認知症フレンドリーについて

ここのところメディアで認知症について目にすることが増えています。
しかし、その多くは「認知症予防」について、もしくは「重度の認知症の困った問題にどう対応するか」という内容です。
これには大きな問題があり、社会を認知症フレンドリーにアップデートしないといけないという危機感があります。

そこで今回の記事では、この危機感を共有して認知症フレンドリーについてお伝えしたいと思います。

認知症についての基礎知識

まず、認知症についての基礎知識を共有します。

認知症の人は沢山いて、今後も増え続ける

現在、日本に認知症の人は500-600万人いると言われています。
これは、小学生と同じくらいの人数ですが、認知症の人の人数は2060年まで増え続け1000万人をこえるという推計があります。

ちなみに、2060年の日本の推計総人口は約8000万人。
なんと、人口の8人に1人が認知症となります。

人口が減っている日本において、なぜ認知症の人の人数が増え続けるかというと、認知症発症の最大のリスク因子は年を取ることだからです。

90歳以上だと約8割の人が認知症もしくは、その前段階である軽度認知障害の状態となります。

認知症は予防できるのか

認知症予防についてメディアで目にすることが増えています。
しかし、残念ながらそのほとんどの情報は十分な根拠が無いものです。

そもそも年をとると誰もが認知症となるので、認知症にならないためには歳を取らないようにしないといけません。
それは、今の科学では不可能です。(年を取らない動物もいるようなので将来的にはできるのかもしれません)

実は予防には3つの段階があります。
ならないという意味での一次予防
なるのを遅らせるという意味での二次予防
なっても進行を遅らせるという意味での三次予防
です。

認知症予防という場合、一次予防は難しいので二次予防、三次予防を目指すことになります。

この意味で、十分に研究されて認知症予防としてエビデンスがあるのは、運動の習慣化、健康的な食事、禁煙、節酒、生活習慣病のコントロール、人と会話をすること、規則正しい生活をすることなどです。

これらは、認知症予防に特化した内容ではなく、健康な生活に有効なこととして誰でも知っていることです。

つまり、ゲートボールやデイサービスに行ったり社会的な活動を続けたりすることが重要なのです。

しかし、認知症になることを恐れ認知症予防が強調されすぎた社会になってしまうと、実際に認知症の状態となり生活上での失敗が増えた方が、失敗を恐れて引きこもるようになります。

さらに、認知症の診断を受けることは拒否して受診せず、人と話したり運動をしたりする機会を逸し、食事のバランスや生活リズムが崩れて、認知症の進行が加速するということが起きてしまいます。

認知症を恐れた結果の認知症予防では、かえって認知症の進行を加速させてしまうのです。

認知症を正しく理解し恐れないことこそ重要であると考えています。

認知症のイメージが重度に偏っている問題

認知症予防と並んでもう一つ現状の問題として感じているのが、認知症のイメージが重度に偏っている問題です。

株式会社公文教育研究会がおこなった認知症に関する調査で、「あなたは認知症にどのようなイメージや印象をお持ちですか?」という質問を行ったところ、
回答の上位5つは、
「自分はなりたくない」
「介護が難しい」
「迷惑をかける」
「家族になってほしくない」
「たいへんな」

というものでした。
かなり厳しいイメージです。

これは、そもそも一般の認知症のイメージが重度に偏っているためではないかと感じています。

「認知症になると何もわからなくなる」と思っていませんか?
当然のことながら認知症にも段階があり、状態にもグラデーションがあります。
何もわからなくなるというのは最重度の段階です。

認知症の原因疾患は70以上あると言われていますが、その中で最も多いのがアルツハイマー型認知症で全体の約60%を占めます。

このアルツハイマー型認知症の重症度をステージ分類したものにFAST(Functional Assessment Staging)があります。

FAST(Functional Assessment Staging)

このリストにあるように、軽度(ステージ3)のアルツハイマー型認知症は「日常生活の複雑な仕事ができない」という状態で、たとえば税金の申告が自分でできない、公共の交通機関が使えない、などが当てはまります。ほとんどの方はこの段階では認知症ではなく、「歳のせい」だと判断されます。

中等度(ステージ4)になると、適切な服を選べない、家電を扱えない、食事の準備が難しい、などになります。
この段階でも、多くの方は「歳のせい」だと判断され、認知症と診断されることは少ないのが現状です。

やや重度(ステージ6)や重度(ステージ7)となり失禁があったりすると認知症と判断されるようになりますが、これはまさに 認知症のイメージが重度に偏っているためです。

このため、認知症の診断が遅れて、(認知症予防の項目でお書きしたように)認知症の進行が加速します。

認知症対処社会から認知症フレンドリー社会へのアップデートが必要

現状、認知症の人に関して、「問題を抱えた人だ」と捉えて「徘徊するからGPSをつけよう」、「車を運転すると事故が心配だから免許を取り上げよう」という対応をしており、「認知症対処社会」と言えます。

はじめにお伝えしたように認知症の人は今後も増え続け社会の多数派となります。
このため、認知症の人を「問題を抱えた人だ」と捉えて対処する仕組みでは、社会が立ち行かなることが予想されます。

そこで今必要と考えられているのが認知症フレンドリー社会へのアップデートです。

ここでいうフレンドリーとは、ユーザーフレンドリーなどで使われるときと同じ意味になります。
認知症の人が安心して生活でき、力を発揮できる社会が認知症フレンドリー社会です。

私たちの社会は、社会の多数派が生活しやすいように作られてきました。

歩いたり馬に乗って移動するのが当たり前の頃は道路は土でしたが、車や自転車での移動が当たり前になり道路はコンクリートで舗装されました。

電車の吊り革の高さも、以前は出勤する会社員をイメージし成人男性向けの高さだったものが、最近では高齢者や女性も使いやすい高さへと変更されています。

オランダの男性の平均身長は180cmを超えています。
このため、男性用の小便器の位置が日本よりも高く設置されています。
乗り換えでオランダの空港のトイレを使用した日本人男性の多くは、つま先立ちで用をたすことになります。

普段、社会の多数派側で生活していると気づきづらいのですが、私達の社会は多数派向けにデザインされているのです。

そして、認知症の人が多数派となる社会がすぐに訪れます。
このときに向けて、認知症の人がよりよく生きられるよう、社会を認知症フレンドリーにアップデートする必要があるのです。

認知症フレンドリー社会に関して詳しく知りたい方には、こちらの岩波新書をぜひお読みください。

認知症フレンドリーテックという新しい分野

私は作りたいものを自分で作れるようになりたくて最近プログラミングを学び始めました。
エンジニアリングの力を認知症フレンドリー社会の実装に活かせないかと考えているところです。

「徘徊するからGPSをつける」「家に一人でおいておくと心配だからwebカメラで見守りをする」といった、認知症の人の周囲で困った人を助けるためのテクノロジーだけでなく、認知症の人が力を発揮するためにテクノロジーの力を使いたいという考えが認知症フレンドリーテックです。

これから認知症フレンドリーテックに取り組み、また記事にしていこうと思います。

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