胸郭の可動性が競泳競技に及ぼす影響
胸郭とは?
胸郭の可動性は日常生活、スポーツ動作・局面においてさまざまな影響をもたらします。胸郭と密接に関与する肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節の可動域にも大きな影響を与えます。すなわち胸郭の可動制限は様々な関節の可動域に影響を及ぼす可能性があると考えられます。
今回の記事では、胸郭の構造や動きを確認しながら胸郭の可動制限がもたらす競泳のパフォーマンスへの影響について触れていきます。
胸郭の構造
胸郭とは胸椎 ・肋骨および胸骨で囲われた部分腰椎と頚椎の間にある 胸椎 ・肋骨・ 胸骨 で構成された体幹の上部を指します。この中には心臓や肺、肝臓などの重要な臓器が多く存在しています。また呼吸運動も担っており呼吸筋である横隔膜は多様な筋連結を有する為、胸郭の可動性はパフォーマンスだけで無く日常生活においても大きな影響を与えていると考えています。
胸郭の可動性とは?
胸郭の動きを担うのは、胸椎による屈曲・伸展・回旋・側屈による動作で、その動きをスムーズに出すために、肋骨が開いたり閉じたりという動きが連鎖的に起こります。
しかし、肋骨の可動性が不十分であったり、胸椎の伸展動作に何かしらのエラーがある場合、正しい動作を行えず、腰椎の過度前弯・肩関節の過度屈曲による代償動作や障害のリスクが発生しやすくなると考えています。
このことから、普段手を挙上することが多い方、スポーツ選手であればオーバーヘッド動作の多い競技(野球・バレー・競泳など)では胸郭の可動性がパフォーマンスに対していかに重要な役割を担っているかが理解できるかと思います。
また上述にもあるように胸郭の可動性は、呼吸や腹筋群への影響も大きいためさまざまな角度から胸郭の可動性が与える影響を考慮する必要があると考えています。
胸郭の可動制限によるパフォーマンスへの影響
実際に胸郭の可動域は競泳にどのような影響を及ぼすのかを競泳の基本姿勢である『ストリームライン』から見ていきたいと思います。
上肢挙上における必要な動作(胸椎伸展)
上部肋骨:挙上
後方回旋下部肋骨:拡張
外旋肩甲骨:外旋・後傾
可動制限なし
肩関節の屈曲動作を例に挙げてみると、肩関節の屈曲角度が上がるにつれて胸椎伸展運動が起こり、肋骨が開きながら腕は挙上されていきます。肩甲骨に関しては、最終域において外旋・後傾運動を伴う事で上肢挙上をスムーズにすると考えています。
上腕骨の屈曲に伴い、肩甲骨と連動して動く現象を『肩甲上腕リズム』と呼びます。この動きが正しく行えることで代償動作のないスムーズな肩関節の動きを獲得できていると考えています。
可動制限あり
胸郭の可動性不足により前面の可動性が確保できず肩甲骨の外旋・後傾運動が阻害されている状態と考えています。また、現代の風潮として頭部前方突出、胸椎過後弯による肩甲骨外転・挙上が常態化し小胸筋過緊張、前鋸筋機能不全により肩甲帯不安定化など様々な要因が可動性不全を引き起こしていると考えています。
可動制限+代償動作
胸椎伸展可動域不足により、腰椎の過進展による代償動作が出ているパターンとなります。腰部の伸筋である脊柱起立筋群の筋発揮が常態化し腰背部の過緊張、及び骨盤前傾/後傾可動性を低下させる可能性があると考えています。
腰部へのメカニカルストレスが日常的にかかることにより、『伸展性ヘルニア』や『分離症』を誘発する危険性があると考えています。
リカバリー動作と胸郭可動性の関係性
胸郭の可動制限によるストローク上でのデメリットとしては
腰椎の過度前弯によるボディポジションの低下
ボディポジションの低下による抵抗の増大
可動制限による呼吸への影響
肩甲骨の可動域不足による肩関節への負担大
腰椎過度前弯による腰椎の運動ストレス増大
などが挙げられます。
まとめ
胸郭の可動性は競泳の競技パフォーマンスに大きな影響を及ぼしている為、日々のトレーニング・ケアは欠かせないと考えています。特に競泳は上肢挙上している時間が長く、努力呼吸の多い競技である為、肋間の可動性を担う肋間筋が硬直しやすく筋連結を有する腹横筋・腹斜筋・前鋸筋のタイトネスを引き起こしやすいと考えています。
この記事が少しでも競技力向上や動作改善の一助になりましたら幸いです。