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【映画感想137】ルックバック/押山清高(2024)ーつくることの中にある小さな光


■自己紹介


あまりにも語彙力がなさすぎるので週2で映画の感想を書き始めた映画好きの絵描きです。
しばらく止めていましたが週一ペースで更新していこうと思っています。今回は「ルックバック」を観ました。

■あらすじ

『学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の 4コマを載せたいと先生から告げられる...。』


※原作漫画



■映画感想(ネタバレあり)

全体的な感想と監督について

原作の良さをそのままに、漫画をアニメーションに変換するにあたって加えられたアレンジが素晴らしかったです。

この作品のテーマ、かなり気をつけないと監督自身の思想もトッピングされがちだと思うのですが(例えばオリキャラやエピソードを追加して120分にするなど)、過不足なく60分に収めてるところに原作に対するリスペクトを感じました。
配信作品ではなく、劇場公開作品で一般的ではない上映時間で通すのは一筋縄ではいかなかったんじゃないかなという気がします。

さらに漫画では表現に限界がある部分のディティールが細かくなってるというか、6年生になったシーンでの「だめだよ、藤野さんの邪魔しちゃ」というクラスメイトの声色の「バカにしてるわけじゃないけど以前のようなリスペクトはない」という絶妙なラインが個人的に生々しくてよかったです。
(原作を読み返したらこのセリフはありませんでした。)

あと勘違いかもしれないですが京本の本棚が映るシーン、保存用と鑑賞用で二冊づつ漫画買ってなかったですか?? 

蒼穹のファフナー等で元々アニメーターとして活躍されていた方らしく、監督としての次回作も気になります。

原作で炎上騒ぎになったセリフについて

原作で、京本が襲われるシーンでの犯人のセリフが精神疾患を想起させるのではと指摘があり差し替えられたことがありました。

しかし差し替え前のセリフが「2019年に起こった京都アニメーション放火事件の犯人の発言に似ている」という意見もあり、もし意図的にあのセリフにしていたのであれば終盤のifの世界線は、

「誰かが止めたところで、いずれ彼らは描く道に進んでいただろう」

「だからあなたの責任ではない」

という被害者の方と関わりのある人へのメッセージが込められているような気がします。
賛否両論あるのですが、個人的には改変前のセリフになってて良かったと思います。

京本について

大多数の鑑賞者が「うわああああああ」と共感性羞恥を発動しそうなゴリゴリにリアルな藤野の描写と比べて、京本のキャラクターがどうもフワッとしてて現実味がない気がしました。藤野と視点の物語のため心情の描写が少ないのは仕方ないのですが、藤野にリアリティがありすぎるゆえに京本の架空の人物感が強くなってしまうような。

なので、京本は創作者が一度は必ず出会うであろう「越えられない人物」の概念的なキャラクターなのではないかなと思いました。

個人的に憧れを抱いている相手って妙にぼんやりとしか見えなかったりする気がする。
仲の良さに関係なく。

知らない間にあなたも誰かの背中を押している(かもしれない)


もしかしたら藤野もフレームの外にいる誰かにとって、京本のような存在だったのではないかと思います。

絵が上手いクラスメイトとして、スポーツができる人として、友達がいる人として、人生をかけた何かを持ってる人として。

それは鑑賞者たるわたしたちにとってもきっと同じで、自分が知らない間に誰かから憧れや嫉妬を抱かれているのかもしれない。何かに打ち込む起爆剤になったり、密かに笑わせていたりするかもしれない。

いつか自分が居なくなった後、残したなにかが誰かの背中を押すことだってあるのかもしれない。

ここに何かをつくることへの救いがある気がしました。

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