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KCL (TESOL) イギリス大学院留学日記 日本での英語の指導法とCELTAの指導法の違い①
皆さんこんにちは。現在、King's College London(キングスカレッジロンドン)の修士課程(TESOL専攻)とCELTAのコースで勉強をしているNaoです。
今日は、日本での英語の教え方と、CELTAの教え方の違いについて考えてみたいと思います。
この違いを議論する際に、必ずといってもいいほど、inductive approach(帰納的指導)とdeductive approach(演繹的指導)という2つのキーワードが出てきます。英語教育の大家であるScott Thornburyは、著作About Language(TESOLコースでの必読書)の中で、inductive approachの有用性について述べています。
![](https://assets.st-note.com/img/1730986872-HKOkxjY4u8sJUNcnStIPFGMy.png)
これはどういうことか、例えば、I used to live in Japan.という言語材料を指導するという場面を想定して考えてみます。
日本では、deductive approachに基づき、used toは過去の習慣・状態などを表し、toの後には動詞の原形がくる、というように、教師が文法用語を用いて説明することが一般的だと思います。
しかし、CELTAの指導法では、このように教員主導で教えることは好ましくないとされ、Thornburyが言うように、inductive approachに基づいて指導をすることが理想とされます。日本の指導との一番のギャップはこの部分にあります。
では、CELTAの指導法において、どう上記の言語材料を導入するかというと、とにかく生徒に問いかけ、気づきを促します。この際によく用いられる手法として、Concept Checking Questions (CCQs)というものがあります。文字通り、生徒の理解を確認するための問いになるわけですが、以下のような問いはタブーとされます。
言語材料:I used to live in Japan.
悪い例)What does "used to live" mean? (NG: 直接的に意味を聞いている)
悪い例)Did I use to live in Japan? (NG: 質問に言語材料が含まれている)
では、どうすればいいかというと、以下のような質問をします。
良い例)Do I live in Japan now?
(生徒が分かる範囲の言葉かつ、答えられる質問をする)
(私は今ロンドンに住んでいるので、例えばロンドンの学校で生徒に
この質問をすれば、私が今日本に住んでいないのは明白なので、No
の返答が想定される)
良い例)Did I live in Japan in the past?
(私が日本出身ということを知っていれば、当然Yesの返答が想定され
る)
ここでの質問の意図は、"now"と"past"というキーワードを使うことによって、"used to live"が、今は住んでいないが過去に住んでいたという過去の習慣を表すということを生徒自身に気付かせるという点です。
このように、inductive approachに基づき、生徒たちに気づきを与え、答えを引き出すことが、CELTAでは理想とされています。
一見すると、inductive approachのほうが理にかなっていそうですが、欠点がないわけではありません。とにかく問題になるのが、時間がかかるという点です。当然日本の中学や高校なら1授業あたり45~50分と短く、カリキュラムもこなさなければならないため、時間的制約の観点から、毎回発問をするわけにもいかないという問題も出てくるでしょう。
加えて、日本人の生徒に指導をする場合なら、"used to live"の意味は、〇〇であると言ってしまえば、瞬時に終わります。それに対し、CELTAではこれは許容されず、答えを引き出すための問答をしなければなりません。当然学習者の理解に応じて、CCQsを追加する必要もあるでしょうし、更には、日本のあまり集団の前で自ら発言しようとしないという文化的コンテクストを考えると、質問に対して誰も答えないという場面も想定されます。
実際にJason Andersonという研究者も、コンテクストの重要性を説いています。その一例として、webinarが無料で視聴できますので、よろしければご覧ください。リンクは下記です。
https://www.teachingenglish.org.uk/news-and-events/webinars/webinars-teachers/teaching-english-large-classes-sociocultural-approach
そう考えると、効率の良さという点では、deductive approachが有用な気がします。これについては、アジア圏(主に中国・台湾など)から来ている留学生に聞いてみたところ、彼らも日本に似た教育を受けてきているためか、やはり見解は共通していたように思います。
しかし、deductive approachでは、教員が常に説明をするというスタイルになりがちで、生徒が受け身になるという問題点も出てきます。こうした点の解決案として、CELTAのような問答を要する指導方法を一部取り入れるというものありなのではないかと感じます。
また、deductive approachを軸に学習してきた留学生からは、文法的には英語が理解できても、SpeakingやListeningの点で非常に苦労しているという声もよく聞こえてきます。この辺については、日本との状況にそれほど差がないように思います。
今後も試行錯誤しながら、日本の文化的コンテクストに適した指導方法を考えていきたいと思います。ご意見ありましたら、ぜひコメントなどお寄せいただけますと幸いです!
お読みいただき、ありがとうございました。