わたしと気持ちの物語
心の中でなんとなく気づいていた気持ち。
本当は知らんぷりを続けたかった。
でもいつだったかな
もう知らんぷりができなくなっていて
気づいたら気持ちがわたしの周りを覆いつくしていた。
「こんなに増殖していたなんて」
とわたし。
「君が知らんぷりをするから、増殖し放題だったのさ」
とわたしの気持ち。
ねえ、もう空が見えないんだよ
気持ちがいっぱいで空が…見えない。
「どうすればいいの?」
ダメもとで訊いてみる。
「どうすればいいって…君が気持ちを認めてくれたらいいのさ。そうしたらきっと増殖は収まるし、もしかしたら少しは空のかけらが見える、かもしれないね」
「今まで認めてこないことで生き延びてきたのに、そう簡単には認められるわけがないよ。認めたって何かが変わると思えないし」
「”君は”そう思うんだね」
「なによ、”君は”って」
目の前に境界線が引かれたような、突き放されたようなそんな気がした。
わたしはあらためて気持ちを見つめてみる。
なんて切ない色をしているんだろう…見ているだけで涙が出そうになる。
触れてもまるで温度が感じられない。
ずっとわたしがほっといたのだから仕方がないか…
気付けば触れた気持ちの端っこが溶け出していた。
わずかな隙間から光がもれる。
これは月の光?陽の光?
そうしている間に気持ちは形をどんどん変えて、次第に小さくなっていく。
「怖くないの?」
とわたし。
「怖いよ。」
とわたしの気持ち。
そうか、わたしも気持ちも、お互いを恐れていたんだ
ごめんね…
「いいんだ。今、ここにいてくれるだけで十分さ」
「見て、空が見えるよ!」
初めて明るい声で気持ちが言った。
確かに気持ちの隙間から、青い空が覗いていた。
「これからどうする?」
そうわたしは気持ちに尋ねながら、その答えを聞く前に気持ちの手を取り歩き始めた。
小さくなった気持ちはもう形を変えなくなって、わたしの掌に納まっている。
「また増殖するかもよ?」
気持ちはまるで試すように仄めかした。
「いいよ、わたしはいつもあなたといる。もうあなたを見捨てたりなんかしないし、無視したりなんかしない。安心して増殖していいんだよ」
「そっか」
掌の気持ちがほんの少し温かくなった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?