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誰が私を折ったって、私が私を立て直す

 「何をしたらこのモヤモヤは消えるだろう。」

 昨夜、布団の中で延々と考えた。とにかく元気が出ない。
明日、何か気晴らしが出来ないか考えるが、いつもの「イヤホンで
爆音のロック聞きながらパフェ」も「ドライブしながらちょっと遠くの
日帰り温泉」も元気がなさすぎて。「ひとり豪華ランチ」は既に
お弁当のおかずを買っちゃっているしムリだ。

そもそも家から出る元気がないのよ。

ここ数日で受けた、目に見えない攻撃の数々が払拭されずに
蓄積してしまっている。平気な顔をしているのだろうが、
ダメージはしっかり受けている。損な顔なのだ。

裏切られた期待、叶わない願い、破られる約束、ぞんざいな扱い、
疑われる意地悪、蔑んだ態度、軽んじられる気持ち。踏まれた真心。
萎んだ高揚感。

無関心、惰性、適当。

「聞いてない」、「分からない」、「知らない」。

それら全部に意見や交渉をすることすら出来なかった。
普段の私なら出来るのに。数が多いし、何度も言っている
事とかで、もう元気がないし疲れていた。

で、何日もモヤモヤ・・・。

その上、長年の愛用品の廃盤を今、知った。しかもふたつも。

天気も悪い。気温は低い。不安と恐怖をあおる乾いた強い風が
吹いている。

 ずっと何か名案をと考えた私は遂に閃いた! 花を買おう!
それも、プロの花だ。いつもは好みの花材を数種類買って自分なりに
生けるだけだが、今回はプロのチョイスでプロのデザインにしてもらおう。

 一身上の都合でしばらく花は買えなかったが、もう買おう。
1番好きな花屋さんに車ですっ飛んでいった。いつもの静かでおだやかな
店のお兄さんが迎えてくれた。

「あの、アレンジメントをひとつ。予算はこれくらいで。
今週中であればいつでもいいです。

でも、花材がたくさんあって選び放題の状態の時に、この店の技術と
センスを凝縮したようなものを。秋らしくて、かっこいいのをお願い
します。」

お兄さんは静かに「誰かにお渡しするプレゼントではないんですね?」と。
「はい、自分用に。なんかちょっと元気出したくて・・・。」

お兄さんは静かに微笑んでプロのスイッチを入れ、いくつか質問と提案を
してくれた。
飾る場所の高さとか、アレンジの幅や高さとか。長持ちさせるなら
スポンジに刺すアレンジメントより花瓶に差すブーケの方が良いなど。

今日の13時半には用意してもらえる事になって、私は帰宅した。

あと3時間半したら、花が届く!そう思ったら少し元気が出た。
食べられなかった朝食を温め直して食べ、朝食と弁当の用意で
散らかりまくっているシンクの皿や鍋、ツールを洗いまくる。
干し椎茸と切干大根を戻して、にんじんを刻む。ちくわを切って
平らにし、しそとスライスチーズを巻く。戻した野菜で切り干し
大根の煮物を作る。山芋は切ってなめたけと海苔の佃煮で和える。
これで明日のお弁当のおかずは完成だ。午前中から料理。夕飯
作りと明朝のスープ作りはまだだ。全く簡単ではない。

どんな花束が出来上がるだろうか。楽しみで、まだ見ていないのに
気分が明るくなっていく。その後も少しだが、気分良く家事をして
13時半を待った。

13時半より少し早く店に着いてしまった。お店の1番目立つ
入口のカウンターに背の高いかっこいい花瓶に生けられた
大輪の菊や実もの、枝ものが使われた大きな作品があった。
私の花だった。

私のために用意された、私の花!!

 私の元気のために選ばれた花材、私の元気のために紡がれたデザイン。
選ばれた色。大きく上を向いた花や、自由にいくつも枝を広げる木、
秋のシックな大人色。どれもとても素敵だ。

 お兄さんは大輪の菊の説明や「柚子の香りがするんです、マリーゴールドの葉です。」と一部手渡してくれながら説明をしてくれた。そして、「花瓶には元気で長持ちする水をたっぷり入れておきましたから。」と花瓶を
貸してくれるという。「ちょっといいヤツで高いので、そこだけ気を付けて・・・。」とはにかむ。

 本当は自分で好きな花をいくつか買って生けてもよかったとも思う。
でも、弱っている時に誰かが私の元気のために選んで、丁寧に手を動かして
時間を使って作ってもらったのが良かったと思う。弱っていた心がじんわり温まる。頑なだった気持ちがほぐれる。

「私が私を立て直す」とタイトルに書いたけど、実はそうじゃなくて。
関係性の強い人じゃなくても、信頼出来るお店とかに助けてもらうのも
選択のひとつだ。

 帰り際、お兄さんは厳重に花瓶をバケツに入れて、更に新聞紙で固定してくれながら「毎日お水は足すだけで大丈夫です。1週間経ったら切り口を
少し切って。3週間経ったら水を全部取り替えて。」と。

この15,000円もする花瓶、3週間以上貸してくれるつもりなんだ。

 希望やシチュエーションを理解してくれて、真面目に丁寧に素敵な
デザインの花を用意してくれて。高い花瓶を長いこと貸す信頼を
見せてくれて。花を買った以上に色々な、欲しかった温かい大事なものを
私は受け取ったのだった。


#買ってよかったもの

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