教師が子供を正さなければいけないとき ~佐伯夕利子氏&池上正氏に学ぶ~
正すべきは子どもの「態度」や「取り組み方」
スペイントップリーグのプロサッカーチーム「ビジャレアル」で、選手育成の重要なポストを担い、現在Jリーグの常任理事を務める佐伯夕利子氏。彼女の著書「教えないスキル」の中にこんな一節があります。
「選手の才能を支える要素は ①アティチュード(姿勢、態度、取り組み方) ②アプティチュード(適性、才能、スキル) ③ビーイング(存在、ありよう)の3つ。このうち指導者が叱って良いのは①のアティチュードだけ。手を抜いたり、努力しなかったりすることには断固否定すべきである。『そこは交渉の余地はありませんよ』と選手に伝えなければならない。」……
世界トップレベルのサッカーチームが、「育成年代である子どもの間違った態度、姿勢、取り組み方は、ちゃんと叱って正すべきだ」と言っています。これは感情的なレベルで生まれた結論ではありません。長い年月をかけてプロコーチが議論を重ね最終的にたどり着いた、「世界に通用する一流のプロサッカー選手の育て方」です。もしかしたらこれは、世界に共通する子育ての王道なのかもしれません。
「叱る」という行為の3つの落とし穴
でもこのことは、教育現場では当たり前のことです。教師は日々、子どもたちの「正すべきアティチュード」と闘っています。ちゃかすような発言、人の失敗を嘲笑する不誠実さ、嫌いなことには手を抜いてやり過ごそうとする姿勢…日々の教室で見られる、こんな子どもの正すべき態度を、教師はちゃんと向かい合ってきました。そんな教師の教育的行為が、たくさんの子どもを幸せにしてきたことに何の疑いもありません。
しかし「叱る」という行為は、一歩間違えれば子どもの成長に悪影響を与えてしまうことも知っておかなければなりません。そうならないために、教師は次の3つのことを常に自問自答していく必要があります。
① ひとつは自分の「価値観」の押し付けになっていないかということです。例えば「あいさつは大きな声で元気よく」は押し付けです。静かに会釈するくらいのあいさつが丁度良い、という価値観だってあります。教師の「好き」「嫌い」を基準にすると、そこにどうしても合わない子どもは、はじき出されてしまいます。
② ふたつめは、目に見える行動だけでその子の内面まで決めつけていないかということです。「この子はいつも行動が遅い。それはやる気がないからだ」と言う人がいますが、思慮深いから行動がゆっくり…ということだってあります。人の心の中のことまで他人にはわからないのです。それなのに自分だけの色眼鏡を通して見えたことだけで人をジャッジし、否定し、攻撃するような行為は愚行と言わざるを得ません。
➂ みっつめは、子どもの行動が変わったとき、そこに主体性があったかということです。「先生が怖いからやろう」「先生に嫌われたくないからやろう」という受け身の姿勢では、子どもの認知・判断力を伸ばすことはできません。ヘタをすると人の顔色を気にしながら自分の行動を決めるような子になってしまいます。
大切なのは「問う」こと、そして「気づかせる」こと
■ここに挙げた3つのことを解決する唯一の手段、それは池上正氏が言う、子どもへの「問いかけ」です。
先日行った少年サッカーの指導で、ひとつのグループが真剣さに欠けた、不真面目な態度で練習していました。プレーの失敗を笑いでごまかし、周りもつられて笑うので、緊張感のない、だらけた雰囲気です。私はそのグループの練習を中断して、他のグループの練習を見させました。そして「みんなと違うところはない?」と問いました。子どもたちは、「僕たちより上手い」と言いましたが、私は「どこのグループもたくさんミスしているよ」と言いました。するとある子がポツンと「みんな、ふざけていない」と言いました。「へえ、みんなはふざけていたの?」と聞くと「少し…」と答えます。
「ふざけることと真剣にやることは何が違うの?」「真剣にやらないとうまくならない」「何で?」「…できないことを直そうとしていないということだから…」。「このあとの練習、どうしますか?」「真剣にやる」……このあとの練習の空気が一変したことは言うまでもありません。「こうしろ」と言わなくても、子どもたちはちゃんと行動を正すことができるのです。
サッカーコーチでも教師でもその影響力は同じです。指導者の発する問いかけは、子どもの心の中にある「正しいアティチュード」を呼び起こすことができるのです。
※参考文献 「教えないスキル~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術」 佐伯夕利子 小学館新書 「叱らず、問いかける」 池上 正 ファミリー新書
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