アテネの数日 023 第二章-3 フランシス・ライト著
「これ以上の反論はないでしょう」と賢者は答えた。
「だが、アテナイで最も鋭く優雅で繊細なそちの筆によって、あの年老いた逍遥学派(1)(アリストテレス学派)の学者たちもすでに沈黙しているだろうと思っていたよ。」
レオンティウムはその賛辞に一礼した。
「それが噂のレオンティウム(2)か?」とテオンは小声でつぶやいた。「ティモクラテスは嘘つきに違いない。」
「もしテオプラストスの主張の中に、自分の正しさを確信していると感じなかったならば、今夜これほどまでに彼が間違っていると考えたことはなかったかもしれません」とレオンティウムは続けた。
「この原因は彼の自尊心によるものなのでしょうか、それとも私の虚栄心からくるものなのでしょうか?」
「おそらく、両方にあるのだろう」と師は微笑みながら言った。
「その通りかもしれまぜん」とレオンティウムが応じた。
「テオプラストスが自尊心をさらけ出すたびに、私の自尊心も傷つけられました。自分の考えが正しいと証明しようとする者は、自分の考え以外のすべての考えが誤っていることを証明しようとしていることを忘れてはならないのでしょう。そして、このことからもその人は慎重になるべきであり、いざその仕事に取りかかるときには、なおさら慎み深く行うべきなです。他人に自尊心を捨てさせる前に、まずは自分の自尊心を捨てる必要があると、私たちは強く求められます。ただし、テオプラストスがこれを忘れてるからといって、彼だけを批判したくはありません。私が知っている限り、いつもこれを心掛けているのはだた一人だけです。温和さと謙虚さは、教師にとって必要不可欠でありながら、ほとんどの教師が持ち合わせていない資質なのでしょう。アテナイの若者たちがソクラテスの教えに耳を傾けたのは、まさにこの資質のおかげです。そして、この資質こそが」と師の方に向き直りながら、「エピクロス様、皆の耳があなたに対して向くことになるでしょう。」
「もし君の称賛をそのまま受け入れることができるのなら、その予言が真実であることに疑いの余地はないであろう。実際、聞くものに与える印象においては、真実をどのように伝えるかが、その真実自体と同じくらい重要なのだ。無愛想な者から知恵の言葉を受け入れるのは、厳格な者の中の美徳を愛し、見いだすのが難しいのと同じくらい難しいものだ。」賢者はそう言いながらテーブルのそばに近づいた。
夕食の間、テオンの視線はしばしばこの女性の弟子の顔に釘付けになっていた。なんという気品!なんという威厳!それ以上に、なんという知性!これが──これが、ティモクラテスが「恥知らずの娼婦」と呼んでいたレオンティウムなのか!そして、これが彼が言葉にできないほどの罵詈雑言を浴びせたエピクロスなのか!そして──テオンはテーブルを見渡しながら独り言を続けた──ここにいる彼らが不敬な師の悪徳の犠牲となったとされる献身的な弟子たちだというのか!
注釈
1. 逍遥学派(Peripatetic): アリストテレスが創設した哲学の学派で、「逍遥(peripatetic)」とはアリストテレスが弟子たちと歩きながら講義を行ったことに由来する。
2. テレオンティウム (Leontium) - アテネ出身の女性哲学者で、エピクロス派の弟子。知性と教養を持ち合わせた人物として描かれている。