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お父さんの背中

 お父さんという男は瞬間湯沸かし器で武闘派で、カッコつけでプライドが高く、照れ屋で独自のルールに対しての正義感が強く、でも気さくな男で明るい。なかなかクセの強いお父さんで、というか、母もかなりクセが強いので昔から家庭はなかなか大変だった。二人共、プライドが高く見栄っ張りなので、両親と三姉妹の家族は外からは仲が良く幸せに見えただろうが、(むしろそれに命をかける両親だった)内情は度々険悪だ。ただ、お父さんは単純で人間味があって人情派。時々、背中で語ってはグッと来させられてしまう。

    • 君は綺麗になった ~こんにゃくゼリーの君~

       田舎っぽくて、疎 ましく軽んじていた幼馴染の女の子が 急に綺麗になったりしたらドキドキしませんか、皆さん。 なぜか急に男性目線になっている私です。  先日、我群馬県の名産こんにゃくが美しく美味しい料理になっていて 深層心理にあった郷土愛がくすぐられたお話を書きました。     そんな最中、再び美しいこんにゃくを見つけてしまいました。 「菓匠 迦葉」のてんぐの玉手箱です。漢字の字面だと分かり にくいですが「かしょう かしょう」www ”迦葉”といえば、沼田市の天狗

      • 病院の待合室で体重を連呼され。

        高脂血症夫婦である。高くて美味しいものも、安くて美味しいものも 遠くの美味しいものも、近くの美味しいものも大好きだ。生き甲斐と 言っていい。 40を過ぎた頃から夫婦で毎年人間ドックに行き、先生に言われた通りに 高脂血症やら中性脂肪の薬をきちんと飲んでもいる。それはそれとして ふたりで平和に幸せに生きて来た。 最近、いつもの薬を処方してもらう病院で「特定保健指導プログラム」と いうものが始まった。普段の食事の内容や運動の頻度、体重などを継続的に聞かれることになった。義務なん

        • 【季節の楽しみ】りんごの豚肉詰めオーブン焼き 

          紅玉の季節は嬉しい。りんごの季節でも最初の方に出回るのが 紅玉だ。大嫌いな夏が終わったのを感じられる。 毎年、紅玉で作る楽しみな料理がある。昔、雑誌にクリスマスの おもてなし料理として紹介されていたものだ。我が家ではクリスマスを 待てずに早々に食卓にのぼる。 紅玉をくり抜き、バターをひと片入れる。豚ひき肉にはみじん切りの 玉ねぎと刻んだベーコンを混ぜ、ナッツやドライフルーツも混ぜて 紅玉に詰める。最後にハチミツかメイプルシロップをかけてオーブンで 焼く。 溶けたバターが

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        お父さんの背中

          美しすぎる”おっきりこみ”群馬の悲願!

          「おっきりこみでございます。」と出された料理だった。 いい感じの間接照明の中、引き算の美学を感じるクールなインテリアの カウンター席に出された「おっきりこみ」は白い薔薇のようだった。 「おっきりこみ」。ご存じだろうか?幅広い麺を野菜やこんにゃく等と 一緒に煮込んだ北関東(群馬、秩父を始めとする埼玉北部)の麺料理だ。 要するに田舎料理だ。 それが、楚々とした白い薔薇となって私の前に。 これは群馬県は前橋市の白井屋ホテル内にある「the RESTAURANT」で 提供され

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          みょうがと勧誘と落選と

           今年はみょうがを刻むことになった。大量のみょうがをご近所から頂いた。 去年のnote創作大賞で初めてのエッセイが中間審査を突破して、最終審査の結果待ちのソワソワした時期にご近所から大量の栗を頂いた。ちょうどいいので心の隙間を埋めるべく、焼きりんごの栗のケーキを作ろうとせっせと焼き栗の鬼殻をむいてはニヤニヤしたりクヨクヨしたりしていたのだ。  そして、今年。中間審査発表を前に今年も発表日の予想が外れまくっていた。13日(金)の予想が外れ、なんとなく縁起が悪そうな日程なので

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          枝豆を食べに行く。最終話

           「坂崎さん!あれはなんですか?!どういうことですか?!」翌朝、我慢出来ずに8時には坂崎さんの縁側に駆け込んだ。「あぁ、綾子さん。会えたんですね?」坂崎さんは事もなげに言った。「数年前、私もあそこで妻に会いました。毎年蓮の花は見に行っていたんですが、ある年ふと会えたんです。逢魔が時っていうんですかねぇ。残された人が平常に戻っていく度合にタイミングがあるようです。綾子さんはそろそろかとね。」そして、こうも言った。「綾子さん、これはこの間のお礼とも言えるかな。私は家に戻ります。こ

          枝豆を食べに行く。最終話

          枝豆を食べに行く。その8

           梅雨明けの迫るある日、いつものように坂崎さんお宅の小さな縁側でおしゃべりをしていた。いよいよの夏本番を前に蒸し暑い日が増えつつあった。「そろそろでしょうかねぇ。時期的にも綾子さんのメンタル的も・・・。」坂崎さんは呟くように言った。「綾子さん、隣の県のG市に大きな池があるでしょう。もうすぐ蓮の花がたくさんで見事ですよ。」「あ、知ってます。実はまだ行ったことがなくて。そうですか、開花がそろそろですか。」と私はうなずいた。「綾子さん、見に行くには時間が大事でね。なるべく蒸し暑い、

