色々あるけど、映画って面白い
ケータイの受信履歴を見てドキリとする。父の入院先の病院からの電話だ。気付いたのは仕事終わりの午後5時。履歴は午後4時過ぎである。何かあったのだろうか?恐る恐るかけてみると、なんと、父が入れ歯を無くしたらしい。
とりあえずコロナにかかったわけでもなく(そこの病院でコロナが発生していた)、体調不良でもなくて一安心。ついでに、時折集中豪雨のように激しく降る雨の中、呼び出されずに済んだことに安堵した。
嚥下が悪い父は、1日でティシュ1箱使い切る強者だ。家にいる時からペッペペッペと、飲み込めない唾を吐き出していた。入院して点滴だけで過ごしてる今、痩せて入れ歯が合わなくなったのだろう。ティシュと共に去りぬ、父の入れ歯、今いずこ。
今度は母のショートステイ先からメールが入った。ショートステイのスタッフ1名が発熱して、検査をしているという。結果次第で、来月家に帰る予定日がずれるかもしれない。
もし、家に帰った後ショートステイ先でコロナが出たら、受け入れストップ。施設には戻れない。それはそれで困るんだ。日中ひとりにしておけないし、夜勤もある。よもや夫がオムツ交換してくれるはずも無く、完全にお手上げだ。
一度入居したら(ロングショートステイだから形は在宅だけど)慣れちゃうんだね。母も父が居ない家に帰って来ても、あまり楽しそうじゃない。逆に、施設ではおしゃべりできる知り合いも増えたらしい。上げ膳据え膳で暑さ寒さを感じない生活は、まんざらでもなさそうだ。そう、老母の休日だ。
振り返ると、初めて母がショートステイに行った日は、目に涙を溜めて見送ったものだ。父が入院して、胃瘻もしくは皮下埋め込み型留置カテーテルの選択を求められた日は、家に帰って号泣した。でも、家にいるより病院にいる方が、熱中症になることもないだろうし、案外若い看護師さんの甘い匂いに囲まれてニヤけているのかも(父はスケベだから)。
実家へ週2、3回通っていた日常から解き放たれて、一抹の淋しさは感じるけれど、しょうがないんだ。秋になったら、キラキラ光る夏の海や向日葵の溢れんばかりの力強さを懐かしく感じたり、冬になったら、秋の燃えるような紅葉や、風に揺れる秋桜を切なく思い出したりするのと一緒。
両親と同じ歳になったら、50代の自分を想い出して、『あの頃は若かったわねー!ひとりで買い物にも行けたし、焼肉だって自分の歯で、美味しく頂けてたわ〜』などと、病院のベッドで愚痴を叫んでるかもしれない。
そんなこんなで暇な時間ができた最近、ネットサーフィンをして過ごしている。最近は恋愛映画をちょくちょく観ていて面白いのがあった。
《先生、私の隣に座っていただけませんか?》
これは、黒木華と柄本拓のW主演の恋愛心理サスペンス。二人は漫画家夫婦で、主に佐和子(黒木華)が連載を持っている。佐和子の担当の編集者の千佳(奈緒)は、しばらく漫画を描いていない俊夫(柄本拓)の大ファン。そして、二人は不倫をしている。それに気づいた佐和子は、不倫をテーマに漫画を描くと俊夫に告げる。俊夫がこっそり見た下書きには、自分と千佳とのキスシーンや、佐和子と自動車学校の先生(金子大地)との恋模様が描かれていて仰天する。だんだん追い詰められていく俊夫。これは佐和子の妄想なのか?事実なのか?
内容と裏腹に映像が美しく瑞々しい。田舎の緑溢れる景色や、自動車学校に行く度変わっていく佐和子の服装。地味なパンツスタイルから、色鮮やかなスカートを身にまとい、耳元には揺れるイヤリング。特に、黒木華の佇まいというか存在感が好きで、グイッと引き込まれてしまった。映画にしろ小説にしろ、あまり記憶に残らない作品も多いけど(私だけ?)、この作品は忘れないし、また観たくなる。
もうひとつは大人の恋の始まりを、澄んだ湧き水が清流に流れて行くように丁寧に描かれた映画。
《おと•な•り》
岡田准一と麻生久美子のW主演。聡(岡田准一)はカメラマン。モデルをしている友人の写真集を撮った事で注目されるも、実は風景写真家になりたいと思っている。聡の隣には、フラワーデザイナーを目指して花屋で働く七緒(麻生久美子)が住んでいる。二人は顔も見たことがない、おとなりの生活音(基調音)に馴染んで、いつしかその音に、安らぎや心地良さを感じるようになっていった。
『基調音』とは、風の音、車の音、足音など普段なにげなく無意識に聴こえてくる音。風景を音で表現するときによく使われる風の音、雑踏のざわめきのこと。基調音は無意識に心に根付いている。例えば川のそばに住んで水のせせらぎを聞いて育った人は、同じような音を心地よいと思う相手に出逢うと、そこに運命を感じてしまう。
いやぁ〜、恋っていいな!そう思える作品。
明日(というか、今日)は夜勤だというのに、久しぶりに飲んだ苦いインスタントコーヒーのせいか、こんな時間まで起きてしまった。プラスして緑茶も飲んじゃったし。
明日(いや、今日だって)はきっと11時過ぎに起きるだろう。眠たい目を擦りながら、思いっきりカーテンを開けて陽射しを浴びよう(雨かもしれないが)。ペコペコのお腹に、夕食の残りの肉じゃがと、ワカメと豆腐のお味噌汁を流し込もう。さぁ、リビングで朝食を。