美しすぎる”おっきりこみ”群馬の悲願!
「おっきりこみでございます。」と出された料理だった。
いい感じの間接照明の中、引き算の美学を感じるクールなインテリアの
カウンター席に出された「おっきりこみ」は白い薔薇のようだった。
「おっきりこみ」。ご存じだろうか?幅広い麺を野菜やこんにゃく等と
一緒に煮込んだ北関東(群馬、秩父を始めとする埼玉北部)の麺料理だ。
要するに田舎料理だ。
それが、楚々とした白い薔薇となって私の前に。
これは群馬県は前橋市の白井屋ホテル内にある「the RESTAURANT」で
提供された料理だ。この店のコンセプトは”上州キュイジーヌ”。もう
それだけで群馬県民の私は気になって仕方がなかったお店だ。
白い薔薇は大根だった。生ハムとこんにゃくも一緒に巻かれていた。
底にはごぼうのピューレ。チリオイルと葱オイルがアクセントで
そこに出汁が注がれる。
群馬に産まれ育って52年。「葱とこんにゃく下仁田名産」との
上毛かるたで養われた誇りだが、どうしたってダサい。悲しいかな
ダサい。確かな美味しさがあっても、どうしても京野菜や加賀野菜には
勝てない。下仁田ねぎと九条ねぎではビジュアルでも差は歴然。
マンゴーだ苺だ、ラ・フランスだ。伊勢海老だ、牡蠣だ、ブランド牛だ。
他県のスター食材がどんなに羨ましかったことか。
しかし、この美しい料理を口にした時。大根とこんにゃくと葱オイルと
出汁が確かに”おっきりこみ”で、なにより、ごぼうのピューレが田舎風味
だからこその食材の滋味深さと温かみを生んでいて、生ハムの旨味と
塩味が全体をおしゃれにまとめていた。そして、チリオイルがいい。
まるで、おっきりこみに七味を入れた時のようだ。なんて優しくてかつ、
洗練された美味しさなんだ。
おしゃれなカウンター席で「おほほほほ、素敵♡」とこまっしゃくれて
いたが、実際は感涙していた。心の中ではパッカーンと開いたくす玉からの
紙吹雪を浴びながら激しくガッツポーズをしていた。私の深層心理にこんな郷土愛があったのかと再認識させられた。
遂に群馬の食材がおしゃれに美味しく表現される時が来たのだ。B 級グルメで自慢できる美味しいものは意外と多い。おっきりこみもしかり。ひもかわうどん、焼きまんじゅう、ソースカツ丼。それはそれで愛すべき誇りだ。
しかし、他県の知り合いに”ちょっと良い所”を見せたい時に。いわゆる
”カッコつけたい”時に連れて行きたいところが今までなかったのだ。
こちらのコースでは、このひと皿以外にも群馬の最先端の食材や
伝統の食材が使われた美味しく洗練された料理が次々に提供される。
焼まんじゅうを表現したデザートもとても楽しい。
他県の美食家で皮肉屋の知り合いを連れて行ってぎゃふんと言わせたい。
残念なことに、そんな知り合いがいない。
このひと皿の白い薔薇は前橋で昔から愛されている、敷島公園の薔薇園を
思わせた。細部に渡って郷土愛をくすぐる他県の方にも群馬県民にも
楽しんでほしい”シン・ご当地グルメ”なのだ。
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