子宮の病気のこと④全摘手術
ゾラデックスを打ってからは、典型的な更年期症状に悩まされた。
これが噂のホットフラッシュか。
瞬間的にブワッと来る暑さ、まさに”フラッシュ”だった。
でも手術が終わるまで、三ヶ月の辛抱と思っていたから、気持ちは楽だった。
10月頭、貧血も改善し、手術日が決まり入院予約した。
手術は11月15日。
個室か四人部屋か迷ったけど、婦人科の個室は、差額15000円~だった。
温泉旅館に泊まれる値段だ。温泉もないのに贅沢すぎる。
寝てるだけだし、もったいないと思って4人部屋を予約した。
(婦人科は4人部屋も、差額5000円かかった。)
約一か月前に、手術前の検査をした。
血液検査、レントゲン、心電図、尿検査、呼吸機能検査。
たしか血液は、6本くらい採られた。
すべての検査に問題はなかった。貧血も改善していた。
後日、家族と手術説明を聞き、麻酔や手術の同意書にサインした。
手術までの一か月は、友達に会ったり、ライブに行ったり、楽しく過ごした。ホットフラッシュはきつかったけど。
入院3日前、子宮の病気で半身麻酔で腹腔鏡手術をしたことがある友達に会った。
体にいいもの食べよう!って言われて、マクロビランチをごちそうになった。
4人部屋にしたことを言ったら、絶対にしんどいから個室にしな!!と何度も言われた。
保険に入ってるでしょ?そのための保険でしょ?彼女は力説した。
嫌な予感がしていたのか、勘が良かったのか、わたしは、一年くらい前に、自分の保険に婦人科疾病の特約を追加していた。
個室に変更しよう。
入院当日、朝10時に病院へいった。
手術は明日だ。
個室に変更したいと言ってみたけど、今は空いていないから、空き次第、移りましょうと言われた。
4人部屋は、なかなか快適だった。
ベット横には収納付きの壁があって、個室感があった。
カーテン閉めてて見えないけど、先客、じゃなくて、先患者は、一人だった。
術後らしくて、何度も吐いていて、何度も看護師さんが出入りしていた。
聞き耳立てて聞いていたら、硬膜外麻酔が体に合わなかったらしい。
私もこうなるのかな。
パジャマやタオルはレンタルにしたから、荷物は小さめのキャリーが一個。
ポータブルDVDプレイヤー、好きなアーティストのライブDVD数本、本数冊、わざわざレンタルしたポケットWi-Fi。
家事をしなくていい入院生活を満喫する気でいた。
病室を移るかもだから、荷物は出さないでおこう。
昼ご飯は、家族と病院のレストランでラーメンを食べた。
そのあと、病院のパン屋さんでコーヒーを買って飲んだ。
わたしはコーヒーが欠かせない。毎日飲む。
明日はコーヒーが飲めないから、あまりおいしくもないコーヒーをゆっくり飲んだ。
家族は帰り、暇になった私はレンタルパジャマに着替えて本を読み始めた。
同室の方はなんだかしんどそうだけど、今のところ、想像より全然快適だった。
午後は、看護師さんが臍掃除に来た。
腹腔鏡下手術の一番大きな穴がお臍だって、先生から聞いていた。
「おへそのそうじしますね~。ちょっと冷たいけどごめんね~」
看護師さんが、臍の穴にオリーブオイルを垂らした。
一分くらい放置してから、綿棒でくりくりしだした。
すごい奥までぐりぐりされた。
人に臍をいじられるのって変な気分だ。最後に消毒。
臍がきれいになると、また来ますね~と言って去っていった。
夕方、売店に行き、イチゴヨーグルトとC1000タケダのビタミンレモンを買ってきた。
夕飯は鶏肉ソテーだった。今夜21時以降は飲食禁止だ。
味わってゆっくり食べたけど、足りない。
毎日こんなご飯なら痩せるだろうな。
ヨーグルトを買っておいて正解だった。でもすぐには食べない。
