本屋さんのお店番と神さま ②
目覚ましなしで、起きれたのはいつぶりだろう。
泊まった部屋に差した朝日で目を覚ます。起きてすぐにしあわせの中にいた。大町市のおとなりの長野県の松川村、『深々』さんのEarthというお部屋に泊まった(部屋の名前がもう、たまらん) 夜も朝もデッキに出て、北アルプスを眺めていたらあっという間に1時間が経っていて驚いた。遠くから聞こえる大糸線の線路の音と都会では聞かない優しくてとても美しい鳥のさえずりを聞いて、滞在時間もあっという間に経ってしまっていたのがとても悔しい。
お店番のあと、小野村さん(大町市の書麓アルプの店主さん)がタクシー役を引き受けてくださり、深々さんまで送ってくれた。夕方から夜に変わろうとしている町を横目に車の中でなんで本屋さんになったのかなれたのか、どうやったら本屋さんになれるのか、と小野村さんに聞きたかったことを聞きまくった。小野村さんはいっさい嫌な顔をせず、むしろ運転してるのに微笑みながら話をしてくれた。小野村さんの横顔を見ているだけで本屋さんになりたい気持ちが膨れてきた。もわもわもわもわ。
今のわたしの現状をお話した。お話したよりもお話できたに近い。小野村さんから出ているなんでも話してください〜の空気感にすぅと入っていけたから、自分のことを話すことができたのだと思う。10年間の友達よりも8時間前に初めて会った人の方が、わたしはわたしのことを話せる人なのかもしれない。
深々さんに着いて店主の浅田さんが迎えてくれたときにこの方も好きだ〜って思った。小野村さんも浅田さんも何者かわからないわたしになんの疑いもなく、大きく両手を広げていらっしゃい〜をしてくれた。人の温かさに包まれてぎゅーってしてもらったから、心があれよあれよとあったかくなった。あったかいものに触れると涙が出てくることをここ最近忘れていた。Earthの部屋に戻って、いまの状況にうれしくて少し泣いた。この方々と一緒の空間にいれるのは、長野の本屋さんにお手伝いにいくという行動を起こしたからだと思ったら、自分のことを褒めてあげようって、今日だけは自分のことをとことん甘やかせようと決めた。(なんでも食べていいよ、お話ししていいよ、好きな時間にシャワー浴びていいよ、寝る前にケーキ食べていいよ、歯磨きしないでベッドにダイブしていいよ!)
深々さんにはおもしろい本がたくさん置かれていた。わたしが到着したときに、棚主の本屋さんが2人カフェ利用されていて、そしてそこに小野村さんが交じった。目の前に3人の長野の本屋さんが集まっている。本屋さんになりたいって声に出したらこんなことが本当に起こるんだ、言霊って本当にあるな、って思った。本屋さんから名刺をもらって手が震えた。わたし本屋さんになりたくて、と情けなくて弱々しい声で伝えたら、仲間ですねと微笑んでくれた。あー、来てよかった。まだなにも始まってないけど、もう始まってる感じを少し感じた。(感じまくってる)
本屋さんを開くなら新しく出た本だけを扱いたい、とざっくり思っていたがアルプさんでお店番をさせていただいて考えが変わった。古本のなかには手に入れることが難しい絶版になっている本がある。ある人がずっと探し求めていた、運命の一冊になることもある。捨てられてしまう本が、新しい人に知識や感動を与えることもある。新しい本だけが売れるということではないことを知った。「こんな古い本どこで見つけてきたのよ!」とアルプさんにいて、たくさんの山好きの方に声をかけられた。アルプさん=山の本がお客さんに根付いている。これってものすごいことだと思った。自分のコンセプトとお客さんが感じるものが合致するって難しいことで、店主さんの想いが店に置かれている本を通じてお客さんに伝わっているってことだ。
わたしだったら、どうするかな。なにをコンセプトにお店を展開していくかな。そんなことを考えはじめるとあれよあれよとノートにペンが進んだ。
始まった、本屋さんになる夢が。夢が現実になるための大きな一歩を自分で踏み出せたのだ。周りには応援してくれる人がわたしには幸運なことにたくさんいる。だから夢で終わらせたくないし、公務員の先生でも、心を体を壊して仕事を休んでた人でも、本屋さんの経験がゼロの人でも、女性でも、結婚していても、本屋さんできるよ!ってことを伝えられる働き方をしたい。自分のために人のためになれば、それがわたしの生きる意味になる。生きる意味を自分でつくろう。
書いている今も、本屋さんのお手伝いは夢だったんじゃないかと思ってしまう。大丈夫、東京の家にはアルプさんから持ち帰った本たちがお気に入りの椅子に高く積まれている。寝室にあるその(積本椅子)を寝そべりながら見るたびに、信濃大町駅から見た北アルプスや、透き通ったおいしすぎる空気、レジから見えるアルプさんの景色やこの旅で出会った人たちの顔がはっきりと思い出される。だから大丈夫、夢じゃない。
あずさの時間が迫ってきたので、恥ずかしがりながらもエイっと小野村さんに2ショットをお願いして、ニーっと歯を見せたキラキラした写真を取ってもらった。余韻に浸りながら左手にお持ち帰りの本が5冊入ったトートバックを覗きながら信濃大町駅に向かって歩いていると、高校の友だち(優子)からの着信があった。本屋さんでお手伝いしてきましたよ、いいでしょ!のテンションで電話に出ると「わたし今開業届出してきたよ~。なおに報告すぐしたくて」っていう愛おしすぎて、強すぎる連絡だった。新しいことを始めたときに連絡したいと思ってくれる人が、わたしにいるという事実がうれしくて、わたしは優子に(おめでとう)と(ありがとう)を伝えた。そのあとで2日間の出来事を話したら優子が「うちの実家の空き家で本屋さんやってみなよ。お母さんに聞いておくから!」と、話がタイムリーすぎるのと展開がジェットコースターみたいだったから信濃大町駅のホームでうそん!と叫びに近い声が出てしまった。
わたしは周りの人と優しさの中で生きていて、生かされている。
松本から立川まであずさに乗った2時間弱は、ずっと立ちっぱなしだったけれど、アルプさんパワーでとてつもないドーパミンが出ていたおかげで、座りたいと思うことは一度もなかった。