読んだ本 2023年10月号 4冊

ビジネス書を1冊、プロダクトマネジメントについての本を2冊、社会学についての本を1冊読んだ。


クルーシャル・アカウンタビリティ 期待を裏切る人、約束を守らない人と向き合い、課題を解決する対話術

★★★★☆
前作『クルーシャル・カンバセーション』に続き、人と向き合う際に誠意を持って接するための考え方などが書かれている。前作と比較して、「この人はなぜこんなことをしたと思うか」というような問題の原因を何に帰属されるかという観点が強く書かれていて、ピープルマネジメントに対して有用であると感じた。
相当に正義感が強い内容であるし、提案されているフレームワークが使いづらかったりと欠点はあるが、学びのある本ではある。

本書は3部構成になっている。

第Ⅰ部 自己を改善する
第Ⅱ部 安心感を与える
第Ⅲ部 行動に移す

第Ⅰ部では、主に他者によって発生した問題に対する原因をどのように捉えるべきかが書かれている。

責任ある会話の達人は、日常的にこのような「相手を人間扱いした問い」を立てて、相手の属性だけではなく状況を見て判断する。個人の性格だけではなく状況を考えた上で、次のような問いを立てることができるのだ。「この行動に影響を及ぼしている要素は他に何があるだろうか。何がこの行動につながったのか。本来は理性的なのに、非理性的で無責任な行動をとっているように見えるとしたら、自分は何か見落としているのではないか」

p.79 解決策 違うストーリーを組み立てる

もちろん、実際には理性的でない振る舞いや悪意を考慮しないといけないだろうが、多くの場面で自分の認識を見直すきっかけになるような言葉ではある。

第Ⅱ部では、お世辞や相手を操作するような話し方などすべきでないコミュニケーション、相手と問題のストーリーを共有するための方法が書かれている。

事実を言うのではなく、曖昧で感情をあおるようなストーリーを語ったら、相手は感情的になるばかりだ。どの行動があなたの感情の原因になっているのか、これでは理解できない。共有すべきなのは事実だ。憶測でものを言わず、何が起きたのか、事実を客観的に説明しよう。

p.122 ギャップの説明

また、同期と能力が一体であることについての言及があり、たしかに見誤りやすい要素である。楽観的とも見える記述だが、実際に尻を叩くに至るのは能力の壁を取り去ることを諦めた時だろう。

あなたが賢明で冷静な上司なら、カイルには仕事への意欲があったのに”できなかった”ことはわかるだろう。そこへいくら意欲を引き出そうとしても、なんの解決にもならない。それどころか、それは残酷な仕打ちだ。カイルにとって必要なのは、目の前にある壁を取り除いてやることであり、尻を叩くことではない。そこで考えるべきは、どうしたら能力の壁を取り除けるのか、どうしたら相手が楽に、苦痛を伴うことなく業務を遂行できるかということだ。

p.173 診断を間違えるな

第Ⅲ部には、考え方のフレームワークや、日常生活のいくつかの例えが記載されている。第Ⅱ部の繰り返しになっている部分もあり、分かりやすい例でこれまでの確認をするための補足のようなものと捉えていいだろう。
前作と比較して、より個人に対する議論の方法に注目した内容となっている。理想論を抱きすぎるのも危険だが、一つの考え方として職種を問わず有益であると感じた。
10/9

プロダクトマネージャーのしごと

★★★★★
一ソフトウェアエンジニアとして、プロダクトマネージャーに期待することが非常にうまく言語化されていると感じた。

いくらエンジニアが横から口を出そうがプロダクトのアウトカムに責任を持てるのはプロダクトマネージャーであり、本書はプロダクトマネージャーがその責任を果たすために有益であろう記述がされている。本職のプロダクトマネージャーの方がどう感じるかは分からない。

本書は16章から構成されている。

1章 プロダクトマネジメントの実践 / 2章 プロダクトマネジメントのCOREスキル / 3章 好奇心をあらわにする / 4章 過剰コミュニケーションの技術 / 5章 シニアステークホルダーと働く / 6章 ユーザーに話しかける / 7章 「ベストプラクティス」のワーストなところ / 8章 アジャイルについての素晴らしくも残念な真実 / 9章 ドキュメントは無限に時間を浪費する / 10章 ビジョン、ミッション、達成目標、戦略を始めとしたイケてる言葉たち / 11章 「データ、舵を取れ!」 / 12章 優先順位付け:すべてのよりどころ / 13章 おうちでやってみよう:リモートワークの試練と困難 / 14章 プロダクトマネージャーの中のマネージャー / 15章 良いときと悪いとき / 16章 どんなことでも

