私の世界
今は昔、とはよく言ったものさね。
ん? あぁ、何も昔話をしようだなんて思っていないさ。たんに、今は昔、とはよく言ったものだなぁ、と感心したのさ。
何がって?
そりゃあ、お前さん、今は昔、だよ。たしかに昔話を語るように、今ではもう昔のことだが、なんてのもあるが、今というのは、所詮もう昔のようなものなんだ。
こうして語っている間に、どんどん過去になっていく。そうだろう? この瞬間を生きている以上、それは仕方のないことなんだ。
え? 今の積み重ねは過去ではなく、常に今だ、って? まあ、たしかに、そうさね。けれど、私が言っているのは、今、と口にした瞬間にそれはもう昔である、ということなんだ。おもしろいだろう? 私たちは、過去も、今も、未来も生きていない。なら、どこを生きているのだろう。それはきっと、言葉になんて表せないものなんだ。
屁理屈? 結構。そういう感覚も必要だ。なにも私と一緒である必要はないんだ。お前さんには、お前さんの考えがあるだろう? ただ、聞いてもらえると、うれしいんだ。私の考えを、感覚を、想いを、聞いてくれるだけでも、うれしいもんさ。
さみしくないのかって? みんなと違うのが? みんなと違う……はっは、そもそも、おんなじことなんてあるのかね。それは幻想だよ。おんなじつもりなだけさ。だから、さみしいことなんてないね。
今日は……いや、いつもか、悪いね。付き合ってくれてさ。こんな話しを聞いてくれるのはもう、今はお前さんくらいなもんだ。本当に、助かってるよ。
さて、と。私の世界ではない、何かしらに縛られている世界に降りてもいかないとね。難儀なもんだね、生きるってさ。やっかいなもんだよ。いや、やっかいなのは私か。はっは。
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