読んだ本 2024年4月号 7冊


★★★★★ / THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス 

インターネットを THE MODEL で検索すると4分割されたプロセスのシンプルな図が出てくるが、本書を読んだ印象はそのシンプルさとは異なり、試行錯誤で作られたプロセスについての考え方が書かれている。
また、本書で扱う範囲は営業のモデルに限らず、経営に関する他の要素にも触れていて、広い領域で応用が効きそうである。

本書の立場は、「おわりに」の冒頭に書かれている文章を引用するとわかりやすい。

本書は、戦略、プロセス、人材・組織・リーダーシップという観点で、私自身の経験を交えながら、自社にとっての「ザ・モデル」を創るためのヒントを解説してきた。

おわりに

6章では本書が執筆された時点で筆者が最新としている「レベニューモデル」が紹介される。これは認知拡大から商談成立後のサポートを含むプロセスを細かく分解した絵になっていて、そのプロセスを大まかに「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」「カスタマーサクセス」と4つに分けて考えている。
4つの各プロセスを移行する判定基準を本書では移行判定基準と呼んでいて、この図は検索して見つかる図に似ている。ただし実際に紹介されているプロセスは、リサイクルやブランディングなどプロセスを逆行する要素も含んでいるので、同一視はできない。

共業についての記述があり、これらはモデルの構造には絵として表現されていない要素で、参考になる。モデルの構造は本書の主題でありもっとも理解するべき点だと思うが、その背景にある考え方も併せて認識しておきたい。

実戦で通用するというからには概念だけでもダメ、プロセスだけでも不十分だ。プロセスを動かすのは、最終的には人間。いくら科学的なプロセスを導入しても、そこに介在するのが人である限り、ヒューマニティを無視しては絶対に機能しない。

実戦で通用するモデルとは

「逆の流れ」を作ること。... 双方向の流れが実現した時に、売り上げ向上という共通目標に対して共同作業をすると感覚が芽生えてくるだろう。

分業から共業へ

第4部「3つの基本戦略」では「市場戦略」「リソースマネジメント」「パフォーマンスマネジメント」、第5部「人材・組織・リーダーシップ」では「人材と組織」「リーダーシップ」というテーマについて書かれている。これらはモデル化はされていないものの、経営に関する筆者の視点が書かれていて参考になる。

本書で推薦されていた『経営は「実行」』という本も後ほど読んでみたい。

経営とはメンバーを採用し、チームを作り、リーダーシップを発揮してみんなを導いていくこと。世の中には経営に関する理論やベストプラクティスがあふれているにもかかわらず、成功する会社とそうでない会社に分かれるのは、その「実行」で差がつくからだ。

マネジメントとしての骨格を作ったもの

★★★★☆ / アナロジー思考

一般的に「アート」の要素が大きいと思われる発想も「サイエンス」にできる部分も相当あるのではないかというのが本書の基本的な考え方である。

「新しい発想」のためのアナロジー

本書ではアナロジーについて分析的な説明を試み、アナロジー的な考え方がビジネスやアイデアを生み出すためにどのような役割を果たすのかを解説している。

全体を通じて、アナロジーの理解を促す説明に例え話や関連する学術的な話題を持ち出していて、アナロジーを用いてアナロジーの説明をしているように見える箇所が多く感じた。そのような点で、分かりやすさや応用のしやすさに対してはあと一歩だと感じた。

アナロジーは関係/構造レベルの類似を前提とするとして、表面的な類似(おやじギャグ)と構造的な類似(宝の山)を区別して、ビジネスにおいて注目すべき類似性は構造的な類似性であるとする。

つまり、表面的に売っている商品が似ていても、その背景にあるビジネスの構造、すなわちビジネスモデルや社会構造が実はその模倣の対象とは大きく異なっている可能性があるからである

「同じ」と「違う」のレベルを考察する

経営についての言及も、抽象的ではあるがおもしろい。

「経営者は構造レベルに目を向けている」と前述したが、正確にいえば、具体的かつ詳細なディテールに目を配りながら、常にその事象を構造的な文脈でとらえることが経営には求められるといえるだろう。

具象は問題を創造し、抽象は問題を解決する

上記に関して、雑誌『現代思想』に掲載された数学者の文章を引用していて、学術的な表現である一方、ユニークな問題解決のためには必要な要素だと共感できる。

「抽象には問題を解決する力はあるが、問題を生む力はない。これに対し具象には数字そのものを生み出す力がある。具象は難問を創造し、しばしば自分で作り出した困難にぶつかって立ち往生することがあるが、それ自体がまた新たな創造の契機である。」