それぞれの章の末尾には「チェックリスト」という形でその章の重要な主張が箇条書きでまとめられていて、要点の確認や振り返りに役にたつ。

2章では、プロダクトマネージャーに必要とされるスキルがまとめられている。

プロダクトマネージャーは下記のことができる必要があります。
・ステークホルダーとコミュニケーション(Communicate)する
・持続的に成功するチームを組織化(Organize)する
・プロダクトのユーザーのニーズとゴールをリサーチ(Research)する
・プロダクトチームがゴールに到達するための日々のタスクを実行(Execute)する

p.18 プロダクトマネジメントのCOREスキル

各項目の詳細は本文に書かれており、どれも納得感がある。
以降の文章では、プロダクトマネージャーに関する振る舞いや考え方について書かれている。

私たちの仕事はシステムを改善し、ビジネスやユーザーに対するアウトカムを継続的に改善し続けることです。

p.52 すべてがあなたのせいではない。アウトカムは意図より重要

デザイナー:デザインを4種類作ってみたんだけど、どれがいい?...デザイナーにプロジェクトのゴールにいちばん合っている選択肢は何かを尋ねることで、デザイナーに対するあなたの信頼を示すことができます。

p.67 過剰コミュニケーションの実践

ユーザーニーズが社内政治でかき消されないようにしましょう。ユーザーニーズを意思決定の指針にして、シニアリーダーとのミーティングでユーザーの視点を活かしましょう。

p.93 シニアステークホルダーと働く

「業界トップ」企業のケーススタディのほとんどは、言ってしまえば、採用のためのプロパガンダです。

p.111 誇張を鵜呑みにしない

制約と限界のなかでベストを尽くすところから始めるのが、結果として制約を取り除き、限界を超えるいちばんの道です。

p.114 現実と恋に落ちる

アジャイルはたった1つの規範的なルールに従うというものではなく、むしろ、価値観に沿ったプラクティスを設計し実行するものです。その価値観の中心にあるのは、人間の独自性と複雑性を受け入れることです。個人を心から尊敬することの意味は、肩書きや組織図を超えて現実に共に働く相手を理解することなのです。

p.129 アジャイルマニフェストに目を向ける

上のような価値観は外野から強制すればそれこそ組織が壊れるだろうが、チームの一員としてサポートをする機会が持てたときのために共通の価値観を知っておくことには意味があるだろうと感じる。
付録にはプロダクトマネジメントの関連書籍が複数掲載されていて、本書を読んだ後に読んでみたいと思える書籍が並んでいる。
10/23

プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける

★★★★☆
アウトプットではなくアウトカムに注力するプロダクト主導を目指すために、役割、戦略、プロセス、組織の階層に分けてそれぞれ解説がされる。

示唆に富んだ記述も多く、参考になる。
一方で、マーケットリーという架空の企業を想定した説明であること、事例に挙げられている企業の例が少ないこと(Netflix が例に挙げられる章が多い)、後半はコンサルの理想論を聞いている気持ちになり人を選ぶであろうことなどが気になった。

本書は5部25章の構成になっている。

第Ⅰ部 ビルドトラップ
 1章 価値交換システム、2章 価値交換システムの制約、3章 プロジェクト / プロダクト / サービス、4章 プロダクト主導組織、5章 私たちが知っていること、知らないこと
第Ⅱ部 プロダクトマネージャーの役割
 6章 悪いプロダクトマネージャーの典型、7章 優れたプロダクトマネージャー、8章 プロダクトマネージャーのキャリアパス、9章 チームを構成する
第Ⅲ部 戦略
 10章 戦略とは何か?、11章 戦略のギャップ、12章 良い戦略フレームワークを作る、13章 企業レベルでのビジョンと戦略的意図、14章 プロダクトビジョンとポートフォリオ
第Ⅳ部 プロダクトマネジメントプロセス
 15章 プロダクトのカタ、16章 方向性の理解と成功指標の設定、17章 問題の探索、18章 ソリューションの探索、19章 ソリューションの構築と最適化
第Ⅴ部 プロダクト主導組織
 20章 アウトカムに注目したコミュニケーション、21章 報酬とインセンティブ、22章 安全と学習、23章 予算編成、24章 顧客中心主義、25章 マーケットリー:プロダクト主導企業

