読んだ本 2024年1月号 7冊

ビジネス書を5冊、技術書を2冊読んだ。


コーポレートファイナンス 戦略と実践

★★★★☆
会社の設立と成長、上場後のIRやM&Aまで、時間の経過による企業の成長を Life of a Company と呼ぶ図式で捉え、各ステップで必要になる前提知識や財務戦略の解説がされている。
実在する企業の実績や数字を示して説明がされているため、実感を持って読み進めることができる。一方で、指標の計算方法は知っているが意義が分からないといった読者に向けて書かれているように読める部分もあり、各指標について知識がある状態で読むとより理解できるのだろうと感じた。

第2章では、B/SとP/Lについてわかりやすい説明がある。

B/S は、ある時点において、資金をどう調達したかとそれをどう運用したかの状況を示しています。企業の財務状況をある瞬間のスナップショットでとらえた「ストック」の概念です。... P/L は1年間における取引活動の結果、どれだけ儲かったか(または損したか)を示しており、これは「フロー」の概念ということができます。

P/Lはフロー、B/Sはストック p.38

キャッシュフローについても、キャッシュフローを営業CF、投資CF、財務CFと分解し、眼鏡業界3社の実績を比較することで、企業のライフステージとキャッシュフローの関係性が示されていて、これもわかりやすい。

ROAとROICを用いた企業のキャラクター分析や、ROAとROEの差と財務レバレッジの関係の説明もあり勉強になる。

続けて、現在価値、加重平均資本コスト(WACC)、CAPMとβ、DCF法と続くが、これらについては実際の分析や他の書籍もあたらないと理解し切れないだろうと感じた。存在を頭に入れて今後のキャッチアップの材料としたい。

本書の後半ではM&Aや配当などよりケースバイケースの内容が多くなり、これらについては数値の実体験を持った上で読み進める必要があると感じた。これも今後のキャッチアップの材料としたい。
1/6

会社は頭から腐る

★★★★★
著者が産業再生機構に携わった経験から、ゲゼルシャフト(=機能対組織)とゲイマンシャフト(=共同体組織)の対比などを軸にして80年代からの組織経営と世界の傾向について書かれている。本書の大半は著者の体験からくる言葉で書かれていて具体的な事例の紹介は少ないが、著者が組織経営について感じる課題感はとてもよく伝わる。

どんなに素晴らしい、商品アイデアや事業モデルを思いついても、人間が集団として整合的に機能し、さらにそれを顧客という人間の集合体が価値のあるものとして評価し続けなくては、この営為は継続することができない。しかしこの当たり前のことを私たちは時として忘れる。もっと正確にいえば、人という情緒的で、それぞれに異なる背景、個性、動機づけをもった存在が、共通の目的に向かって共同することの難しさを忘れてしまう。

経営とは人の営為 p.17

本書の全体を通して、日本的な組織が向かう先について言及している。二一世紀も四半世紀が過ぎようとしている現在にそのままの理論が成り立つとは思えないが、一観点として参考になる。

利害関係で成立するゲゼルシャフト組織では、メンバーを誘引する要素は経済的な報酬に頼らざるを得ない。これは企業にとって、大きなコスト負担を意味する。組織内の人間関係も契約化するため、社内の取引コスト、情報コストも上昇する。一方の共同体のゲイマンシャフトでは、組織への帰属意識や貢献が、働くインセンティブになる。...ゲイマンシャフト的な特性はそれこそ日本の深層文化なので、それを否定するのは生産的ではない。むしろ二一世紀的な脈絡で新たな正反合をやるべき時期に日本がきている。

変革のカギは、よくも悪くも自社のDNAにある p.94

他にも著者が感じている危機感を言語化した表現が多くあり、共通した観点を見つけ出して組織に向き合うことで日々の行動に活かせるものがあるのではないかと感じられる一冊だった。

金融危機が去り、景気が小康状態となる中、またぞろ法人実在説的な行動があちこちで起きている。事業を愛するのではなく、仕事や仲間を愛するのではなく、法人格そのものが誇りになる。こうした行動は、今なお拡大を続けているのではないか。この感覚がなくならない限り、また同じことが繰り返される可能性は高いと私は見ている。