具象は問題を創造し、抽象は問題を解決する

本書の後半、第5章「科学やビジネスに応用されるアナロジー」では物理学の微分方程式など専門的な領域に触れられるが、この辺りはむしろ他のより専門的な情報を参照して生んだ方がいいように思われる。

最後の第6章「アナロジー思考力を鍛えるために」では感覚的だったり日頃の態度に関する記述が多いものの、分野を限定せずに以下のような姿勢を持つことは大事かもしれないと感じた。

とかく人は自分を特別視しがちであるが、第三者から客観的に見れば「他のケースと同じだ」と思えてしまうことの方が多い。アナロジー思考の基本は「共通点を探すこと」であるというのはこれまで繰り返し述べてきた通りであるから、まずは共通点の方に目を向けることが重要なのである。

「違う」と思ったら思考は停止する

★★★★★ / メンタリング・マネジメント

メンターという一般的にふんわりとした役割について、メンターに求められる行動や目指すべきメンティーの状態を考えるのに役に立つ。

メンティーを持った場合や、メンターとなるメンバーを配下に持つことになった際に読むと、得られるものがあるかもしれない。

メンターを一言で定義すれば、「相手が自発的に自らの能力と可能性を最大限に発揮する自立型人材に育成することができる人」と言うことができます。さらにわかりやすく、「相手をやる気にさせる人」と言ってもかまいません。

メンター(Mentor)の定義

指導とは、問題解決のため、あるいは生産性向上のために、必要とされる問題解決方などの手法や知識、技術、情報などを、相手に伝えることです。つまり、それは相手に「教える」ことです。

指導と育成

本書の前半付近では管理とメンタリングの違いを挙げ、管理によって依存型人材になり、支援によって自立型人材になるのだとしている。
管理の基本概念は「恐怖」によって人を動かすことである、など管理に対する捉え方が書かれていて、この後のメンタリングに必要な要素への解説の対比としての前置きになっている。

また、本書ではメンタリングの三つの行動基準を「見本」「信頼」「支援」とし、それぞれ章を設けて詳しく解説をしている。

「見本」とは、自らがまず先頭に立って行動すること、「信頼」とは、相手のすべてをそのまま受け入れること、そして「支援」とは、相手のために尽くすことです。

第5章 メンタリングの三つの行動基準

感情論も多いが、一般的にメンターに求められる要素にどういったものがあるのかを知ることができるという点において有益な書籍だった。

★★★★☆ / SINIC理論

未来学は、...事象を時間の流れに沿って把握するのが歴史学であれば、過去だけでなく、未来の事象にも対象を広げた歴史学という捉え方だ。

未来学とは、未来史の「学」

オムロンの創業者と研究所のメンバーによって構築された、未来の社会を予測するSINIC(サイニック)理論について書かれている。科学・技術・社会の相互作用の下で、心か物、集団か個人、といった二元論を行き来する社会の価値観の趨勢を予言するための理論とされる。

本書では、オリジナルの理論の解説から、より適した理論へのアップデートに加え、現代の出来事との整合性、未来へ向けた考察(SINIC理論は2033年までを予測範囲としている)などが語られている。

★★★★★ / 私たちはどう学んでいるのか 創発から見る認知の変化

人は学校教育風の学習によってのみ変化するわけではない。発達という驚くべき変化は、そういう図式にまったくのらない。...
私が本書で提供するのは創発というメガネである。そのメガネを通してみると、今までかけ続けた「学校教育」とか「品質管理」などのメガネでは見えなかったものが見えてくるはずである。読者のみなさんが、このメガネを通じて、自分、世間の認知的変化の概念を見直し、それらを豊かなものにすること、そして良い学習者、教育者になることに少しでも貢献できたとすれば、著者として本望である。

はじめに

本書では「能力」が一般的にどのように捉えられているかという解説からはじまる。

学校の試験で計算問題ができない人を見れば計算力がないのだと考えるし、おもしろいアイディアを出す人がいれば創造力があると考える。つまり計算力や創造力というものを、その人の行動の原因として考えるのである。こうした原因の推定はアブダクションと呼ばれている。

アブダクションから生まれた「能力」概念

次に、構造的に同じ問題に対しても文脈が違うと異なる解答をする傾向がある(構造的に同じ問題であっても異なる認知的リソースを用いている)ことの例を提示し、能力の安定性、内在性という誤ったイメージがあると指摘する。

