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アテネの数日 024 第二章-4 フランシス・ライト著

「今夜、先生はなんと良いときに到着なさったことか」とソフロン(1)は哲学者に向かって叫んだ。「私たち弟子の二人の熱のこもった議論の息遣いを治めるに、まさに絶好のタイミングで!」
「そしてこの三人目の冷静な耳で聞いている私にとっても」とレオンティウムが割り込んだ。「私は完全に議論から追い出されてしまいました。」

「何の議論をしていたのかね?」とエピクロスは尋ねた。

「悪徳の者に対しては憤るべきなのか、それとも軽蔑するべきなのか、という議論です。メトロドロス(2)は前者を、私は後者を主張しました。どうか先生に判断していただきたい。」

メロとドス 「師が意見を述べたとしても、それが正しいとは限らないぞ。」
レオンティウム 「それで、先生の意見はどちらが正し・・・」

「どちらでもない。」

「どちらでもない!この問題にあの二つ以外に対処があるとは思いも寄らなかった。」

「第三の見解じゃよ。私は、どんな問題であれ、常に複数の側面があると考えている。もし私が悪徳の者を憤りの対象としていたら、一人たりとも徳へ導くことはできなかっただろう。もし私が彼らを軽蔑していたら、一人として救おうとは思わなかっただろう。」

「どうして私たち弟子たちは先生の思想をこんなにも理解できていないのでしょうか?」とレオンティウムは言った。
ソフロン 「言われてみれば、我々の師が悪徳の者を哀れみ以外の目で見たことが一度でもあっただろうか?」

「確かに」とメトロドロスが言った。「なんでそのことを思い起こせなかったのか。そのことこそが、あなたと幾度となく議論し、そして違う見解を持ち続けてきた唯一の点だったのに。」

「思い上がってはなるまいぞ、息子よ。誰でも自分で考える権利がある。そして、自分の意見が絶対だと決めつけて、他の人の意見を無視するようなものはここにはいないはずじゃ。たとえそちたちが今回私の意見に納得しなかったとしても、他の場面で納得してくれるなら、それは私にとってより嬉しい限りだ。とはいえ、私の考えに賛同したいと願うのなら、私の意見よりももっと説得力のある意見を述べるものを紹介しよう。」

「それは誰のことですか?」

「他ならぬ、時の老師だ」と師は言った。「彼は私たちをゆっくりと人生の道へと導き、多くの真実を示してくれる。このことは学校で教えることは無いし、たとえ教わったとしてもすぐには受け入れがたい真実でもある。人間生活の知識は、自らの人生を通して得るべきものであり、賢者の教えだけではそれを十分に伝えることはできない。人間に対する理解もまた、自分自身で観察し学ぶことが必要であり、他人の話だけでは信じるまでには至らない。息子たちよ、君たちがさらに多くの人生経験を積み、さらに多くの人々を観察した時には、(少なくとも私はそう思っているが)、人の過ち——いや、罪といえるものでさえも——それに対して寛大であるべき判断が、間違っていないことが分かるだろう。若い頃は感情の衝動に基づいて行動し、判断を下す間もなく感じてしまうものだ。自分の目には悪と映る行為に対しては恐怖でいっぱいいっぱいになり、その行為をした者に対し哀れみの余地も与えずに遠ざけてしまう。しかし、年齢を重ね、円熟した判断力が身につけば、人を誤らせる誘惑や、その人が生まれた時から抱えてきたかもしれない不利な生い立ちが見えてくる。そして、その時初めて、罪への憤りはその人への哀れみへと変わるのだよ」


注釈

1. ソフロン(Sofron): エピクロスの弟子の一人。ここではエピクロスに対して親しげに話しかける若者として描かれている。
2. メトロドロス(Metrodorus): エピクロスの最も信頼された弟子の一人で、エピクロス学派の教えを広めた主要な人物。彼はエピクロスの親友でもあり、共に快楽主義の哲学を探求した。

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