに対して正確に答えただけだ。
私が占いなんてものをしている理由なぞ、たかがしれている。ただ、できるからだ。それ以上も、以下もない。忖度もなく、贔屓もせず、ただ答えるだけ。こんなに楽なことはない。私にとっては。
毎日、毎日、飽きもせずまあよくこんなところに人が来るものだ。本当に、いろんな人がやってくる。男も女も子どもも老人も金持ちも物乞いもいろんな人がやってきては、感謝をし、恨みをし…‥私はただ、話しをし、話しを聞いているだけだ。
これだけの人が来れば、変わり者もいればまじめな者もいる。いや、大抵は変わり者か。こんなところに来ること自体、そうだ。
そんな中でも、これまでと違う感性の持ち主が来たこともあった。はて、あれはいつのころだったか。
その人は、成功やノウハウといったことよりも、疑問を投げかける中で答えを求めてはいない人であったーー
「どうして、私は生まれたのでしょうか?」
話しを聞きながら、唐突にそんな質問を投げかけられる。
「理由なんてないよ、生まれてしまったのだから」
あぁ、また恨まれるかな、と思いながら、その人は、ふむ、と首をかしげる。
「理由なんてないのですか。なら、なぜ、生きているのだろうか。こんなにもつらいのに。おもしろいものだ」
そんなふうに考えるほうがおもしろいのではないだろうか、と伝えようとして、やめた。
それからまた たわいのない話しに戻ったかと思ったら
「なんで、あなたは魔女なのですか? 魔女として生きようとしたのですか?」
そんなことを聞いてくる。
「それが私の生き方だからさ。魔女は職業ではない、生き方そのもののひとつだ」
それでも、私は、聞かれたことを正確に答える。
ほう、とその人は感心したように目を大きく見開く。
「生き方ですか、それは、いいものですね。私はどんな生き方ができるであろう。おもしろい話しを聞いた」
何やら、私の話しを聞いて、考えている様子であった。それは他の人にはなかった。いつも答えを聞いては、その通りにします、といったような質問しかそもそもなく、考えることもなく、ただ、私の答えのままにするだけだ。
しかし、この人は、私に質問はすれど、その答えを聞いてから結局自分で考えて、決めているような印象を受けた。
私は、私が質問したくなった。
「何を求めてここにきたんだい? 私の答えを聞くよりも、自分で考えているなら、それでいいじゃないか」
思考していたであろうその人は私に視線を合わせると、口角を上げた。
「考えるためにきました。答え、なんてそんなものあるわけではないと思う。どうするかは自分が決めるものだから。けれど、うまくまとまらないから、話しをする中でよいものが見つかればいい、と思って、ここにきました」
その言葉を聞いて、正直に、私は感心してしまった。
これまで、私が考えてきたことにそっくりであったこともそうだが、何より、悩んでいることをすなおに伝えた上で、あくまで私の答えは参考程度、という感覚に心地よいものを感じる。
失敗もしないでうまくいくわけがない。なぜ、失敗してしまったのか、そこから考えて、ではどうするか、それがなければ、同じことを繰り返すだけだし、よしんばうまくいったところで、では なぜ うまくいったのか もわからない。それでは、応用が効くはずもない。
自分で考えなければ、結局のところ、その理由や疑問を、自分で考えて、感じて、ではどうする、までつなげなければ、本当は、なんの意味もない。
私の答えは、答えであって、自分の答えではないし、血肉にならない。積み重ならないのだ。
けれど、この人は違う。
しっかり、私の答えーーいや、私の話しでさえ、血肉にし、つなげようとしている。
ありがとうございました
そう言って頭を下げるその人を見送りながら、私も自然と頭を下げたーー
その人は、それ以上、感謝もしなければ恨みもしなかった。
後にも先にも……まだ先はわからない、けれど、同じような人はいなかった。
もちろん、他にもおもしろい感性の持ち主はいたけれど、はて、それもいつのことであったか。
時間はたっぷりある。また、ゆっくり、思い出していこう。
さて、今日はどんな人が来るのかしら。また、感心できるようなおもしろい感性に出会えることを願い、私はお茶を ごくり 飲んだ。