東山ブルーに涙する 唐招提寺御影堂
奈良 唐招提寺。
鑑真和上がお作りになったお寺です。
鑑真和上が、正式な戒律を伝えられる導師がいなかった日本のために、何度も渡航に失敗しながらもお越しくださった話は有名です。
鑑真和上そのひとの姿を写したお坐像は国宝に指定され、在りしの鑑真和上を伝えてくれます。
このお坐像がいらっしゃる場所が『御影堂』と呼ばれる場所でして、日本画家の東山魁夷画伯の襖絵が有名です。
東山魁夷画伯は、風景画でとても知られています。
若かりし頃ドイツに留学経験もあり、その頃の画も沢山残っていますが、人物の姿はないようです。
でも、その風景にはどこかしら体温があり、かつてここにいた人。または画面に出ていないだけで奥にいる人を想像できるような構成になっています。
鑑真和上の没後1200年の節目のとき、現在お坐像が安置されている『御影堂』の襖絵を東山画伯が手掛けることになったのですが、当時の唐招提寺長老さまが直々にお声かけしたそうです。
しかしあまりにも畏れ多いことと、画伯はすぐには回答できなかったそうです。
鑑真和上のお坐像の公開は毎年6月にあるのですが、その時にひそかに、一般のひとにまぎれて拝観に行ったそうです。
そして、和上のお坐像と対面し、その功績やご苦労に感じ入り、大役ではあるが引き受けることを決意したといいます。
結果、完成した襖絵は、画伯の人生で最長の全長80メートル、11年を費やす大作になりました。
制作までに一年かけて、唐招提寺のこと、鑑真和上のこと、奈良のことを勉強され、「中国から日本へ渡ってきたその景色を描きたい」ということで中国にも取材旅行をし、国内のあらゆる海岸でスケッチを重ねて構成を考えた上での作品でした。
画伯のこだわりとして、鑑真和上のふるさと、中国の様子は中国の伝統的な技法である山水画でもって描きたいということで、中国の場面だけが白黒の山水画で描かれています。
そして日本につながる海は、東山ブルーと呼ばれる鮮明な青でもって表現されました。
見ればみるほど深みが出てくる濃い青、薄い青、緑がかった青。
少しずつ色が重ねられ、まるで鑑真和上そのひとの清らかさを表現したようです。
鑑真和上は、来日のときにはすでに失明していた、という伝承があります。
せっかく日本に来ていただいたのに、この日本の景色を見せて差しあげられなかった。
せめて、日本の美しさを捧げたいという思いが、この御影堂・襖絵にはこめられているそうです。
唐招提寺境内には、ここをおとずれた松尾芭蕉の句碑もあります。
若葉して 御目の雫 ぬぐわばや
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