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椎名林檎をかじってみたら、思いの外甘かった。



※個人の見解を敬称略でお届けします。

もともと椎名林檎の曲は「丸の内サディスティック」や「歌舞伎町の女王」くらいしか知らなかったのですが、大学生になったからには、と思って最近よく聴くようになりました。

その際にいちばん驚いたことは、まっすぐな愛を綴った甘い曲が何曲もあること。なんと椎名林檎は官能的で掴めそうで掴めない蝶のような女性の様だけでなくて、重いけれど真っ直ぐな愛も歌うんですよ。知ってました?私は知らなかったです。

そこで、今回は大好きな、甘くて重い椎名林檎の作品を紹介しようと思います。

①幸福論(椎名林檎/1998年)


これは椎名林檎のデビュー曲。想い人に対して、あなたが生きているだけで幸せだと断言できる純粋さがたまりません。

本当のしあわせは目に映らずに
案外傍にあって気付かずにいたのですが
かじかむ指の求めるものが 見慣れたその手だったと知って

あたしは君のメロディーやその哲学や言葉 全てを
守る為なら少し位する苦労もいとわないのです


二番が好きすぎて、全て引用してしまいました。
まず、サビ前までの「本当のしあわせ」の具体例が素敵。寂しいときを「かじかむ指」と言い換えるだけで、日常の中の幸せが温度感まで伝わってきます。そして相手の全てを「君のメロディーやその哲学や言葉」と説明するところもいいんですよね。
当時19歳!?信じられない…。
行進がしたくなるような軽やかなメロディも、聴き手をキラキラした恋の擬似体験へと誘います。

②ここでキスして。(椎名林檎/1999年)



この曲のいいところは、なんといっても愛が重いところ。歌い出しがこれです。

I'll never be able to give up on you
So never say goodbye and kiss me once again


お、重い…。一曲かけて「私はあなたしか見ていないから、どこにも行かないでね。」をものすごい重量で伝えてきます。
私が思うに、この曲の主人公は恋人に依存しています。そして恋人は相手を不安にさせるタイプ。

恋人が相手を不安にさせるタイプであることは、曲中の描写の数々から窺えます。

現代のシド・ヴィシャスに手錠かけられるのは唯あたしだけ

違う制服の女子高生を目で追ってるの知っているのよ


シド・ヴィシャスを知らなかったので調べてみたのですが、彼はとんでもなく波乱万丈な人生を送っていました。
曲中の恋人も、彼のようにフラッとどこかに行ってしまいそうな危うさを持っているんでしょう。
きっと常に女の影をチラつかせてくるけれど、会っているときはとても甘くて優しいタイプですね。
曲の主人公は、友達に別れた方がいいと言われたことがあるんじゃないでしょうか。
しかも頭では別れた方がいいなって思っていのでしょう。
でも、そういう人ほど魅力的で会ったら最後、もう離したくなくなってしまうんですよね。

世間ではこれを沼と呼ぶらしいです。  

これは妄想なので置いておいて、とにかく一途な想いを歌うのがこの曲です。
メンヘラ期におすすめしたい一曲。

③カプチーノ(椎名林檎/2014)


これは歳上彼氏を持つ乙女たちの必聴曲です。聴かなきゃダメ。必修科目。社会人と大学生の組み合わせだと尚良し。いや、でも先生に淡い恋心を抱く子にも響くだろうなあ。

あと少しあたしの成長を待って
あなたを夢中にさせたくて
藻掻くあたしを可愛がってね


そして歳下彼女の大抵はここで共感しすぎて倒れるんじゃないでしょうか。
まだ歌い出しなんですけどね。

ミルクの白は彼氏の優しさで、コーヒーの茶色は彼女の我が儘で、ミルクはコーヒーの苦味を包み込んでしまう。その余裕に彼女はまた差を感じる…。そんな様子が目に浮かんでくるようです。歳の差は3歳以上なんじゃないかと思っています。

コーヒーの匂いを間に挟んで
優位の笑みを隠し切れない様子で居る
…苦いだけじゃ未だ中庸が取れない


ちょっと意地悪してみても減らず口を叩いてみても、どこ吹く風な彼氏の余裕が描写されていますね。これ、内心少し焦ったりとかしていてほしいですけどね。ありそう。
中庸で「バランス」と読ませるところも好きです。

