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【映画考察】なぜ人は悪に染まるのか?美しく繊細な悪のカリスマ『JOKER』

・白人差別
・障害者
・経済格差
・母子家庭

映画『JOKER』は、様々な社会問題が詰め込まれた現実的で暗い社会の話。

基本情報:
・舞台は1970年代後半~1980年代後半のアメリカ
・JOKERの本名はアーサー
・JOKERがどうやって悪に染まったか、という背景が描かれた作品

1. 社会の最下層

アメリカは長い間社会の構造的差別を行い、事実上の「白人男性優位社会」を作ってきた。

  • 黒人、ラテン系などの人種差別

  • LGBTQ+差別

  • 女性差別

しかし、アーサーを取り巻く「人種」に注目してこの映画を見てみると、ある規則性に気がつく。

まず、黒人たちはアーサー(白人男性)より豊かな生活を送っていること。

アーサーの隣人女性

アーサーは白人、男性、恋愛対象は女性、言わばアメリカでは差別対象ではない「優遇された」階級にいるはずの人間。にも関わらずこの映画に登場する黒人(女性が多い)は決まってアーサーよりも幸せそう(経済的・精神的)に暮らしている。

また、映画の冒頭でアーサーは少年たちから道端で集団リンチを受けるが、彼らは全員ラティーノだ。

さらに、彼が地下鉄で金持ちエリートたちを殺した際、彼を「ヒーロー」と拝めデモを起こすのは全員が「白人男性」だ。

この映画は、社会から優遇されていると認識され、弱い立場にいることを誰にも気づかれない、大多数の白人男性たちの存在に焦点を当てている。

2. 幼少期の虐待による障害もち

アーサーは突然笑い出してしまうという障害を持っている。

これは母親(とその彼氏)からの幼少期の虐待が原因で、背中には大きな火傷の跡もある。

幼少期から虐待を受けても泣かないで笑っていたアーサーのことを、母親は「HAPPY」という愛称で呼んでいるが、アーサーはその事実を何も知らないまま母親(実の母親ですらないが)と2人で暮らしている。

彼は定期的に黒人女性のカウンセリングに通っていたが、政府(富裕層)の方針で社会保障の予算が削られ、突然にカウンセリングが終了してしまう。

3. 経済格差

後半、不平等な社会を生きてきた彼が、富裕層たちに対して不満をバッと吐き出すセリフがある。

Why is everybody so upset about these guys? If it was me dying on the sidewalk, you'd walk right over me. But these guys, what, because Thomas Wayne went and cried about them on TV?
なんでみんなあの若者3人(アーサーが地下鉄で殺したエリート)についてわーわー言うの?僕が道端で死にかけてても、見向きもしないじゃん。彼らはなに?トーマス(政治家)がテレビで同情したから?

Nobody thinks what it's like to be the other guy. You think men like Thomas Wayne ever think what it's like to be someone like me? They don't. They think that we'll just sit there and take it like good little boys, that we won't werewolf and go wild.
誰も他の人の立場になったらなんて考えない。トーマス(政治家)みたいな人たちが、僕みたいな人になったら、って考えたことあると思う?ないよ。僕達みたいな負け犬は、ただ良い子で座ってると思ってる、獣になって暴れまわるなんて、彼らは思ってもないんだよ。

これは彼の言葉でもあるけれど、社会に押しつぶされた弱者たちを代表する言葉だなって思う。


犯罪には善悪がつけられないことがある。

犯罪心理は、社会的背景や経済的、家庭の背景が浮かび出てきて、その現状を作り出したのは富裕層だったりするから。

富裕層が社会的弱者に耳を傾け、弱者の気持ちになって真剣に社会を作ろうとしない限り、いつまで経っても富裕層と貧困層が心から分かり合えることはないだろうな。

4. 犯罪心理

彼は急にJOKERになったわけではなく、プッチンポイントが何度もある。

プッチン①:仕事がクビになる。
ピエロ姿で仕事をする中で不良にリンチされることがあったため、アーサーは護身用に同僚にもらった銃を持ち歩いていたが、仕事現場の子供病棟で銃をポロッと落としたことが原因。

→そのままイライラして地下鉄でリンチしてきたウォール・ストリートのエリート若者3人を射殺。


プッチン②:コメディアンとして尊敬するモーレイに自分のネタをバカにされる。

『アーサーのネタ⑴』
I hated school as a kid, but my mother would always say 'You should enjoy it. One day you'll have to work for a living' 'No, I won't, ma. I'm gonna be a comedian'
子供の頃、学校が嫌いだった。でもお母さんはいつも「楽しみなさい、いつか働かないといけないんだから」僕は「いやいやママ、僕はコメディアンになるんだ」

(面白くなくて誰も笑ってない)

モーレイ:
You should have listened to your mother.
君はお母さんの言うことを聞くべきだったね。

『アーサーのネタ⑵』
When I was a little boy, and I told people I was gonna be a comedian, everyone laughed at me. Well, no one's laughing now!
小さい頃、僕はみんなにコメディアンになるって言って笑われてたんだ。ほら、今では誰も笑わないだろ!

