視覚障害児にとって包丁を使うのは怖いもの?
皆さん、こんにちは。奈良里紗@もっと楽しく、カジュアルに、障害科学にふれてもらうための活動をしています弱視難聴の研究者です。
皆さんは、包丁は何歳ぐらいのときに初めて使いましたか?
私はいつだったのかは記憶にないのですが、子供用の包丁を買ってもらったことはとてもうれしかったように思います。
目が見えない、あるいは、見えづらいと、
「危ないから」
という理由で経験する機会がなくなりがちなのがはさみや包丁、彫刻刀、電動のこぎりといった刃物を扱うことです。
私のような弱視(ロービジョン)の場合は、はさみと切るものの間が数センチしかあいていないので、周囲からみると自分の眼にはさみがはいってしまうのではないかとひやひやしてしまうのです。
はさみの指導は、弱視教育の中でも伝統的に行われているので安全な指導法があります。
また、包丁に関しても、盲学校の幼稚部で全盲のお子さんに体験する機会を作っていました。
目が見えないと危ないは、思い込みで、安全な方法を教えることで、むしろ、包丁を扱う上で視力は必要はないのです。
包丁の扱いについては、こどもであれば自立活動の時間を使って行われます。もし、うちの子ははさみも包丁も使えない!という方がいましたら、学校の先生に相談してみてください。いきなり、じゃあ、明日から包丁の指導をしましょうというわけにはいきませんが、個別の指導計画の中に今後位置づけていくことを考えてくださるはずです。
私は手先が不器用なので、野菜の皮むきはピーラーを使いますが、全盲の友達は、上手にりんごの皮を包丁でむきます。
目が見えないと包丁を使うのは怖いのではないか?
これ、普通に感じる疑問だと思います。
先天性で包丁の扱い方について指導を受けたことがあれば、怖いと感じている人はまずいないと思います。
逆に、周囲にいる大人が
「包丁は危ないものだからね!」
と言い聞かせて育つと、扱い方がわからない上に危ないものだと教えられているので、包丁=危険という誤った概念形成が促進されて、包丁を怖いと感じている方もいるかもしれません。
障害のあるなしに関わらず、犬が苦手な親に育てられると、こどもも自然と犬が苦手になることがあります。昆虫を気持ち悪いと感じる親に育てると、こどもは昆虫に近寄らなくなります。
こどもは親の背中をよーくみています。信頼する親が怖い、いやだと思うものに近づくことはしないのです。
それでも、障害のないこどもたちは、視覚的な学習機会によって、経験不足を補うことができます。でも、視覚障害のあるこどもたちは、視覚的に学習を補う経験をもつことができません。
例えば、お母さんが昔犬にかまれた経験があるから、犬は怖いのよという話をするとします。目の見えないこどもにとって、このお話は大きなインパクトがあって、犬は触るとかまれる、怖いを感じるようになります。
公園でかわいいわんちゃんに出会ったとしても、自分から触ろうとはしません。小型犬だと、キャンキャンと吠えることもあり、その音によってさらに恐怖を感じてしまいます。
目の見えるこどもであれば、見た目のかわいらしさや周囲の大人、こどもたちがかわいいかわいいと触っている様子や遊んでいる様子をみて、自分も!となるわけですが、なかなかそういう偶発的な視覚的学習を積み重ねることができないのです。
私がライフワークで取り組んでいる視覚障がい者ライフサポート機構viwaの活動の1つである子育て支援相談会パパママ会でセラピードッグを招いたことがあります。
セラピードッグは絶対に吠えません。指示がなければ、動きません。人にかみつくこともありません。
このようなこどもが安心・安全な気持ちで犬に触れることができる環境を整えた上で、犬に触れるという機会を作ったところ、これまで一度も犬に触れた経験のないこども(小学校5年生)と18歳の生徒が、人生で初めて犬にふれることができました。
その表情は笑顔で、
「わんちゃんって、かわいい、ふわふわしてるー」
と生まれて初めて犬に触れあった感想を話してくれました。
アメリカの視覚障害乳幼児の育児に関する書籍では、2~3歳ぐらいになったら、小動物に触れあう機会を積極的に作りましょうと記されています。
怖いという誤った概念形成をする前に、きちんと概念形成をうな学ために、意図的に学習機会を積極的に作っていこうということなのです。
我が国では、視覚障害のあるこどもたちも学びの場を選ぶことができます。これは世界的にみても稀な教育システムです。同時に、学びの場による教育格差は深刻な問題です。学びの場によって、彼らの学習機会の喪失につながらないようにしたいものです。
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