その会社が何のためにあるのか、が忘れられたとき、悲劇は起こる p.174

1/6

心理学的経営

★★★★☆
心理学と哲学の観点から経営や人事について述べられている。心理学と哲学が混ざっているように感じる、主観と客観が混在しているように見えるのは、経営という曖昧な領域について定式化できない問題を扱っているからではないかと思う。

本書はリーダーシップの特性の分析や職務適正、人事適正を心理学的な観点から述べる解説に特化している。
マネジメントと心理学の成果を組み合わせるのであれば『マネジメント 3.0』といった書籍の方がとっつきやすく応用が効く。達成動機の個別の研究などは専門の書籍に頼るのが詳しい。

本書は6つの章から構成されている。

第一章 モティベーション・マネジメント
第二章 小集団と人間関係
第三章 組織の活性化
第四章 リーダシップと管理能力
第五章 適正と人事
第六章 個性化を求めて

モチベーションの理論では数式が記載されているが、定量化の手段がないので概念として理解するしかなく、Kindle版ではシグマが横向きになっていて+なのか×なのかも正しく読み取れているか自信がない。内的動機づけに関して「職務設計の中核的五次元」が紹介されているが、気にすべきはその注意点の方だろう。

注意すべきは、ハックマンとオールダムによれば、これらの職務次元のどれを高めても、内的動機づけを高める効果がない間合いがあるという点である。それは、当人の能力と技能が著しく低い場合、あるいは当人の成長への欲求が低い場合、また当人が現在の給与や作業条件などの環境条件に不満を持っている場合であり、これらの追加的要因を配慮しなければならないという。

職務設計の中核的五次元 p.35

組織の活性化についての記述は耳が痛い。

「一に採用」と言ったのは、新しい人的資源の調達という企業のリクルーティング活動が、実は組織活性化の戦略としてもきわめて重要であることを強調するためである。

一に採用 p.83

管理者やリーダシップについての記述では、管理者早期発見計画(EIMP)、リーダーシップ訓練プログラム(LDP)、RODシステム、MBTIなどいくつかの研究の成果やパーソナリティ・テストについて触れられていて、これらを本書の外でより詳しく調べることには意味があるだろうと感じた。

合意できる箇所と一研究結果の知識として捉えた方がいい箇所が混在していて注意が必要だが、本書の最後にもまだ改善の余地があると記されている。本書は良書ではあるが決して新しくはない本なので、領域ごとに新しい情報で更新する必要性はありそうである。

心理学的経営にとって大切なのは、キレイごとではすまない現実の世界でアンビバレントなコンフリクトを受容し、それを乗り越えるヒューマニズムではないだろうか。... 以上のような意味での経営論の展開は本書においては十分ではないので、いずれ稿を改める機会があればという思いが残っている。

あとがき p.200

1/7

世界一流エンジニアの思考法


★★★★☆
著者がマイクロソフトの Azure Functions の開発チームに所属した経験を活かして、一流エンジニアの考え方などがまとめられている。著者の note https://note.com/simplearchitect にも本書の内容となっている知見がまとめられていて勉強になる。

本文には太字で背景色が付けられている主張があり、そのほとんどは共感できる内容だった。要所要所で共感できることを前提にした上で、本書を読む上で認識した方がいいだろうと感じた点がいくつかあった。

・著者の体験は、主にエンジニアが価値を判断してタスクの優先度を決められるようなプロダクトの開発において、ステークホルダーとのコミュニケーションを含めてうまくまわっているスクラムのチーム開発を元にして書かれている
・著者は自身のパフォーマンスを引き出す為に、毎朝5時に起きて高強度インターバルトレーニング(HIIT)をし、自分の時間を確保するために時間の管理をして睡眠時間も確保している

バックログの優先順位については、日本とアメリカの違いではなく技術の一つであって、『ユーザーストーリーマッピング』という書籍が詳しい。

脳みその負荷については、最近話題になった『プログラマ脳』や『ルールズ・オブ・プログラミング』などでも言及されているが、そもそも脳への負荷を考慮したプログラムが書かれている必要があるだろうと思う。

本書で言及されている tips がそのまま読者がいる環境にも適用できるだろうと考えると恐らく幸せになれないので、本書の環境と自身が置かれた環境や関わっているプロダクトの特性の違いを認識した上で、そのギャップを埋めるためにどういった行動が必要なのかを併せて考える必要があるだろうと感じた。
1/8