リミットぎりぎりの21時前まで我慢して、ヨーグルトを食べ、ビタミンレモンを飲んだ。
パンやお菓子も買っておけば良かったと悔やんだけど、もう手遅れだ。
もう水も飲めない。本を読んで気を紛らわした。
手術当日。
朝、看護師さんが点滴を入れに来た。
点滴は、チューブがそのまま腕に刺さってて、見た目が痛々しかった。
家族に同情してもらおうと思って、自撮りして送った。
手術予定は13時。
空腹は平気だけど、水が飲めないのがつらかった。
歯磨きの時、うがいしながら、口の中で水を味わった。
病室に主治医がきた。
「気分はどうですか?がんばりましょうね。」と言われて、ちょっと安心した。
お昼ごろ、家族が来た。
家族が飲んでいたペットボトル飲料をうらめしく眺めた。
血栓防止の弾性ストッキングを履き、手術着に着替えて雑談してると、看護師さんが迎えに来た。
いよいよか。
看護師さん、家族と一緒に、点滴をガラガラしながら、歩いてエレベーターに乗った。
徒歩なのか!!
ストレッチャーとか車いすで、病人らしく向かうもんだと思っていた。
分厚い扉の前で、じゃあ手術室に入りますと看護師さんが言った。
じゃあね~がんばって~と家族に言われ、私も、じゃあね~って軽く言って手術室に入った。徒歩で。
ドラマで観ていたのと違って、軽くて間抜けな入室だった。
中には、たくさん手術室があり、キョロキョロしながら奥へ進んだ。
手術室番号が、カラフルな色で書いてあった。
私は7番の手術室だった。
こんなたくさん手術室があるのに、ラッキーセブン。
この手術、もらったな。間違いなく、成功すると思った。
手術台の周りには、男女交えて5~6人いたと思う。
名前と生年月日を確認された。
手術メンバーが軽く自己紹介してくださり、よろしくお願いしますと言われた。
執刀医の主治医は、その時点ではいなかった。
じゃあ、手術台に乗りましょうと言われて、普通のベットより断然高さのある手術台に、腕の力で這い上がるように、どっこらしょと乗って寝ころんだ。
これも自力なのか!ドラマでは出てこない場面だ。
寝ている自分の周りに何人も人がいて、自分をのぞき込んでいるのは、なんとも言えない変な気持ちだった。圧を感じた。
私の死の間際にも、こんな風に誰かが上からのぞき込むのかなと思った。
硬膜外麻酔を入れるので、横を向いて背骨がくっきり出るように丸まるようにと言われた。
素直で真面目な私は、期待に応えるべく、一生懸命ダンゴムシみたいに丸くなった。
「naruさ~ん、これが今日、一番痛い処置ですよ~、このあとは、なんにも痛くないからね~」
男性麻酔医に優しく言われた。
痛いのか、、。
背中に3人くらい集まってきて、ゴソゴソし始めて覚悟したけど、毎月お腹に打ってた、ゾラデックス注射のほうがよっほど痛かったから安堵した。
指示されてまた仰向けに戻った。
「naruさ~ん、では、麻酔いれますね~すぐに眠ってしまいますからね~」
さっきと同じ麻酔医、いちいち名前を呼んでくれる。
全身麻酔。
ついにこのときが来た。
何秒数えられるか、試すつもりだった。
青い不織布の手術帽子をかぶって寝ころぶ私に、酸素マスクみたいなものが近づいてきた。
1、2----
「naruさ~ん、終わりましたよ~」
なんか声が聞こえる。
家族の声もなんとなく聞こえる。
聞こえるけど、目を開けることが出来ない。
もう終わったのか、よかった。
いつのまに終わったんだ。
全然気付かなかった。
当たり前か。
頭がぼんやりしていて、たぶんまたすぐ眠りに落ちた。
~続く~
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