認知的変化を含めた人の知性を文脈、つまりそれが発現する環境から切り離して論じることは適切ではない

多様性、揺らぎ、文脈依存性が意味すること

続く練習と上達の関係の記述では、パズルの組み立てや折り紙にかかる時間の実際の実験の計測結果から、上達の過程に誤差とは考えにくいうねり(波)が確認できることなどから、揺らぎをバネにして新しいスキルを創発する、などの観点を導く。

本書は、個別の要素を伝達するだけではきちんとした学習がなされないこと、失敗を含めた経験がなければクリエイティブなことは起こらないことを多くの事例や説明を通じて示していて、有益だと感じる。

各章ごとに丁寧に参考文献を紹介しているのもありがたく、気になった分野についてさらに深掘るきっかけも提供されている。

★★☆☆☆ / 具体と抽象

本書の目的は、この「抽象」という行為に対して正当な評価を与え、「市民権を取り戻す」ことです。

抽象化なくして生きられない

本書では複数の具体を「N:1」でまとめたものを抽象であると定義し、そのようすを図示した三角形を用いて合計20の章が展開される。
抽象と具体の関係性が三角形で抽象化できるという主張を前提にして議論が進められるが、その前提の正当性は検証されていないし、本文は全体的に印象論の域を出ていないように見える。

抽象を「学者」の世界であるとし、本書の終盤では「具体レベルしか見えない人には上(抽象側)は見えない」と主張することによって、抽象が市民権を得るどころか、理解している我々とそうでない人々という対立を作っているようにすら感じた。

★★★★★ / 「学び」の構造

示唆に富み、思想もあり、読む価値がある。
昭和50年(1975年)に書かれたとは思えない現代でも十分成り立つ内容になっていて、これは「学び」の時代背景に依らない構造をうまく記述しているからこそであると感じる。

本書は5章から構成されている。

第一章『学ぶ人、学ばぬ人』では、学べない人間の三つのタイプや学習観が紹介されるが、それらをわれわれ自身の中にある学習を妨げる絶望的に深い傾向であるとし、著者の主張の導入としている。

学べる人間をどうやって作り出すか、ーそれには、まずわれわれ自身が、ひとりでもふたりでも多くの人々が、まず自ら「学ぶ」ことである。

学べなくしているのは誰か

第二章『「おぼえる」ことと「わかる」こと』では、記憶の四階層(感覚登録器、短期記憶、中期記憶、長期記憶)から記憶のメカニズムを説明し、「おぼえる」ことが「忘れる」ことによって可逆的であること、一方で「わかる」ことが非可逆的であることを解説する。

したがって、「わかる」とは、「絶えざる問いかけを行う」ことでもある。...すなわち、「わかる」とは、死にいたるまでわかりつづけていくことなのであり、...このようにして「わかる」ことが非可逆的(もはやもとにもどらない)であることはきわめて明白であろう。

「わかる」とは

第三章『道徳(よさ)はいかに学ばれるか』では、著者自身の子どもからの体験、チョムスキーやベイズ確率論のcoherenceなどから著者が確信している「一貫性への志向」をテーマにして、子どもが持つ一貫性が外の世界で破られることによって「閉じた世界」で説明づけられてしまわないように、一貫性を広げていくことが必要であると論じる。

重要なのはその人が「感動した」ことではなく、その感動から彼が全生涯を通じて自分の生活のすみずみまで一貫性をひろげ、また、彼の接するすべての人を愛のうずにまきこみ、高めたという、その強靭なロゴスのはたらきであろう。

道徳はやはり「わかる」べきもの

第四章『「機械」で学ぶことはできるか』では、ティーチング・マシン、ワトソンやパブロフの行動主義、スキナーの逐次的接近法などを題材にして、ティーチング・マシンが学習の目標を学習者の行動で表現しなければならないことから、学習の目的が常に行動で表現できるか、という問いを展開する。

第五章『学びつづける存在としての人間』では、教育に対する著者の思想が一層濃く書かれている。

教育という営みは、「結局」と絶対に言わない人間の「決意」であり、その人についてたとえ何がわかっても、未知数xをxとしてのこし、決してそこに定数aを最後まで代入しない、いわば「可能性に賭ける」営みではないだろうか。

可能性としての人間

また、学びと科学の営みをそれぞれ6つの段階で表したものも、非常にうまくまとめられていておもしろい。本文の最後にある文章では、著者の「学び」に対する思想が最も鮮やかに表現されていてグッとくるものがあるが、そこだけ抜き出しても価値が下がるのでここには引用しない。


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