話しを聞いているようで
「あの人だって、そういう環境を作れば……」
「そうだよね」
話しを聞いている。話しを聞いている。
とにかく、話しを聞き続けている。
「あの人ってほら、話しかけにくいから……」
「うん、そう思う」
しかし、遅めのランチに昨夜からの睡眠負債が重なって、徐々に思考が働かなくなる。幸いにも、会話は二人だけで成立し、私が出る幕でもない。
私は姿勢を変えて変えて、どうにかこうにか、話しを聞いている。
「あの人の顔を見たときに……」
「えー、そうなんだ」
ただ、何事も限界というものは存在すると思う。
私は話しを半分聞きながらも、ぼぅとする時間が増えていることに気づいていた。そもそも、半分、なのだから。
とりあえず、今のところ、私が出る幕ではなさそうであった。沸々としたものは感じていたし、こうでないか、ああでないか、なんて考えることもあったけれど、そんなことは些細なものだ。
そんなことよりも今の私に大切なことは、船を漕がないことであろう。
「あの人だったさ……」
「わかるわかる」
だめだ。
だめだ。
声が、聞き取れないものが増えてきた。
私は限界を悟りながらも、話しを聞き続けている。
いや、これはもはや、話しを聞いていると、言えるのだろうか?
「あの人……」
「うん」
もはや、私は、話しを聞いているのではなく、この二人と時間を共有し、この場にいることそのものが、ある種重要な仕事であろう、という結論に至った。
いや……
そう結論させるしか、私が今ここで、できることはないのだと。そう、認めざるを、得なかった。
しかし、それは何のため? 何のために? と問われてしまったらきっと、何も返さないであろうことには気がついていた。
私は今、ここに、いる必要があるのか?
必要だとして、それは、誰のためなのか?
その疑問を描きながらも、何もできずに、二人の話しの続きはもう、耳にも入ってこなかった。