読んだ本 2023年10月号 4冊
ビジネス書を1冊、プロダクトマネジメントについての本を2冊、社会学についての本を1冊読んだ。
クルーシャル・アカウンタビリティ 期待を裏切る人、約束を守らない人と向き合い、課題を解決する対話術
★★★★☆
前作『クルーシャル・カンバセーション』に続き、人と向き合う際に誠意を持って接するための考え方などが書かれている。前作と比較して、「この人はなぜこんなことをしたと思うか」というような問題の原因を何に帰属されるかという観点が強く書かれていて、ピープルマネジメントに対して有用であると感じた。
相当に正義感が強い内容であるし、提案されているフレームワークが使いづらかったりと欠点はあるが、学びのある本ではある。
本書は3部構成になっている。
第Ⅰ部 自己を改善する
第Ⅱ部 安心感を与える
第Ⅲ部 行動に移す
第Ⅰ部では、主に他者によって発生した問題に対する原因をどのように捉えるべきかが書かれている。
もちろん、実際には理性的でない振る舞いや悪意を考慮しないといけないだろうが、多くの場面で自分の認識を見直すきっかけになるような言葉ではある。
第Ⅱ部では、お世辞や相手を操作するような話し方などすべきでないコミュニケーション、相手と問題のストーリーを共有するための方法が書かれている。
また、同期と能力が一体であることについての言及があり、たしかに見誤りやすい要素である。楽観的とも見える記述だが、実際に尻を叩くに至るのは能力の壁を取り去ることを諦めた時だろう。
第Ⅲ部には、考え方のフレームワークや、日常生活のいくつかの例えが記載されている。第Ⅱ部の繰り返しになっている部分もあり、分かりやすい例でこれまでの確認をするための補足のようなものと捉えていいだろう。
前作と比較して、より個人に対する議論の方法に注目した内容となっている。理想論を抱きすぎるのも危険だが、一つの考え方として職種を問わず有益であると感じた。
10/9
プロダクトマネージャーのしごと
★★★★★
一ソフトウェアエンジニアとして、プロダクトマネージャーに期待することが非常にうまく言語化されていると感じた。
いくらエンジニアが横から口を出そうがプロダクトのアウトカムに責任を持てるのはプロダクトマネージャーであり、本書はプロダクトマネージャーがその責任を果たすために有益であろう記述がされている。本職のプロダクトマネージャーの方がどう感じるかは分からない。
本書は16章から構成されている。
1章 プロダクトマネジメントの実践 / 2章 プロダクトマネジメントのCOREスキル / 3章 好奇心をあらわにする / 4章 過剰コミュニケーションの技術 / 5章 シニアステークホルダーと働く / 6章 ユーザーに話しかける / 7章 「ベストプラクティス」のワーストなところ / 8章 アジャイルについての素晴らしくも残念な真実 / 9章 ドキュメントは無限に時間を浪費する / 10章 ビジョン、ミッション、達成目標、戦略を始めとしたイケてる言葉たち / 11章 「データ、舵を取れ!」 / 12章 優先順位付け:すべてのよりどころ / 13章 おうちでやってみよう:リモートワークの試練と困難 / 14章 プロダクトマネージャーの中のマネージャー / 15章 良いときと悪いとき / 16章 どんなことでも
それぞれの章の末尾には「チェックリスト」という形でその章の重要な主張が箇条書きでまとめられていて、要点の確認や振り返りに役にたつ。
2章では、プロダクトマネージャーに必要とされるスキルがまとめられている。
各項目の詳細は本文に書かれており、どれも納得感がある。
以降の文章では、プロダクトマネージャーに関する振る舞いや考え方について書かれている。
上のような価値観は外野から強制すればそれこそ組織が壊れるだろうが、チームの一員としてサポートをする機会が持てたときのために共通の価値観を知っておくことには意味があるだろうと感じる。
付録にはプロダクトマネジメントの関連書籍が複数掲載されていて、本書を読んだ後に読んでみたいと思える書籍が並んでいる。
