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創作童話 まあくんと いしの かめさん
まあくんと いしの かめさん
【月照寺の大亀伝説】
松平家の藩主が亡くなられた後、亀を愛でていた藩主を偲んで大亀の石像を造りました。ところが、その大亀は夜になると動きだし、蓮池の水を飲んだり、城下の町で暴れ人を食らうようになったのです。
困り果てた寺の住職は、深夜、大亀に説法を施しました。すると大亀は、「私にもこの奇行を止めることはできません。あなたにお任せいたします」と、大粒の涙をポロリポロリと流しながら頼んだといいます。そこで、亡くなった藩主の功績を彫り込んだ石碑を大亀の背中に背負わせて、この地にしっかりと封じ込めたのでした。
http://furusato.sanin.jp/p/area/matsue/37/
お寺の奥に、その亀はいました。石でできた、大きな亀です。亀のこうらには、大きな石が乗せられていました。いつからじっとしているのか、もう、亀にはわかりませんでした。
毎日、たくさんの人がやってきて、好き勝手に話していきます。「この亀は、夜な夜な悪さをしたそうだよ」「お殿様が可愛がってたんだって」。動くことのできない亀には、どうでもいいことでした。
ある朝、どこからか足音が聞こえてきます。だんだん近くなって近くなって……
「ここは、雨のにおいがするね。」
男の子の声がしました。「ねえ、背中の石、重たくない?」男の子は亀に近づき、よじ登って、ほっぺを押しあてます。「おっきな亀さん、こんにちは。ぼくはね、まあくん。いつも何を考えてるの?僕お話ししたいなあ」。
ふいに、女の人の声がしました。「まあくん、もう帰りますよ」。まあくんはにこっとすると、本堂の和尚さんにぺこりと頭を下げ、駆けて行きました。亀は、まあくんのことだけは忘れないでいようと思いました。
その夜のこと。お寺の和尚さんがゆっくりとやってきました。
「もしや、また人の話がわかるようになったのかえ。何も聞かんでよい、あと少しじゃ」。
和尚さんは深いため息をついて、話してくれました。亀が昔、お殿様のお気に入りだったこと。お殿様が亡くなってから、寂しさのあまり悪さをするようになったこと。えらいお坊さんによって、こうらの上に石を置かれたこと。それから、ゆっくりゆっくり、石になっていったこと。
「以来、この寺ではお前さんを見守ってきた。百年じゃ。それだけ経てばお前さんは完全に石になる。そうすれば、悲しまなくてよい。苦しまなくてよい。もう数年の辛抱なんじゃよ」
亀にはよくわかりませんでした。悲しみも、苦しみも、忘れてしまったようでした。
暑い日に、まあくんがアイスをもってやってきました。「一緒に食べたらきっとおいしいよ」。亀の口にアイスをたっぷりとつけ、自分の口をべたべたにしてアイスをなめます。
その時です。「こら!まあくん」。亀の顔はお母さんの手で、ごしごし拭かれ、まあくんは連れて行かれてしまいました。
そのまま、何日もまあくんはやってきませんでした。亀は、お腹がじっとりと重くなっていくのを感じました。
まあくんに会いたい。動きたい!
亀はハッとしました。百年前と同じ気持ち。百年前も寂しくて探し回っていたのです。怖くなりました。また悪さをしてしまったらどうしよう。亀はたくさんの心配につぶされそうでした。
「かーめーさーん」
まあくんの声に亀は驚きました。
「かーめーさーん」
涙がこぼれそうでした。まあくんにまた会えた。
「アイスを食べさせてごめんね。亀さんははっぱが好きなんだよね」
まあくんは、よじ登って話し続けます。
「僕テレビで見たんだ。南の島に、お友達がいるよ」。
それからゆっくり教えてくれました。南の島に、たった一頭で何十年も生きている亀がいること。長い首に長い手足、そして大きなこうら。なにもかもお寺の亀にそっくりだったこと。
動きたい、動いて南の島に行きたい。まあくんを乗せて行きたいなあ。亀は強くそう思いました。
その夜、亀は夢を見ました。自分の足で歩いています、動いています。大きな太陽。大きなはっぱ。そして、自分によく似た大きな亀。それは、南の島の亀でした。お寺の亀は、南の亀へと首をのばしました。たがいにほっぺが触れ合います。お寺の亀は、自分の真ん中がずん、ずん、と動きだしたのを感じました。南の亀ははっぱを食べています。口ではさんでは長い首をゆっくりと振り、ちぎれたはっぱを飲み込みます。
もっそり もそもそ もっそり もそもそ
お寺の亀もまねをしてみました。
もっそり もそもそ もっそり もそもそ
お腹がいっぱいになると、眠たくなりました。そうだ、今度はまあくんと一緒にこよう。お寺の亀はゆっくりと目を閉じました。
「かーめーさーん」
まあくんの声で目が覚めました。そこはやっぱりいつものお寺。こうらに石が乗っかっています。亀はがっかりしました。まあくんは、
「かめさんの好きなはっぱをもってきたよ」
わさわさしたはっぱを手に、よじ登ってきました。
「あれ、大きいはっぱがついてる!」
亀のこうらには大きな大きなはっぱが、いちまい、ぺたりと貼り付いていました。それは、南の島で、南の亀と、一緒に食べたあのはっぱでした。
「いいなあ、今度はぼくとお出かけしようね」
まあくんはそう言うと、亀のほっぺに南の島のはっぱをくっつけ、それからほっぺをぺたりとよせました。
おしまい
作品に寄せて
創作童話の3回目。好きなものを盛り込んだのですが、説明不足の感が拭えません。恥ずかしながら、少しだけ補足をさせてください。
島根県松江市にある月照寺には、石造りの大亀があります。冒頭でも引用にて紹介しましたが、藩主に可愛がられるも、その主亡き後、暴れて人を害するようになったために封じられてしまった大亀(諸説あるように思います。ウェブサイトで紹介されているのは、藩主の弔いに作った最初から石造りの亀でしたが、私はもともと藩主から可愛がられていた大亀だと思っていました。藩主を求め歩くうちに人を害するようになったと聞いたことも・・・)。
しっとりとした月照寺の片隅に、その大亀の像は今もあって、たしかに威圧感もありますが、どことなく寂しそうなんですよね。
私が童話を書くときは、だいたいが、何かに重ねて見出してしまった自分の寂しさを埋めるためなのですが、この月照寺の亀を見たときから、この亀に友だちがいたらいいのに、そう思っていました。
そんなある日、知ったのがガラパゴスゾウガメの「ロンサム・ジョージ」です。生存が確認されるピンタゾウガメ最後の個体と言われていたジョージは、実はすでにピンタゾウガメが絶滅したと考えられていた1971年にピン他島で発見されましたが、その時すでに最後の一頭。ゾウガメの生に人間の寿命を重ねるのもおかしな話かもしれませんが、私たちからすれば恐ろしく長い時間を、たった一頭で生きてきた亀です。
彼らが友だちになればいいのに・・・・・・。
そんな私の、夢物語でした。
もし、お読みいただいた方に少しでも温かい気持ちになってもらえたのでしたら嬉しいです。
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