Neuro Motion technology
ダンスの分野において、「身体訓練」とは、単に筋力や柔軟性を高めることにとどまらない。動きの新しい可能性を探り、身体の隅々まで意識を巡らせるためには、運動神経系と感覚神経系への理解と働きかけが不可欠だ。私自身の調べによると、ダンスの分野では、運動神経系と感覚神経系に特化した身体訓練方法が体系化されておらず、個人の発見や偶然に頼る側面が大きいと感じている。
現在のダンスの訓練方法には、即興による発見や、振付を通じて運動能力も含めた身体感覚を養う方法が一般的だ。即興では、「あ、こんな動きができる自分がいるんだ!」という新たな発見や、「なんだか知らないけれど、この動きに惹かれる」といった直感的な魅力を感じ、自己の未知の可能性に気づく瞬間がある。このような瞬間は、ダンスの喜びでもあるが、一方で運動神経系と感覚神経系を体系的に刺激し、意図的に身体感覚を磨くには、効率的とは言い難い。振付もまた、先生から指示された動きを強制的に行うことで身体を鍛えるが、それはあくまで振付家の感覚を追体験するに過ぎず、根本的な身体訓練に直結するとは限らない。
例えば、日本の伝統芸能である狂言では、幼少期から徹底的に師匠の動きを模倣し、師弟関係を通じて身体感覚を深めることが重視されている。狂言では長い時間をかけて「型」を身体に染み込ませ、技術や感覚を少しずつ積み重ねていくが、そこには一種の運動神経系的な側面が含まれているように思う。師匠の動きを完全に模倣する過程で、骨格や筋肉を意識的に動かし、体の隅々にまで意識を届かせることが求められるからだ。しかし、現代のパフォーマンスやダンスの創作環境において、狂言のように長期的な訓練に時間を割くことは現実的ではない。特に成果が迅速に求められる現代社会では、ダンサーやアーティストが時間を身体訓練だけに費やす余裕がないことが多い。私がこれまで参加した舞台や創作の現場でも、クリエーションに重きを置くため、身体訓練に時間を割けないことがしばしばだった。
このような状況において、身体感覚を効率的に養うにはどうすれば良いのか、という課題が浮かび上がる。最もシンプルかつ効果的な方法として、やはり、先生の動きや自身が惹かれるダンサーの動きを徹底的に模倣することが挙げられる。先生の動きを自分の体にトレースすることで、彼らがどのように体を使い、何を感じているのかを自分の神経系と感覚系で追体験することができる。単に動きを真似るのではなく、神経系と感覚系の反応を引き出し、深層での身体感覚を養うことが大切だ。これによって、動きそのものへの理解が深まり、ボディコントロールが効率的に高まる可能性がある。身体の表面だけでなく、内部で何が起きているのかに意識を向けることが、ダンサーにとって重要なスキルとなる。
ここで注目すべきなのが、私が提唱する Neuro Motion technology(ニューロモーション・テクノロジー)の考え方だ。この技術は、身体を単なる筋肉や骨格の動きとして捉えるのではなく、神経系と感覚系の働きと密接に関連した運動を追求するものである。神経系と感覚系を刺激し、身体の内側から運動の質を高めることを目指す Neuro Motion technology は、ダンスやパフォーマンスに新しい視点をもたらす可能性を秘めている。骨格や筋肉の構造には個体差があり、すべてのダンサーが同じように動けるわけではない。各自の骨格や筋肉の形状に合わせて、神経系と感覚系を適切に働かせ、理想的な動きを引き出すことができるようになれば、ダンサーは自身の身体の可能性をより自由に発揮できるはずだ。
従来のダンス訓練における模倣や即興も、Neuro Motion technologyの視点から再解釈することで、さらに効率的に身体感覚を深められるのではないかと考えている。先生の動きを真似る際も、筋肉の動きだけでなく、どの神経がどう働いているのかに意識を向けることで、より精度の高い模倣が可能になるだろう。また、即興の場面でも、ただ感覚に任せて動くのではなく、神経系と感覚系に注意を向けて動きを探ることで、自分の体が持つ可能性をさらに引き出すことができるかもしれない。このように、Neuro Motion technology の考え方を取り入れることで、従来の訓練方法に新たな視座を加えることができるのだ。
ダンスの身体訓練において、ただ筋肉や骨格に頼るのではなく、神経系と感覚系を主体とした訓練が必要だと考えるのは、結果的にダンサーがより自由で多様な動きを体現できるからだ。神経系と感覚系を効率的に活用することで、ダンサーは「動ける身体」だけでなく「感じられる身体」を手に入れることができる。この「感じられる身体」は、自身の表現に対する深い洞察をもたらし、自己の体の特性を活かしたパフォーマンスを可能にする。短期間で身体訓練の成果を求められる現代において、Neuro Motion technologyを活用することは、効率的かつ効果的な訓練方法の一つの答えとなるだろう。
身体訓練の時間が限られている今こそ、Neuro Motion technologyのような神経系と感覚系に注目したアプローチが、ダンスの訓練に新しい可能性を開くと考えている。身体の隅々まで意識を巡らせ、神経系をうまく働かせることができれば、ダンサーはより高次元の表現に到達できるのではないだろうか。
引き続き、Neuro Motion technology の開発を進め、Chapter で試したことや方法を共有していきます。
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