国立西洋美術館(東京都台東区・上野駅)
国立西洋美術館では企画展として「写本 ー いとも優雅なる中世の小宇宙」と題して、筑波大学などの名誉教授を勤めた内藤裕史氏から寄贈されてきた写本零葉を中心とする内藤コレクションの集大成といえる中世時代のヨーロッパで作られてきた聖書や詩編集、時祷書、聖歌集といった写本を公開。国立西洋美術館の企画展に入るのは久々ということもあり期待も高まる。
印刷技術のなかった中世ヨーロッパ。知の伝達を担う媒体として写本というのは非常に重宝された。当時は羊や子牛など動物の皮を薄く加工した紙に筆写して製作されたため、大量に作成できない芸術品としての価値も持つことになった。写本はこれらの紙に罫線を引き、羽根ペンを用いて一文字ずつ伝統的に受け継がれてきた書体を用いたテキストで筆写されるという。さらにセクションの冒頭やテキスト周囲に装飾が施され、金を多用した特徴から目を引くのが特徴である。
聖書はヨーロッパにおける最も重要なテキストであり、その写本の数も圧倒的。特徴的なのはゴシック体の文字だが、特に冒頭のアルファベットが装飾されているのに見惚れる。テキストの間に挿し込まれた創世記などのエピソードが彩られており美しい。さらに神の栄光を讃える詩編に聖歌や祈祷文、記念日などの暦を合わせて収録した祈祷書である詩編集の数々は節のイニシャルが絵画になっており特徴的でもある。
続いては聖務日課のための写本、と題したコーナー。決まった時刻に行われる礼拝である聖務日課はミサとともに修道院や教会の基本となっている。司祭によって使用されていたものが次第に一般信徒まで普及していったそうで、実際にどのように使用されてきたのかがわかるようになっている。次はミサのための写本ということで、修道院や教会における中心的な儀式であるミサにおいて行われる主要なエピソードなどを紹介する。特に絵画の割合が多くなるのも特徴だろうか。
聖職者たちが用いたその他の写本(司教が執り行うさまざまな儀式や、道徳的規範を説くテキストなど)を通して、次は時祷書のコーナーへ。これは聖職者は修道士の聖務日課に倣って私的な礼拝を一般信徒たちが行うために用いられた書物。民間で使用されるために内容が簡略化されており、最も多くの写本が製作されたのが時祷書といわれている。
終盤に差し掛かるとキリスト教における日々の礼拝を行うために用いられた暦、教会法令集(教会が組織運営や信徒たちの信仰・生活に関して定めた法文)、そしてキリスト教を飛び越えて、非宗教的な内容を持つ世俗写本といった写本を取り上げる。いずれも装飾の華やかさが美しい。トイレはウォシュレット式。
毎回その内容が少しずつ代わっている常設展もまた見応えがある。そもそもル・コルビュジエ設計の建物ということで美術品と共に建築を味わうこともできるので、企画展と常設展と合わせて観ていたらあっという間に閉館時間に差し掛かってしまう。常設展の最後が駆け足になってしまったのは少し勿体ないかもしれない。常設展のトイレももちろんウォシュレット式。