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日本で最も美しい村

「この村には人のことを悪く言う人はおらんけぇ」

東京に戻ってきてからもずっと耳に残り続けている言葉。
きっとこの一言にこの村の全てが詰まっているのではないだろうか。

岡山県の西北端、鳥取との県境に新庄村という村がある。人口は約800人。日本全国で合併が進む中、過去に一度も合併をせず、ずっと村であり続けることを選択している。力強く、そしてとても柔らかい村。日本で最も美しい村にも認定されている。
旧出雲街道の宿場町「新庄宿」の面影が残る「がいせん桜通り」では、春になると沿道に美しい桜のアーチが姿を見せ、その村の歴史と魅力をさらに引き出してくれるらしい。

がいせん桜通り

信頼できる方のご紹介を通じて、私は幸運にもこの美しい村と出会うことができ、この度村の採用アドバイザーを拝命することとなった。日本は今、急激な人口減少により採用難があちこちで叫ばれていて、地方自治体にとっては今後の存続を懸けた非常に大きな課題となっている。
これまで約17年、首都圏を中心としたあらゆる企業の人材採用支援を行ってきたが、ここ数年はどの企業からも人材不足に関する相談が絶えない。しかし、自治体の人材不足はその比ではないレベルで深刻な悩み。客観的な立場から見ると、まさに「待ったなし」の状態であり、非常に緊急度の高い課題であると考えている。
こうした状況を見て、弊社では1〜2年ほど前から、首都圏に加えて地方の採用支援も始めていて、今回はまさにその1つのプロジェクトとして、「新庄村」と「一般社団法人むらづくり新庄村」と「ALL IS NEW」の三者間連携協定を結ぶべく、現地を初訪問してきたのであった。

岡山空港に降り立つと、村の職員である千葉さんが温かい笑顔で迎えに来てくださっていた。オンラインでは何度か顔を合わせていたが、リアルでの対面はこの日が初めて。しかしながら、とても初対面とは思えないほどの安心感とバランス感のあるお人柄にすっかり甘えてしまい、現地に滞在中はとてもとてもお世話になった。(千葉さん、本当にありがとうございました!)
そして今振り返ってみれば、千葉さんとの対面の時点から、「村の性格の良さ」を感じ、終始その印象が変わることなく今に至る。

村に到着後は、村長・副村長と共に調印式に参加。調印後はお二方と意見交換をさせていただいたのだが、失礼ながら想像していた以上に村の外にもしっかりと目を向けられていて、人材採用に限らず様々なテーマでのディスカッションの時間となった。それだけ危機感を募らせているという裏返しであるとも理解し、私のスイッチが大きく入った瞬間でもあった。

連携協定締結式にて、新庄村の村長・副村長と

さて、今回は少しでも村の空気感に触れたいと希望し、1日延泊して村に滞在させてもらったのだが、その間宿泊した宿がとても素晴らしかった。
築100年の古民家をリノベーションした1日たった2組限定の「須貝亭」という宿。もうこれは行ってその素晴らしさを体験してほしいので、敢えて詳しくは説明しないが、まずは細部に至るまでのクリエイティブ、アメニティセンスに驚かされる。そしてそれらの全てをディレクションする女将のきめ細やかな心配りとお人柄に、到着早々、次もまたここに泊まりたいと思わされてしまった。

須貝亭
部屋からは桜通りが見渡せる

夜は、滞在した2日間ともに新庄村の方々とご飯をご一緒させていただいたのだが、なんと初日から2次会でご自宅に招いていただいたり、村のみんなに愛されている山田商店(食品や酒、雑貨まで何でも揃うお店)で店主や地元の方たちと持ち寄ったつまみを肴に深夜まで飲み語らったり。
他所者である自分をこんなにも自然に、そして暖かく迎え入れてくださる風土にすっかり惚れ込んでしまった。色んな地方を周っているが、ここまでに自然体で溶け込める場所が今まであっただろうか。感動による興奮と、人の温かさに触れた安心感とがごちゃまぜになりながら、あっという間に時間が過ぎ去っていってしまった。

新庄村ならではの食材や郷土料理、自然、美しい景観、懐かしくも洗練された古民家。語ろうと思っても語り尽くせぬほどの魅力に触れてきた中で、最後自分の心の真ん中に何が一番残ったのかと言うと、やはりそこは「人」だった。
千葉さんに村を案内してもらった際に、村で暮らす方とすれ違うシーンが何度かあったのだが、すれ違う人のほぼ全員が顔見知り同士で、当たり前のように軽い雑談が始まり、笑顔と共にすっとまた日常に戻っていく。そんな光景に何度も立ち会った。
山田商店で深夜まで飲んでいた時に、村人の誰かの話になるとみんなまるで自分のことかのように誇らしくその人を語っていた。
あぁ、なんて素敵な村なんだろう。なんて思いながら何度もお酒を口に運んでいた合間に誰かがふと言った。

「この村には人のことを悪く言う人はおらんけぇ」

まるで呼吸をするかのように当たり前に、こんな言葉がポロッと溢れるという事実に、私は激しく感動してしまったし、それと同時に強く納得してしまった。
そう、この村に住む人は、みんな互いをリスペクトしている。
そして心根が本当に優しい人ばかりなんだ。

東京に戻ってから、間も無く1ヶ月が経とうとしている。
それでもまだつい昨夜のことのようにあの心地よさが耳と心に残っている。

春には満開の桜ががいせん通りを照らし、より村を美しくさせるらしい。
さて、誰を連れていこうか。

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