白石一文「一億円のさようなら」

 タイトルにもあるようにお金の話なのだ。しかしただの大金に翻弄されるようなものではなく、それまでの人生の数々の場面にかくされていた真実が解き明かされたり、それを振り返りながら続いていく主人公の人生の転換期が描かれている。
 きっかけは秘密でありお金だったし、普通のひとにはそんな大金に右往左往することなんてありえないかもしれないが、誰にでも転換期や、配偶者のことを信じられなくなったりすることは多々あるのだと思う。だから読者も主人公と共にこの道のりを歩いて行ってしまえそうだ。
 しかしこの主人公は大金を前に見境もなく散財したりしない。かなり真面目すぎるくらいでびっくりした。大金を突然手にした人へのお手本かと思うくらいだ。こういったところが、後半への展開につながっていくのだと思った。
 それにしても、やはり読者としては妄想したい。億単位のお金が自由に使えたらどうするのかと。主人公と同じように景観も良く歴史もあり食べ物も美味しい土地に飛び、一瞬の旅行者を超えた暮らしをしてみたりもいいだろう。今までの暮らしを捨てることも、できそうでできないことだ。捨てるまではいいけれど、考えが浅く、ついつい散財を続け、あっという間に文無しになりそうだ。
 作中に出てくるお寿司もおいしそうなので、ロケ地巡りをしたくなる。当地に飛べば、素材の良いお寿司が食べられそうだし、景観の良いところを巡るのも絶対楽しそうだ。
 大金なくても、あると思って慎ましやかに暮らすっていうのも、ありなのかもしれない。この本で妄想し、豊かな気持ちになるのもいいと思う。

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