今度逢う時はコートも要らないと
そんなに普通に云えちゃうのが理解らない

梅の散る午後にもちゃんと二人は
今日と同じ様に人混みを
擦り抜けられるかしら


季節の描写も見事なんですよね。冬から梅の散る春の始まりへと場面が展開されていく様子が、鮮やかで、2人の物語をより一層思い浮かべやすくしています。

「カプチーノ」は元々椎名林檎がともさかりえに楽曲提供したもので、これは椎名林檎がセルフカバーしたものです。本家はしっとりしていて違う味わいなのでそちらも是非。

④閃光少女(東京事変/2007年)


こちらは重いわけではないので少しテーマとはずれてしまうのですが、純粋でまっすぐな気持ちを歌っているので入れてしまいました。

「昨日でも明日でもなく今日を精一杯生きる」という意志が一貫して伝えられている曲。

今日現在(いま)を最高値で通過して行こうよ
明日まで電池を残す考えなんてないの


私もこんな風に1日1日を全力で生きたいです。

切り取ってよ、一瞬の光を
写真機は要らないわ
五感を持ってお出で


ここが1番好きな歌詞です。サビです。写真で残すことよりも、一緒にいる時間全身で味わうことを大切にするという考え方が素敵。体に染みつくくらい全力で楽しめば、写真に残す必要なんてないのかもしれません。

私は今しか知らない
貴方の今に閃きたい


こちらの歌詞は先ほどのものと繋がっているのですが、ここで音程が上がるんですね。そのおかげでこの直球な歌詞がより一層響いてきます。

テンポが良いし今を生きようって励ましてくれるので、聴くだけで前を向けます。

⑤ギブス(椎名林檎/2000年)


最後はこの曲。今までとは違って、暗いメロディです。
個人的に、心に刺さりすぎるために、この曲は精神状態がかなり安定してないと聴けません。

「ギブス」は愛への飢えが全面に出ている曲だなあと思います。

i 罠 B wiθ U 此処に居て
ずっとずっとずっと
明日のことは判らない
だからぎゅっとしていてね

このサビはじめはこれで「I wanna be with you.」と読みます。
狂おしいほどの愛が伝わってくる表現です。どうやって思いついたんでしょうか。
ひとつサビの中に、「ずっと」と「明日のことは分からない」という言葉の両方が使われているところからは、永遠なんてないかもしれないけれどそれでも永遠を信じたくなってしまう恋する乙女の気持ちが痛いほど伝わってきます。

ぎゅっとしていてねダーリン

そしてこの一節の重さ。ここは是非椎名林檎様の音声を聴いてください。「ダーリン」の甘えた声がどれだけの愛を抱いているのかを教えてくれます。

あなたはすぐに絶対などと云う
あたしは何時も其れを厭がるの
だって冷めてしまっちゃえば
其れすら嘘になるじゃない


いや、それなあああああああ(号泣)
無効になってしまう可能性のある約束なんてしたくないという考え方に共感が止まりません。「本能」でも同じようなことを言っていた気がしますね。

約束は要らないわ
果たされないことなど大嫌いなの


これだ。彼女の根底にある考えなのでしょうか。

話を戻しますと、先ほどの「ギブス」の歌詞は1番のBメロなのですが、少しでも心が疲れていると、ここら辺から涙で視界が滲んできます。そしてサビで溢れます。
未来の自分を守るために、優しい言葉を素直に信じられなくなることってありますよね。
心に薄い膜を張って、自分の核の部分が傷つかないように生きてきたので、その気持ちを重いメロディーに載せて代弁されてしまうと、張っている膜が破れてしまいます。結果号泣。

こんなに心をえぐってくるので忘れがちなのですが、これは失恋の歌じゃないんです。あくまでも愛を伝える歌。ここまでの重い愛を抱くと、楽しいよりも苦しいが勝ってしまうのでしょうか。まだ見ぬ境地。

最後に

魅力はいくら書いても伝えきれません。ぜひこの曲たちを聴いてみてください。椎名林檎の声が、より一層愛を深みのあるものに仕上げています。彼女は人生何周目なんだろう。






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