          枝豆を食べに行く。その8

          枝豆を食べに行く。その7

           やっぱり来るべきではなかったのだ。市立ホールに来ていた。何度かの縁側訪問を経た頃、坂崎さんが趣味の短歌の会で出品した市民文学賞の短歌部門で受賞し、受賞記念講演会に誘われたのだ。坂崎さんの短歌の受賞記念講演は短歌だけではなく、俳句、小説、児童小説などの部門のそれぞれの受賞者の記念講演だった。坂崎さんの出番は最後から2番目なので、何人もの受賞者の講演を聞くことになった。  児童小説部門の受賞者は女子高生だ。彼女は受賞した喜びや作品の背景、学校での生活や楽しみにしていること。将来

          枝豆を食べに行く。その7

          枝豆を食べに行く。その6

           今日は朝からメンタルの調子が悪い。さっそくだが、坂崎さんの縁側で少し他愛のない話でもしたいと思った。ちょうど数日前に作ったパウンドケーキがある。手土産に持って出た。4切れのパウンドケーキと紅茶のティーバッグを2個。誰かの家に他愛もなく訪ねるなんて久しぶりだった。どんな話をしたらいいのか。ちょっと緊張するが嬉しかった。楽しみだった。    郵便局の夏のボーナス預金のポスターははつらつとした笑顔だ。小学校からは元気良いはしゃぐ声が聞こえる。プールの授業だろうか。  坂崎さんは留

          枝豆を食べに行く。その6

          枝豆を食べに行く。その5

           今日もリュックにペットボトルの水を詰め、100均で買った小さな緑色のじょうろを持って家を出た。もはや強制だったウォーキングはあのアパートの小さな畑の水やりミッションに変わっていた。いつものようにペットボトルの水をじょうろに詰め替えて勝手に水やりをしていると近くに一台のタクシーが止まり老人がひとり降りた。ふと目をやるのと、相手と私が「あ!」と声を上げるのが同時だった。老人はスーパーでハンカチを渡してくれた、あの人だった。  「とりあえず、説明させてください!縁側に座らせて頂

          枝豆を食べに行く。その5

          枝豆を食べに行く。その4

           今日はちょっとだけ爽やかで、ウォーキングにすんなり出かけられた。本当に珍しい日だ。今日はいつものコンビニでアイスを食べよう。でも、その代わりロングコースで河原の土手を歩こう。今日の気候なら河原は気持ちいいに違いない。そう思うと、ちょっとだけ足取りも軽い。  それでもやはり、ひとりで歩いていると考え事はマストになってしまう。先日のスーパーでのおじいさんとの出会いから、両親の死について考えていた。初めての身近な人の死が両親の死だった。長い間、ドラマや映画で接してきた身近な人の闘

          枝豆を食べに行く。その4

          枝豆を食べに行く。その3

             ここのところの毎日の曇天には辟易している。もともとないやる気がもっとなくなった。とはいえここ数年、一度だって心の中が晴れたことなどない。それなら天気が晴れようが曇ろうが関係はない。でも辟易する。  ふと、スーパーにひとり出かけてみようと思った。いつもは週末に夫と一週間分を買い物するのだが。仕事を辞めて少しだけ鬱が楽になると、時々どうにもひとりで居る平日の日中の家が息苦しかった。冷蔵庫以外の音が聞きたい。そもそも、テレビやオーディオの”積極的な音”は今でも受け付けない。情

          枝豆を食べに行く。その3

          枝豆を食べに行く。その2

           今日は天気が悪い。日焼け止めが面倒という理由がこじつけられない。5月らしい気温だから熱中症もこじつけられない。しかたない、ウォーキングに行くか・・・。歩くだけで体脂肪が減り、筋肉量が上がり、姿勢も良くなると謳われるスニーカーを夫から買ってもらっていた。立つと妙にぐらつく設定になっている靴底のその靴はショッキングピンクだ。鬱々とした気分を払拭しやる気の向上を狙って無理して選んだ色は、元々の私の好みではなく、結果やる気を削ぐことになっていた。  道路にこびりついたガムや犬の糞に

          枝豆を食べに行く。その2

          枝豆を食べに行く。その1

          【あらすじ】 「私」は鬱々とした日々の中、とあるきっかけでひとりの老人と出会う。老人との出会いをきっかけに長く苦しかった喪失から、行きつ戻りつ悩みながらも立ち直っていく。ある時、老人から勧められて行った蓮池の先で見たものとは・・・。苦悩と再生の物語。  コンビニの車止めのバーは熱々だった。寄りかかった尻に伝わる熱のせいで、せっかく涼むために買ったガリガリ君のソーダ味の旨さは半減だ。いつから日本の5月はこんなにも暑くなったのだろう。薄手だか一応長袖にして出てきたのは大失敗だ。

          枝豆を食べに行く。その1

          さくらはひとり暮らし

           さくらはひとり暮らしをしていた。ちょっとした豪邸の庭には代わる代わる丁寧にさくらの世話をしてくれる人達が訪れる。自分の飼い主よりもずいぶんに親切だ。爪はきれいに切りそろえられて、いい感じにトリミングされ、シャンプーもブラッシングも丁寧に頻繁にしてもらって。ふわふわのツヤツヤだ。まるでお姫様みたいなんだけど、とっても皆に愛されているんだけど、いつも変な顔をして大人しい悲しきお姫様だ。  申し遅れたが、さくらはゴールデンリトリバーの女の子だ。13歳。犬の”13歳。”を”女の子

          さくらはひとり暮らし