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出席簿#29「先生の、小さな挑戦」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

10月7日、月曜日。早いもので、noteを初めて半年が経ちました。節目のこのタイミングで、お知らせがあります。

実は、先週の水曜日、別記事でも書いたのですが、拙著『おしゃべりな出席簿』が電子書籍になりました!もし「紙書籍は最近買わなくなったけど、電子書籍なら……」という方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会にお読みいただけると嬉しいです。どうかよろしくお願いいたします。

そして……こちらは「お知らせ」というほどでもないのですが、半年続けた朗読YouTubeは、いったん休止しようかな、と思います。もともと朗読が好きで、「本を読む時間はないけれど、聞くくらいなら」という人に拙著が届けばという思いから、お試し版のつもりで始めたのですが、電子書籍の方は読み上げ機能にも対応しているようですし、最近ちょっと慌ただしくなってきたので、このタイミングで発信スタイルを見直そうかなと。

noteは引き続き月木更新をしていきますので、よろしくお願いいたします。

さて、月曜日には拙著『おしゃべりな出席簿』お試し版として、連載当時の作品とそれに寄せて今の思いなどを気ままに綴っているのですが、連載当時から「これ、あとで見返したら面白いんだろうな」と思っていたのが、「教育のICT化」に関するネタ。今回は4年前に書いた、オンライン授業過渡期のドタバタ劇を取り上げました。きっと今の現場を回している先生方から見たら、「うわ!そんな時期もあったなあ」「当時ってこんなことさえも手探りでやってたっけ」なんていう感じだろうなと。

小説やドラマって、通信端末が描かれると一気に時代が特定されますよね。たとえば公衆電話とかポケベルとかが登場すると、それだけでノスタルジックな作品になったりするわけです(それが味わいとなることももちろんあります。)裏を返せば、目まぐるしく私たちを取り巻く通信環境は進化を遂げてきていて、それは学校現場でも同じこと。あのときはあんなに苦戦したのに、今は笑い話だね、なんて。そうなっていればいいなと思って4年前に書き留めた、小さな小さな奮闘記です。お楽しみいただけたら嬉しいです。

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定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。

「先生の、小さな挑戦」

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いつもなら気ぜわしく始まる月曜日。でもその日は、ちょっと違った。授業がない、生徒もいない。台風10号通過の日。天気予報が「最大級の注意を」と告げてほどなく決まった臨時休業だった。こんなときは時間がゆっくり流れているような思いになる・・・・・・ことが多いのだけれど。「そろそろだっけ」、「操作不安な人は20分前からパソコン教室で確認、だったよね」職員室がざわざわしている。臨時休業に関する文書と一緒に配った書類があった。「11時から、一斉接続テストをします」。それはオンライン授業の手引き書だった。

学校から生徒の姿が消えた春。あのときのようなことがまたいつ起こるか分からない。少しずつ準備が進んでいた。「台風の被害状況によるけど、そこは様子を見て、ね」。台風も感染症も、備えあれば憂いなし。うまくいけば、絶好のチャンスだ。

時計を横目にパソコン室へ。生徒には添付ファイルを開いて「課題」に取り組むよう伝えていた。課題というと大仰だけど、実際の質問は、「今日の天気は何ですか」。まだまだ外は土砂降りだ。まるで大喜利、どう返してくるものやら。

私たちにとっても貴重な練習の場。課題を入力して、添付して・・・・・・、よし、完成。ほっと胸をなで下ろしたその時、「この問い、変えてもええの」、学年主任のつぶやきが飛び込んだ。「2年部は、『遠足行くならどこ行きたい』って聞いてみるか」。

例年なら4月終わりの行事。だけど今年は緊急事態宣言のさなかで、どこにも行けるはずはなく、「ごめん、今は『延期』としか・・・・・・」、そればかりを繰り返してきた。

「盛り上がるかもしれませんね」。2年部・担任4名。不安といたずら心が入り交じった視線が飛び交う。「いきましょう」「アンケートフォームって作れたはずだよね」。やるならできることを最大限やりたい。じゃあ、それで」。オンライン初心者で悪戦苦闘すること15分、「できたー!」駆け込みで作った「課題」を生徒に投げかけた。

「□□行きたい」。すぐさま届いた返信が、なんだか嬉しい。だけど、「問いをよく見て」、力作のアンケートフォームから返してほしかったのに、コメント欄への入力が相次いだりして。「すみません、見てませんでした」「添付ファイルが開けません」。こちらが直前に変更したせいで混乱しているのも否めない。「大丈夫、今日は練習だから。もし再入力できるならやってみよう」。画面の向こう側で奮闘している有志に返信。頑張れ、私も頑張る。怒濤の1時間が終わった。教員も、不安ななかでの学び合いを重ねながら迎えた接続テスト。「いやー、疲れた。大変な時代になったもんだなあ、俺はもう引退だあ」、冗談めかした声も聞こえるけど、どことなくやりきった感もある。

様々なメディアが教育のICT化を取り上げている。先進事例も多く耳にするし、準備体制がまだぬるいとのお叱りもあることだろう。でも、これがいま、私が身を置く教育現場だ。できないこともあるけれど、困って迷って助け合う。先生だって、トライアンドエラーの連続だ。まだまだ勉強しないとなあ。でも、一緒に取り組む仲間が、ここにも、画面の向こうにもいる。台風一過、少しだけ優しい自分になれた気がした。

(2020/9/22 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

懐かしい……。このコロナ禍を経て加速したICT化ですが、緊急事態宣言のころって、本当にバタバタだったんですよね。生徒が楽しみにしていた学校行事も延期になったり中止になったり……。台風休校の裏で進められた、オンライン授業の予行練習、不慣れなことって面白さもあるけれど、やっぱり大変だし、気疲れもする。そんななか、学年主任の一言で「遠足行くなら(行けるなら)」と、みんなで夢を膨らませることができたのは、温かい、いい思い出です。

これまでも何回か書いてきましたが、私、現在、育休中でして、なんと休んでいる間に学習指導要領も改定が入り、生徒たちはそれぞれに端末を持つようになり……。現場に戻ったらまさに浦島太郎状態になるだろう、と今からドキドキしています。このエッセイを書いた時とはまた違う挑戦を、あの頃は思いもしなかった挑戦をする日がやってくるんだろうな、と。ちょっと不安もあったりしますが、せっかくだからこの時のように、楽しみを見つけ、また、創り出しながら、ひとつずつできることを増やしていけたらと思うばかりです。

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