くふうする生活
近所のピザ屋で、野菜たっぷりのスライスピザを紙皿にのせてもらって車に乗ろうとした時だった。
「50セント、持ってないかな」と、
ホームレスらしき男性が近づいて来た。
こういう人に遭遇することは、いくらでもあるけれど、はっきりと、
「50セント」
と、金額を言ってきた人は これまでにいなかった。
最初私は、
「あれ、50セントだけ何かを買うのに足りないのかな」、
と、思って、「OK!」、とすぐにバッグに手がいった。
お金を受け取ると彼は「ありがとう!」と大きな声で言って、それをズボンのポケットに入れた。
するとジャラリ!とコインのたくさん入っている音がした。
よく見ると彼の半ズボンは、両方のポケットがふくらんで、いかにもふくよかだった!
そしてそのコインの音を聞いて、私は彼が何をしているのかがわかったのだった。
お金をただ無心するのではなく、はっきりとした金額を提示すること。
しかもその金額が、誰でも簡単に出してしまえる金額であること。
それによって、言い寄られた人はとっさに、財布を開いてしまうものだという人の心理、それを利用して、より沢山の人からお金をもらうことに成功している人。
彼は、重たいポケットを提げて、今にもスキップしそうな足取りで、次の「お客」へ向かっていった。
その後ろ姿に見とれた。
私は何か、小さなことでも、ちょっとしたアイデアを使って、人と違うことをやっている人を見るとすごく嬉しくなってしまうのだ。
松下幸之助さんの本の中にこんな一文がある。
私が店をはじめた頃、最初の1、2年はくふうする余地が山ほどあった。些細なことでも、何かを変えてみると、仕事がしやすくなり、お客様の笑顔が増えた。
それがすごく楽しかったのを覚えている。
今は、それに加えて、言葉を変えてみることが面白い。
人への接し方、話し方、質問の仕方。
どうすればもっと、相手に喜ばれる言葉がけができるか、
やる気を起こして、元気づける言葉とは、
どんな質問の仕方が、相手の思っていることを引き出せるのか、など。
相手によっても、その答えは微妙に変わってくるので、毎日会うスタッフの顔や、お客様の様子を見ながら意識して、言葉を選んでみる。
ともすれば、自分の行動パターンや思考パターンは型にはまりやすい。
それに気づいて、違うことをやってみることで、日々の暮らしに風穴が開き、空間が広がってくる感じが好き。
さて、「50セントのジョー」(勝手に名前をつけてみた)が、くふうを繰り返し、大富豪になって、成り上がりを本にしたら、ぜひ読みたい。そうなれば、私の50セントは彼への投資、ということになるんだな。
でも、実は、自分が渡した、50セントの行方と、カリスマ・ホームレスの出現を夢見て勝手にわくわくしているということは、すでに彼は私を十分楽しませてくれている。
50セントは儲けものだった。
追記・ これは、かなり前の出来事なので、今なら50セントじゃ労力(?)が合わないだろうし、そもそも人はだんだんと小銭を持ち歩かなくなっている。(小銭だけでなくキャッシュそのものを!)
50セントのジョーは、どうしてるだろう?
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