10/23
プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
★★★★☆
アウトプットではなくアウトカムに注力するプロダクト主導を目指すために、役割、戦略、プロセス、組織の階層に分けてそれぞれ解説がされる。
示唆に富んだ記述も多く、参考になる。
一方で、マーケットリーという架空の企業を想定した説明であること、事例に挙げられている企業の例が少ないこと(Netflix が例に挙げられる章が多い)、後半はコンサルの理想論を聞いている気持ちになり人を選ぶであろうことなどが気になった。
本書は5部25章の構成になっている。
第Ⅰ部 ビルドトラップ
1章 価値交換システム、2章 価値交換システムの制約、3章 プロジェクト / プロダクト / サービス、4章 プロダクト主導組織、5章 私たちが知っていること、知らないこと
第Ⅱ部 プロダクトマネージャーの役割
6章 悪いプロダクトマネージャーの典型、7章 優れたプロダクトマネージャー、8章 プロダクトマネージャーのキャリアパス、9章 チームを構成する
第Ⅲ部 戦略
10章 戦略とは何か?、11章 戦略のギャップ、12章 良い戦略フレームワークを作る、13章 企業レベルでのビジョンと戦略的意図、14章 プロダクトビジョンとポートフォリオ
第Ⅳ部 プロダクトマネジメントプロセス
15章 プロダクトのカタ、16章 方向性の理解と成功指標の設定、17章 問題の探索、18章 ソリューションの探索、19章 ソリューションの構築と最適化
第Ⅴ部 プロダクト主導組織
20章 アウトカムに注目したコミュニケーション、21章 報酬とインセンティブ、22章 安全と学習、23章 予算編成、24章 顧客中心主義、25章 マーケットリー:プロダクト主導企業
本書では、機能のリリース(アウトプット)に注力してアウトカムを見れていない状態を「ビルドトラップ」と称し、階層ごとに説明がされている。
「役割」では、プロジェクトマネージャーとプロダクトマネージャーの違いや、求められる能力について書かれていて、実際はどうあれ共感はできる内容だと思う。
「戦略」は少々漠然としている。会社のビジョンなど個人にコントロールできる要素が少なく、実践が難しい。
続く「プロセス」は業務の方法論に近い表現が多く、参考になる記述もある。
本書を通じて、ビルドトラップという単語が示す状態は理解することができ、プロダクト開発の方向性や手段などでアウトカムに繋がりづらい動きを変えるきっかけにはなるだろうと感じた。
10/29
ニクラス・ルーマン入門―社会システム理論とは何か
ニクラム・ルーマンが論じた「社会システム理論」について書かれている。社会学を学んだことがなく、前提知識の不足によって最低限の理解すらできているか疑わしいが、ルーマンの社会学の一端に触れる体験はできた。
ルーマンの社会システムは、人間や構造に注目するのではなく、機能に注目するらしい。
この傾向は本書の中で繰り返し主張されている。
上記の「環境」も含め、システムを捉えるために「オートポイエティック・システム」「コミュニケーション」「2次観察」などの概念が提唱されている。各機能システムが世界を解釈するために用いる「バイナリーコード」の導入など、おもしろい。
第4章には「政治システム」「法システム」「経済システム」など個別のシステムの捉え方も記述されている。
この分野に明るくない読者としての感想は、課題感はなんとなくは分かるものの、具体の話になると論理展開が弱くみえ、問題の解決に至るまでの道のりが想像できなかった。これはこの理論の目的が実際の問題の解決にではなく、問題を解決するための現在の枠組みに対する認識を改めることにあるからではないかと思う。
本書の終盤にはルーマンの理論の欠点をみなせる箇所の指摘もあり、話の展開もわかりやすく書かれているので、入門として読むにはちょうどいい本なのではないかと感じた。
10/31
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