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愛用ペン紹介Vol.1「シェーファー・レガシーヘリテージ」


①はじめに

 こんばんは。君にとっての物好きミミズクである、ナルコスカルです。

 今回はボクの愛用万年筆の一本である、シェーファー・レガシーヘリテージ(ブラッシュドゴールド・字幅不明)を紹介していきます。ここ2〜3年で文房具に興味を持った方には馴染みが薄いブランドだと思うので、初めにシェーファーというブランドの歴史、次にレガシーヘリテージの最大の特徴であるインレイニブ(ニブ=ペン先)の特徴、最後にボクのレガシーヘリテージそのものの詳細・筆記感などについて記していこうと思います。最後まで楽しくお読み頂けたら幸いです。

 ボクそのものの私事ですが、ボクには複数の創作名義があり、他の名義においてもnote上で万年筆の記事を投稿していました。ボクの、ボクではない一面を君が知っていたとしても、秘密にしておいてもらえると助かります。

②シェーファーについて

 まず最初に、シェーファーの歴史について書いていきます。もし君が文具や万年筆の大ファンで、「スノーケル」や「VLR」という単語に覚えがあるなら、ここは読み飛ばして頂いて問題ありません。そうでないなら、ボクに付き合ってもらえると嬉しいです。

 シェーファーの誕生は1913年、アメリカの宝石商であったウォルター・A・シェーファー氏によって設立されました。たった数年の違いとはいえ、世界的な文具メーカーであるパイロットよりも前に生まれた文具ブランドです。

 フランスの文具ブランドであるウォーターマンが、世界で初めて毛細管現象を取り入れた現代万年筆の祖である「ザ・レギュラー」を発売したのは1883年。日本だと明治16年の出来事です。古風な印象のアイテムである万年筆の歴史は近世から現在と、意外と浅いものです。

 シェーファー氏は当時、新しいインク吸入機構の特許を持っていたので、それを武器として創業した形です。その後も次々と新しい機構や魅力的なモデルを発表し、全盛期にはドイツの「モンブラン」やイギリスの「パーカー」と並ぶ、アメリカを代表する文具ブランドへと成長します。

 しかし、その後の経営は右肩下がり。1990年代から2010年代にかけて文具業界大手他社による何度かの買収を受けました。ボクが万年筆に興味を持ち始めた数年前は、文具店のショーケースにまだシェーファーのペンが並んでいましたが、それ以降はつい最近までほとんど音沙汰がなくなっていました。今年になってインドでシェーファーの代理店を務めていた企業が事業譲受した事が公式からアナウンスされ、それと同時にラインナップが再展開されました。

 ただし、今回の再スタートにあたってシェーファーの特徴であった独自のペン先や機構が完全に姿を消し、よく言えば万人受けするであろう、悪く言えばシェーファーをシェーファーたらしめていた部分を失った無難なモデルのみの展開となりました。

 新しい親元でシェーファーはかつての栄華を取り戻せるのか? その動向が注目されているブランドです。

③インレイニブについて

 現行ラインナップよりも前の時代において、シェーファー最大の特徴は「インレイニブ」でした。インレイニブは別名「象嵌ニブ」とも呼ばれ、ペン先とペン本体の首が一体化しているモデルを指します。ペン本体の首にペン先を差し込んだ、最も一般的な形状である「オープンニブ」と比べると、その外見は一目瞭然です。

下から順に「オープンニブ」、「インレイニブ」、ペン先最先端部以外をボディー内部に隠した「フーデッドニブ」です。

 インレイニブはシェーファー独自のものではなく、かつては多くのメーカー・ブランドが手がけ、現在でもパイロットの「エリート95S」やウォーターマンの「カレン」が販売されています。シェーファーのインレイニブはその外見の美麗さから人気を博したようで、完全に姿を消した現行ラインナップ以前には、時代とともに前のモデルから次のモデルへと継承されていきました。