ミクロ経済学の力

★★★☆☆
本書は第I部「価格理論」、第Ⅱ部「ゲーム理論と情報の経済学」の2部構成になっている。

理論を説明する際には、「それを使うとどんな料理ができるか」ということを、理論とよく合致することが十分納得できるような現実の事例を提示することによって明らかにする

はじめに p.v

と書かれているが、納得できるかどうかは人による。大学教育で数式に多少触れた経験があり、一方でミクロ経済学には触れたことのない私のような読者にとってはこの分野に触れるきっかけとしてはいいかもしれないが、より形式的なテキストで学ぶ必要性を感じた。

第I部「価格理論」では、予算を制約条件とした無差別曲線の最大値問題からはじまり、生産計画や企業間の均衡といった話題が解説される。
凸である2変数関数のグラフの概念図とともに説明が進む中で、この分野の慣例なのかもしれないが、どうしても絵が適当に見えてしまう。現実の問題を例として具体的な数値をパラメータとして選択した場合のグラフのプロットは記載して欲しい。
また、とくに生産計画では労働力と生産性についてなどでは、かなり簡単な関係性を仮定している。仮定が簡単なのはいいが、それによってうまく扱うことのできる問題とそうでない問題の境界が曖昧にでも把握できないと適用は難しい。そういう意味で「現実の事例」からは離れているように感じた。

第Ⅱ部「ゲーム理論と情報の経済学」は、第I部よりも数式が少なく、感覚的な展開も比較的多い。第Ⅱ部については、より他のテキストをあたる必要性を感じた。
終章のイデオロギーの話は好みによるが、蛇足であり、さまざまな理論の適用範囲と妥当性を考えることが真摯な態度であって、早すぎる結論は理解の妨げになる可能性があるのでほどほどにしておくべきだろう。
1/28

入門 eBPF

★★★★★
日頃からカーネルモジュールなどに触れていたりクラウドネイティブな環境で作業をされている方にとっては eBPF の入門として読めるのだろうが、ユーザ空間のアプリケーションより低レイヤには触れる機会の少ない私のような読者にとっては、本書で紹介される技術の進歩のモチベーションに共感するところから敷居が高い。
とはいえ、低レイヤ寄りの技術に触れるいいきっかけになった。

以前 Ubuntu をインストールしたノートPCが手元にあったので久しぶりに引っ張り出して、ごく簡単な eBPF のプログラムなどを実行して遊びながら読み進めた。また、kprobes やカーネルモジュールなど eBPF 以前の仕組みについても軽く調べながら本書を読むことで、多少の理解の助けになった。

本書は BCC による eBPF プログラム、CO-RE アプローチ、eBPF 検証器、XDP、 Cilium のような製品の例、C 言語だけでなく Go や Rust を用いた開発環境の紹介など、eBPF に関する幾つかの話題についてコードを交えながら詳しく解説している。

全体で11章から構成されている。各章でテーマは分かれているものの、「*章に書いてあるように」といった記述がかなり多く、主張の背景て触れている内容について把握するために文章を行き来する必要がある。
今回は ePUB 形式で読んだが、読んでいる場所を覚えておくために脳のスタックを結構消費するので、紙媒体の方が読みやすいかもしれない。

本書の最後に書かれている記述が、スタンスを明らかにしている。

eBPFプログラミングの知識は現在、持っていることは望ましいが、持っている人はまだまだ珍しいというスキルです。この状況は今後も続くでしょう。これは、ビジネスアプリケーションやゲームの開発スキルに対するカーネル開発スキルに近いものがあります。システムの下位レベルに飛び込み、重要な基盤系ツールを作りたい場合は、eBPFのスキルが役立ちます。そのときに本書が役立つことを願います。

11.4 eBPFはプラットフォームであり、機能ではない

いつか役に立つかもしれないので、記憶に留めておきたい。
1/29

ソフトウェアアーキテクチャメトリクス

★★★☆☆
分量は多くなく、気軽に読める。

本書の対象読者はソフトウェアアーキテクトとされていて、経験豊富な10人の筆者が多様な視点とアイデアを提示していると書かれているが、5人が「適用度関数」の紹介をしていて、担当領域の棲み分けをした方がよかったのではないかという印象を受けた。

参考になる部分ももちろんあるが、情報のまとまりのなさと重複に気を取られてしまった。『進化的アーキテクチャ』は読んでいたいので後ほど読みたい。
1/31


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