「カラオケ行こ!」の感想(ネタバレあり)
Netflixで鑑賞。原作は未読。
山下敦弘監督で脚本が野木亜紀子という、どちらも好きな作り手コンビの作品という事で、公開当時観に行きたい気持ちはめちゃくちゃあったのだけど、どうしても時間が合わず観れていなかったので、このお休み期間に鑑賞してみた。
山下監督らしい緩い空気感から生まれるコミカルシーンが楽しい。
他からすれば大きな問題でも無い様に見えるのに、その人の立場から考えるととても切実で、だからこそ小さくも見える変化によって映画が終わっていく余韻がどの作品も好きだったけど、今作も画的にはヤクザとカラオケをしているだけなのにラストの「紅」の歌唱シーンはグッと来てしまった。
まず主人公の2人が存在感が本当に素晴らしかったと思う。
今回初めて観たけど聡実役の齋藤潤は今回の役にピッタリな生意気さと愛らしさを合わせた多感な中学生を演じきれていたと思う。
歌声で重要になる声質も声変わりの途中の感じがバッチリだったと思う。
狂児役の綾野剛の怖さと茶目っ気が混ざったヤクザが、とにかく胡散臭くて観てて笑えた。
それでいてめちゃくちゃ男の色気もあるので、聡実を誘惑している様にも見えてしまう危うさも感じるのが面白い。
とにかくこの2人がずっと話しているのを観るのが楽しい。
狂児の方が基本的に聡実を引っ張り回す感じなのだけど、最初はただただ戸惑っていた聡実が段々と心を開いて、というか開き直って好き勝手言い出す流れが微笑ましい。
そのやり取りの中で、どうしても狂児が歌いたいという今作で重要な「紅」という楽曲にリスペクトを、送る様な流れが好き。
歌う上で2人が英語の部分を訳していく所もグッときた。大阪弁にしているのがまた面白いのだけど、2人だけの世界で自分達なりに曲を理解しようとしているのが、とても素敵なシーン。
中盤のヤクザ全員にカラオケを教えないといけない状況は本当に気の毒なのだけど、ここで狂児に子犬の様にしがみつく雰囲気が可愛らしい。
そこからやはり聡実が開き直っていくのが面白いのだけど、(「カスです」はどう考えても言い過ぎでめちゃくちゃ笑った。)その後送迎の車から指が出たりでなんだかんだでヤクザが少しトラウマになり、狂児だけという約束でカラオケ教室は続けていく展開に。
そしてだからこそラストに狂児が殺されたと思った聡実が、カラオケ大会でヤクザが集まる中で単身乗り込んで行くのがグッとくるし、その時までの狂児とのやりとりのかけがえの無さが「紅」の歌詞と合わさって心に刺さるし、その後狂児が生きているというのが分かったとしても(雰囲気的に予想出来る感じ)、声変わりで高音が出なくてもなりふり構わず歌う、その時の彼の本気はめちゃくちゃ感動的だった。
声変わりやヤクザ、彼がそれまで美しくないと思っていたモノを全て飲み込んで大人になっていく通過儀礼的な儀式にも見える。
学生同士のしょうもないやりとりとかも、元々原作にあるのかは分からないけど、とても山下監督らしいゆるい空気感で笑ってしまった。
聡実と映画鑑賞している男の子とのやりとりも何が起こる訳でも無いけど良いし、そこに乱入してくる真面目な後輩とのしょうもないいざこざも笑える。巻き戻しが出来ないのは、確かに予想外だった。
真面目な後輩の男の子はいかにも中学生な雰囲気が最高で、その後の彼の融通の利かなさを軽く翻弄する女子との、パワーバランスが何とも可愛い。