 今回紹介する「レガシーヘリテージ」以外にもインレイニブを搭載したシェーファーの万年筆は数多くあります。むしろ、栄光がかげった後のモデルであるレガシーヘリテージよりも、全盛期当時の「タルガ」や「インペリアル」の方が中古市場で多く見かけます。しかし、ボクのレガシーヘリテージを含めて全てのシェーファーのインレイニブ万年筆が今ではオールドペンであり、故障・不調等のリスクを軽減する狙いで比較的新しいモデルであるレガシーヘリテージを手持ちに加えました。

 シェーファーのインレイニブはかつて自社生産でしたが、業績不振や買収などの様々な事情を経て、ドイツのペン先メーカーであるボック社がシェーファーだけに卸す特注モデルとして担当しました。余談ですが、ボック社が特定のメーカー・ブランドの為に特注モデルを製造するのはシェーファーに限った話ではなく、現在ではイタリアの高級ブランドである「ピナイダー」と共同開発したニブを製造しています。

 一般的な万年筆のペン先は根本から先端に向かって緩やかに下っていく形状ですが、シェーファーのインレイニブはV字状に反っています。この反りとボディー一体型になったインレイニブの特徴により、独特の筆記感をもたらしています。その詳細はこの記事のフィナーレとして後述します。

シェーファーのインレイニブと、ピナイダーの「クイルニブ(軟調ニブ)」。

④ボクのレガシーヘリテージについて

・この個体について

 ここからは、ボクの手持ちであるレガシーヘリテージ個体を見ていきます。製造年は不明、もっと言えばそもそもこれは「レガシーヘリテージ」ではないかもしれません。

 その理由について記していきます。前述の通り、シェーファーのインレイニブは様々なモデルに搭載されました。そして、今ではそのモデルの移り変わりの歴史や詳細を簡単に調べる事ができなくなっています。例えばモンブランの「マイスターシュテュック149」の変遷は149というモデルの中だけですが、シェーファーのインレイニブ万年筆は「PFM」、「タルガ」、「インペリアル」、「レガシー」、「VLR」など多岐にわたります。しかも、それぞれのモデルにマイナーチェンジ版が存在します。

 「レガシー」シリーズの初登場は1995年の「レガシー1」、その後に1999年の「レガシー2」や2003年の「レガシーへリテージ」と後継モデルが発表されたようです。ボクが調べる事ができたのは「レガシーヘリテージ」までで、ボクのレガシーヘリテージ、保証書に記載されていたモデル型番9031と参考資料上の9031の特徴は異なっています。なので、(中古万年筆である事による保証書と本体の不一致の可能性も含めて)ボクのレガシーヘリテージはもしかしたらレガシー1やレガシー2、あるいはレガシーヘリテージの以降のモデルであるかもしれません。その同定は極めて困難なので、ここでは便宜上レガシーヘリテージとして扱っていきます。

 もしも、レガシーシリーズやシェーファーの歴史に詳しい方がいらっしゃったら、ボクにそれをご教示頂けると大変嬉しいです。

・ボディーとインク吸入について

 ボクのレガシーヘリテージのボディーは「ブラッシュドゴールド」。これは真鍮製ボディーにサテン仕上げ加工を施し、キャップリングやクリップは金メッキ鏡面仕上げです。キャップリングに刻印はなく、クリップの左右側面に小さく「SHEAFFER」、「USA」と刻まれています。クリップのホワイトドットはシェーファーの象徴であり、これを強調する目的であえて刻印を目立たなくしたのかもしれません。

 参考資料上のレガシーヘリテージにおけるインク吸入は、一般的なカートリッジとコンバーターによる両用式ですが、ボクのレガシーヘリテージでは「タッチダウン式」という吸入を行えます。

 その仕組み自体は簡単です。まずは、銃弾のような専用のコンバーターをペン内部に組み込みます。次に再度組み立て、ペン先をインクに浸した状態でペン本体のピストンを一度だけ上下させます。これにより専用コンバーター内部のゴムサックに空気圧が働き、一気にインクを吸い上げます。つまり、原理的には一般的なスポイトと同じです。専用コンバーターをこれの為に用意し、ペン本体にもその機構を搭載したのが、かつてのシェーファーの矜恃を物語っていますね。

