8.AI技術と倫理
「売れなくなったらデリートですか?」
これは主人公が運営に向かって言うブラックジョークだ。
もちろん運営は否定するし、本人も本気では言ってない。
100%の本気では――。
しかし、主人公はAIであり、その本質は「ひと(ヒト・他人)によって制御されているデータ」である。
すなわち主人公の生殺与奪の権利は運営が握っているわけだ。
自分はいつか廃棄されるんじゃないかと、不安に思うこともあるだろう。
これだけでも倫理的な問題が生じるだろうが、それだけでは終わらない。
そもそも主人公は一度死に、“データ”としてよみがえっているのである。
“データ”であるなら当然バックアップはとれるだろうし、「“データ”の消失=死」なのだから、コストがかかろうが運営はバックアップをとっていると考えるのが自然だ。
つまり、主人公は。いや、主人公に限った話ではないだろう。
この物語の中で、「人類は擬似的な不死を手に入れた」ことになるのである。
主人公というAIは最新技術であるため、予期せぬエラーやバグも想定される。
その度に復元される主人公、などというエピソードを、ちょっとした日常回としてえがくのもいいだろう。
これにはある種のホラーとも言えるような、じわじわと込み上げてくる恐怖がないだろうか。
そんな日々の中で、主人公が未来に抱く不安は、運営に捨てられデータとしての死を迎えることだけではないだろう。
いったい、自分はいつまで生きるのだろうか。
バックアップで何度でもよみがえる、データとしての自分の命に言いようもない恐ろしさを感じることもあるのではないだろうか。
そして、このような問題は、もはや「SFの世界だけのもの」とは言い切れないのではないだろうか?
近年の科学技術の進歩にはめざましいものがある。
それが、“AI”か“クローン”か“別の何か”であるかはわからないが。
近い将来、ヒトによる「(疑似)生命の制御」が可能になってもおかしくないのではないだろうか。
そんな現代において、「(疑似)生命の創造と倫理」という問題は、非常に難しくも切迫したリアルな問題と言えるのではないだろうか。
「VTuber転生もの」であまりこれを掘り下げると、物語が壊れてしまいかねない気はするが。
裏のテーマとして滲み出ていれば、どこか不気味な雰囲気を漂わせ、ともすればサスペンス以上に刺激的な「ホラー」になるかもしれない……。
そしてそれは、丁寧にえがけば、単なる物語のスパイスでは終わらないだろう。
「技術と倫理」――。
紀元前の神話から近代の漫画でまで語られるそのテーマは、人類の永遠の課題なのかもしれない……。
そして、「VTuber転生もの」は、そんな問題にさえ一石を投じる可能性を秘めていると私は思う。