読んだ本 2024年3月号 6冊


★★★☆☆ / WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源

原題は『The WEIRDest People in the World: How the West Became Psychologically Peculiar and Particularly Prosperous』で、WEIRD は Western, Educated, Industrialized, Rich and Democratic のそれぞれの単語の頭文字をとったものである。
本書はいわゆる「現代人」の心理について書かれているのではなく、心理学の研究対象として偏ったサンプリングをされて「現代人」と見做されている特定の性質を持った人々について書かれている。

従って、西洋の宗教的な環境から文化が構成されることについての記述が多く、文化的な背景が不足した状態では理解の何度が高い。

WEIRDな人々にとって、神といえばキリスト教、キリスト教といえば慈悲心なので、プライム刺激としての神(神プライム)が、無意識のうちに慈善活動を連想させ、その結果、相手に提供する金額が増えたのかもしれない。

第4章 神様が見ておられる、正しい行ないをなさい!

本書はここで、教会は、親族ベースのグローバルな差異形成に寄与したのか、したとすればどの程度なのかという点に関心を向け、それを知る方法として、親族関係の緊密度と、教会の影響を受けた期間の関連性を吟味する。

教会が親族関係を変え、人々の心理を変えた

WEIRD な人々に関する事例の紹介は多くあるので、WEIRD な人々の調査結果が色々な分野に与える影響や問題点についての認識をあらかじめ持っている人にとっては得るものが多いのだろうと思う。
一方で、本書でいう「現代人」の世界に対する影響がいかほどのものかの感覚を持っていない私のような場合には、他の既存の研究結果や文献をあたらないと課題と問題点に共感して読み進めることが難しいのではないかという印象を受けた。

★★★★☆ / ハンチバック

★★★★★ / 組織を変える5つの対話 ―対話を通じてアジャイルな組織文化を創る

内容はいいが、実践が難しいのが惜しい。複数人数で通常業務に加えて行うのがいいのだろうが、労力がかかり継続するのが難しい印象を受ける。ただし、実践を抜きにしても読む価値はある。

本書は2部構成になっていて、第I部ではすべての対話に共通する重要な要素について、第Ⅱ部ではタイトルにある5つの会話について実践的な内容が書かれている。

第I部では対話の障害となる要素やその背景、自己反省の材料として用いることができる道具について書かれている。

私たちの住む世界は、他者を受け入れ、平和に理解しあうことが当たり前なわけではないのです。真摯で善意に満ちた人であっても意見が食い違うことがありますし、それに留まらず、相手を敵、すなわち「あちら側」と見なすこともあります。

2.1 対話:人間の秘密兵器

認知バイアスについてもいくつか触れられており、対話の目的は以下のように書かれる。

多様性に求めるべきは建設的な対立であり、その対立を通じて新しいアイデアやより良い選択肢を考え出すことです。

2.2.2 防御的な思考法と建設的な思考法:何をするのか、そして何をすると言っているのか

5つの対話は、対話を記録し、内省、改訂、ロールプレイを通じて対話を診断する手法に従ってそれぞれのストーリーが展開される。

例えば、診断の一つの基準として「質問分数」があり、これは対話に出てくる質問の個数で「真摯な質問」の個数を割った数値で表され、考え方としておもしろい。

対話は以下の5つである。

・信頼を築く対話
・不安を乗り越える対話
・WHYを作り上げる対話
・コミットメントを行う対話
・説明責任を果たす対話

各対話には「エグゼクティブリーダー」「リーダー」「メンバー」がそれぞれどのように対話を活用できるかが書かれていて、これによって立場の違う人同士が本書について議論をできるように工夫されている。

★★☆☆☆ / WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 下:経済的繁栄、民主制、個人主義の起源

分量の半分以上が参考文献の記載で占められていた。

第14章「歴史のダークマター」には上下巻全体を通じた議論についての問いがあるが、宗教観に基づいた説明であり、新しい観点はない。

WIERD社会はなぜ、これほど標準から外れており、地球規模で見た心理や行動の分布の最短部に位置することが多いのか?

第14章 歴史のダークマター

上巻で議論の概要や事例を知った後には、追加の事例を余すことなく知りたいという場合以外には下巻を併せて読む必要性は感じない。

★★★★★ / 群論への第一歩 集合、写像から準同型定理まで

本書では群の定義は75ページで与えられる。大抵の入門書ではこのような定義は5ページくらいで与えられている印象があるが、定義に至るまでに必要な要素の説明や具体例を提示して、理解を促している。
とくに具体例の提示には力を入れていて、例もとてもわかりやすい。

全体を通して日常的な自然言語で説明がされているので、感覚的で分かりやすいが、7.6「表記 g * H」から存在記号 ∃ を使わずに「存在する」ということの解説を試みており、この辺りから若干説明が天下り的になった印象を受けた。
他の書籍もあたって、定義の表記の違いを考えたい。

不明な点があった場合でも、戻って定義を振り返れば理解できるような構成で書かれていて、全体の内容が本書で完結するようになっており、ありがたい。

★★★★☆ / 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論  

「私とあなた」「私とそれ」といったような人間同士の関係性について、「ギャップ型」「対立型」「抑圧型」「回避型」の4つの適応課題をナラティブの溝と例えて、その溝を渡り対話をするためのプロセスについて書かれている。

平易な文章で読みやすい一方、感覚的な記述も多い。かつ、技術的な問題を軽視し、感情的な問題の範囲で論理を展開しているので、うまくいく場合もあるしいかない場合もあるだろうと感じた。

ナラティブ・アプローチ、適応課題など本書で紹介される概念には元ネタがあるようなので、それらも併せて読んでみたい。

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