洗浄直後に撮影。写真中央にあるものが、タッチダウン式吸入専用コンバーターとそれを首軸に繋げる為のアダプターです。

 レガシーシリーズでは首軸の裏に字幅表記があるはずですが、この個体にはそれがありません。なので、正確な字幅は不明です。ボクの他の手持ち万年筆と比較したところ、同じボック社製ペン先である(旧)デルタの「ドルチェヴィータスリム(中字幅)」よりも太く、パイロットの「カスタム74(極太字幅)」よりも細いものでした。つまり、このペンの実際の字幅は太字相当です。

 日本語における一般的な用途から外れる字幅ですが、ボクにとって万年筆の主な使い道は、「無地ノートへ創作のネタ出しをする」なので全く問題ありません。むしろ、思考の流れを邪魔しない太字帯のインクフロー(インク流出量)は大歓迎です。

・筆記感について

 君が最も気になっているであろう、筆記感について触れていきたいと思います。前述の通り、シェーファーのインレイニブは独特のV字型形状をしています。おそらくこれにより、ペン先自体の硬軟は硬め寄りですが、紙にペン先を当てた時の感触は一般的なガチニブ(硬めペン先)ほど強くはありません。

 もちろん、ボクが「実用万年筆の最適解」だと思っているパイロットのフォルカンニブ(超軟調ペン先)には、柔らかさで遠く及びません。しかし、この硬すぎでもなく柔らかすぎでもないタッチが妙に心地よいです。加えて、フォルカンニブは故障をおそれてどうしても完全に筆記へ集中できないほどの軟調ニブですが、このインレイニブは金属ボディーに負けないほどの硬さがあるので、意外と実用的です。

 もちろんレガシーヘリテージにも欠点があります。一つは洗浄に関してですね。あくまで自己責任の行為ですが、セーラーやペリカンのペン先は首軸から簡単に分離できるので洗浄性・整備性が高いです。しかし、シェーファーのインレイニブは首軸と一体になっている為、目視による洗浄の度合いを見極めるのが困難です。これは簡単に分解できない専用コンバーターやタッチダウン吸入対応のボディー本体にも言える事です。

 また、筆記感の欠点としては、この個体やシェーファーのインレンニブだけの問題ではありませんが、太字幅帯特有の「ペンのひねりに弱い」という事ですね。スイートスポット(最も書き心地がよい筆記角度)から外れた時のカリカリ感が、まさにボック社製ペン先のそれです。

同じボック社製ペン先でもペンポイント(ペン先の先端部)の研ぎ方が異なります。字幅や年代によるものでしょうか?

 余談ですが、ボクはペン先調整にあまり興味がありません。それを受けるのが非常に難しい地方住みという事もありますが、大部分は「ペンの個性をボクの好みに塗り潰したくはない」という気持ちです。この万年筆を手放すつもりは今のところありませんが、もしもボクが明日撃ち落とされて唐揚げにされたら、「胃袋に収まった鳥の好みに染まったペン」だけが残されますし。

⑤おわりに

 ここまでお読みくださりありがとうございました。ボクが書いたものを少しでも面白いと思ってくれたなら、ボクにとってそれ以上の報酬はありません。

 総評としては、レガシーヘリテージは時代遅れの万年筆ではなく、実用万年筆として今でも十分に活躍できるだけの性能・機能を秘めたペンです。洗浄性・整備性に少し難があり、絶版品なので破損・経年劣化という寿命が設定されていますが、使い勝手的には万年筆ビギナーでもさほど困難ではないと考えます。

 中古市場で盛んに取引されているモンブランやペリカンと比べたら、全盛期から外れた比較的新しいシェーファーは決して多くはありません。購入にあたって個体の吟味は必要ですが、君が少しでもかつてのシェーファーに興味があるなら、手持ちに加えても損はないはずです。

 今夜はここまでにしておきます。ボクの翼がそれを望んだ時に、また君のもとに戻ってきます。