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ほっとみるく

 白とも灰とも暗い青とも思えるような空が窓から見える。凍てついた空気が肌を刺し、脳に語りかけ、どこか冷めついた思考がそのまま停止してしまいそうな、そんな予感めいた何かが傍にいるように感じる。

 雪とも、それに変わる雨にもなるまい、と予報では出ていたが、今にも何か、何かが舞い降りてきそうな静けさが、窓の外の風景には表れていたーー

 と、そんなこと、窓の内側にある私にはなんら関係があるものではなかった。暖のきいた室内では、先ほど脳裏に浮かんだような展開にはならないことを知っていたし、どちらかと言えば、妄想と呼ぶべきものであろう。

 窓一枚隔てたこの空間の違いが、これほどまでの変化と落差を持ち合わせているとは、なんとも不思議な感じがした。

 窓の外では静やかな空想が流れているが、窓の内ではストーブとCDラジカセから流れる音楽が、それを打ち消していた。

 幻想的でメロディックなトレモロが空間を支配する、ブラックと呼ぶにはあまりにも儚げで美しい音楽を奏でている。この空と心模様にぴったりと入りこみ、終わるたびに同じバンドのCDに切り替えては、何度も、繰り返し、聞いている。

 それにしても、今の私のこの心はどうなってしまっているのだろう。

 それはこの空模様の仕業か、それとも誰それとの関係のことか、それとも特に理由がなく沈む気持ちによるものか……。

 音楽が終わる。無音が響く。
 いや、ストーブの音だけが聞こえる。

 改めて音楽をかけようとして、やめた。
 代わりに、台所へと向かう。

 ミルクパンにコップ一杯分の牛乳を入れて、火にかける。

 ほどなくして、牛乳からパクパクと泡が出始め、それはみるみるうちに激しくなり、ふいに ばー っと ミルクパンの上部へ向かって走り出す ところで、火を止めた。勢いを失った牛乳は、おとなしく元の位置へと戻る。

 コップに、温めた牛乳を注ぐ。牛乳は熱せられたミルクパンに触れるたびに がー っと音が鳴り、コップに移されていく。

 アカシアの蜂蜜をスプーンですくい、同じくコップに入れてかき混ぜる。

 ホットミルクが、完成した。

 私は暖を止めて、電気を消して、木製の椅子へ足を乗せて座った。

 ストーブの音さえ聞こえない、今度こそ無音の響く静寂が私を包みこむ。この世界には、私しか存在していないような、圧倒的な孤独と静寂感。何もない、何も流れない、何も動かない、体も心も。そうして、

 少しずつ冷えていく部屋に、身が震える。かじかむような手から伝わるホットミルクの温かさだけが、私に安らぎをくれた。

 ひと口、飲む。ふぅ、っと、息を吐く。

 きっと、これは思いこみなのかもしれない。それはたぶん、そうなのかもしれない。
 けれど、たとえそうだとしても、実際に心が安らぐ以上、私にはそれだけで十分。

 いつも、不思議には思う。

 学生の頃に読んだ小説に出てきた、心が落ちているときに安心をくれる魔法。私はそれに縋りついているだけなのかもしれない。

 気持ちが病んだときに飲むホットミルク、ほっとする心。部屋を暗くしたり、暖を切ったりするのは私が考えたものだけれど。

 それでも、この空模様と同じ、すぐに、晴れることなんてない。

 けれど、こうして落ちつく時間を作る、こと。

 それが、とても、大事なこと。

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ふみ
いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。