(面白くなくて誰も笑ってない)

モーレイ
.....You can say that again, pal.
そうだね。

→憧れのモーレイに散々言われ、アーサーはガチで落ち込む。


プッチン③:政治家(大富豪)トーマスに「お前の父ではない」と言われる。

アーサーは母経由でトーマスが父親だと知り、トーマスの家まで行き、彼の小さな息子に会う。その後トーマスを探して大富豪が集まる建物に入って見つける。

アーサー:
I don't know why everyone is so rude. I don't know why you are. I don't need anything from you, maybe a little bit of warmth, maybe a hug, DAD! How about just a little bit of fucking decency?
なんでみんな優しくないのかわからない。あなたも。何か欲しいとか思ってない。少しの暖かさとハグぐらいだよ、パパ!少しぐらい優しくしてよ!

(アーサー殴られる)

トーマス:
Touch my son again, I'll fucking kill you.
もし俺の息子にまた触ったら殺すからな。

→アーサー、冷蔵庫に閉じこもる。


プッチン④:母親には妄想癖があること、幼い頃の自分を育児放棄&虐待してたことを知る。

彼の母親が入院してた際のカルテ:
Suffering from delusional psychosis, and narcissistic personality disorder. Was found guilty of endangering the welfare of her own child. Son was found tied to a radiator in your filthy apartment. Malnourished with multiple bruises across his body & severe trauma to his head.
母は妄想癖とナルシストの精神障害。児童虐待で有罪判決。息子(アーサー)は汚いアパートの部屋で暖房にくくりつけられているところを発見される。栄養失調、身体中に傷、脳にトラウマがあった。

(ここで、母から大富豪トーマスの息子だと言われたのが妄想だったと気づく)

→母親殺す。
ここで、銃をくれた同僚が自分勝手な要望のために訪ねて来たためついでに殺す。(このシーンが一番グロい)

その後TVショーに出演、自分が地下鉄で3人殺したと自白。自分をバカにしたコメディアンのモーレイを生放送中に射殺。

その裏で、富裕層を殺すJOKERは貧困層(社会からはじき出された白人男性)のヒーローになっていく。

そして街で暴れまくった貧困層が、大富豪トーマスと妻を殺す。息子だけ生き残り、これが後のバッドマン説。


5. どこからが妄想だったのか問題

最後のシーンでアーサーは刑務所におり、
Just thinking of a joke. You wouldn't get it.
ジョークを考えてただけだよ。君には理解できないだろうけど。

って言うシーンがある。

この映画のどこかからは、JOKERの頭の中のJOKE(妄想)だったのかもしれない。

全部最初から妄想、って捉え方もできて、人によって見方が違うところも楽しめるポイント。

6. なぜJOKERを日本人に見てほしいか?

この映画が決して、「他人事」ではないから。

私たちの住む日本では、
・日本人
・異性愛者
・男性
のような特権を持つ人が全員優位だと思い込んでいる人がいる。

でもJOKERと同じで、私たちが優位だと思い込んでる人たちも同じように生きづらさを抱えてて、それに気が付いてくれる人も助けてくれる人もいない。

一部のエリート男性たちが社会の最優位な地位に君臨する一方で、そのエリート集団から外れた男性たちは誰からも気づかれない社会の最下層で苦しんでいる。

単純に、彼らの席を移民や女性の社会進出によって奪ってるからだけじゃない。彼らの能力が低いわけからでもない。

それは日本において、男性の価値は「カネと権力」によって評価されるから。

例えば、この社会には何度も結婚と離婚を繰り返すことができたり、とっかえひっかえ色んな女性を相手にする男性たちがいる一方で、誰からも相手にされない生涯孤独な男性たちもいる。自由恋愛という名の一夫多妻制社会。

その差は、カネと権力。

じゃあ、働いて稼げば?
って思うけど、日本式教育にはまることができた男性はエリートコースを歩んで出世していく一方、(財力や能力によって)教育のシステムから外された男性は仕事すら選べず、給料も低いままなのが現状。


「自分が結婚できないのは女性のせいだ」
「自分が貧しいのは日本の教育のせいだ」
「自分が存在を認められないのは日本社会のせいだ!」

いつの日か、日本の外から来る移民たちの方が豊かな生活を送り、日本にずっと住んでいた日本人男性たちが外食すら行けないような貧相な生活を送っている未来も、そう遠くはないと感じている。今のアメリカがそうであるように。

JOKERの映画のような大規模なデモが起こる日も遠くないかも。

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