本書では、機能のリリース(アウトプット)に注力してアウトカムを見れていない状態を「ビルドトラップ」と称し、階層ごとに説明がされている。

「役割」では、プロジェクトマネージャーとプロダクトマネージャーの違いや、求められる能力について書かれていて、実際はどうあれ共感はできる内容だと思う。

プロジェクトマネージャーは「いつ」に責任を持ちます。...プロダクトマネージャーは「なぜ」に責任を持ちます。なぜこれを作るのか?どうやって顧客に価値を届けるのか?ビジネス目標を達成する上でどう役に立つのか?このようなことに責任を持ちます。

p.32 悪いプロダクトマネージャーの典型

プロダクトマネージャーに技術の素養は必要ですが、精通している必要はありません。つまり、開発者を会話したりトレードオフの決定を下したりできるくらいに技術を理解していれば構いません。機能や改善の複雑性を理解して開発者に正しい質問ができればよいのです。

p.32 優れたプロダクトマネージャー

「戦略」は少々漠然としている。会社のビジョンなど個人にコントロールできる要素が少なく、実践が難しい。

続く「プロセス」は業務の方法論に近い表現が多く、参考になる記述もある。

『リーン・スタートアップ』が出版されてからというもの、企業は実験のテクニックを取り入れてきましたが、多くの企業は間違った理由で取り入れています。みんな理想的なMVP(Minimum Viable Product)を作ろうとしています。MVPは同書の中で実験として取り上げられているにも関わらずです。

p.133 ソリューションの探索

本書を通じて、ビルドトラップという単語が示す状態は理解することができ、プロダクト開発の方向性や手段などでアウトカムに繋がりづらい動きを変えるきっかけにはなるだろうと感じた。
10/29

ニクラス・ルーマン入門―社会システム理論とは何か

★★★★☆

社会学は理論的危機に陥っている。経験的研究は、全般的には成功を収め、知識の増大をもたらしてきたが、社会学にとっての統一的理論を生み出すことはできなかった。

p.12 社会の理論

ニクラム・ルーマンが論じた「社会システム理論」について書かれている。社会学を学んだことがなく、前提知識の不足によって最低限の理解すらできているか疑わしいが、ルーマンの社会学の一端に触れる体験はできた。

ルーマンの社会システムは、人間や構造に注目するのではなく、機能に注目するらしい。

彼のアプローチは機能を中心とするものであり、だからこそ(パーソンズ的な)構造論的な機能主義から機能主義的ー構造論的システム理論への転換を実行すると主要したのであった。

p.20 社会学的啓蒙

社会を構成するものとして人間を強調することは、領土によって社会を定義することが中身がなさすぎるのと同様に、社会の概念としては多くのことを含意しすぎる。

p. 48 社会システム

この傾向は本書の中で繰り返し主張されている。

実際のところ、あらゆる経験は、ヒューマニズムから私たちを救い出してくれる理論の方が好ましいと思わせる。

p. 104 個人再考

この反人間主義の立場が提案するのは、人間は社会の一部ではなく、社会の環境に属するということである。

p. 105 個人再考

上記の「環境」も含め、システムを捉えるために「オートポイエティック・システム」「コミュニケーション」「2次観察」などの概念が提唱されている。各機能システムが世界を解釈するために用いる「バイナリーコード」の導入など、おもしろい。

各機能システムは、「特有の問題に対する高度な感受性」を自ら生み出すと同時に、他のシステムの作動の論理も含めて「それ以外のあらゆることに対する無関心」をも生み出す。

p. 156 バイナリーコード

社会およびその機能システムを道徳的に評価することを基軸とするような社会学理論は、的を射ていないということになるだろう。そのような理論は、近代社会が基本的に非道徳的に構成されていることを見損なっている。

p. 158 バイナリーコード

第4章には「政治システム」「法システム」「経済システム」など個別のシステムの捉え方も記述されている。

この分野に明るくない読者としての感想は、課題感はなんとなくは分かるものの、具体の話になると論理展開が弱くみえ、問題の解決に至るまでの道のりが想像できなかった。これはこの理論の目的が実際の問題の解決にではなく、問題を解決するための現在の枠組みに対する認識を改めることにあるからではないかと思う。

本書の終盤にはルーマンの理論の欠点をみなせる箇所の指摘もあり、話の展開もわかりやすく書かれているので、入門として読むにはちょうどいい本なのではないかと感じた。
10/31


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