「ミリオン・マイルズ・アウェイ 遠き宇宙への旅路」の感想(ネタバレあり)
Amazonプライム・ビデオオリジナル配信作品。
みんな大好きマイケル・ペーニャ主演作。
世界初のメキシコ系移民労働者から宇宙飛行士になったホセ・ヘルナンデスという人の実録映画になっていて、もちろんめちゃくちゃ偉業を達成した人ではあるのだけど、こういう言い方は良くないのかもしれないけど、エピソード自体はこういう偉大な功績を残した人物の物語ではよくありそうなベタな苦労話になっていると思う。
ただそういうベタで愚直にも感じる地道な年月をかけ努力をし続けた人のそのエピソードの一つ一つを丁寧に映画的に感動させようと演出してくる感じがすごく良かった。
役者さんの演技力とか、例えば何度か出てくる手のひらを映すこちらの涙腺を刺激するような演出の数々で僕はなんども結構泣いてしまった。
前半主人公の幼少期からメキシコからの移民生活の辛さが描かれるのだけど絶妙にテンポも良くてコミカルさもあって映画としてのリズムの良さに引き込まれた。
アメリカの色んな農場を家族で働きながら巡っていくので、幼い主人公は小学校の転校してまた戻ってを繰り返していて、色んな小学校で馴染めないので友達も出来ないのだけど、唯一彼の才能を見抜いているアジア系の女性教師との出会いが凄く良いシーンだった。
その時の状況では暮らしていくのがやっとな家庭事情なのだけど「宇宙飛行士になりたい」という夢の背中を押す言葉をかけるのが感動的だし、そこが印象に残っているからこそラストの再登場のタイミングがまた涙腺を刺激する。
そういう文字通り彼のそれまで歩みが全て繋がってくるような後半の伏線の回収される連なりが見事でかなり泣いてしまった、本当に丁寧にエピソードが積み重ねられた構成が良いと思う。
冒頭の旅の始まりに話す蝶がラストにそのまま繋がってくるシーンも、物語としてとても美しかったし、そこまでの道のりの彼の物語を追体験させられたから彼にしか見えない蝶々が舞っているのが本当に映画の終わり方として完璧だったと思う。
その他にも中盤に弟が「俺たち移民以上に未知の世界に飛び込む事がどういうことか分かっている人間はいない」というセリフを妻と喧嘩した主人公を励ます為に言うシーンがあって、そのセリフを主人公が終盤にもう一度繰り返すシーンのさりげないけど、そのさりげなさがまた泣かせる感じで本当に素晴らしかった。
それと何と言っても今作を魅力的な作品にしてる要素として大きいのが、主人公を演じたマイケル・ペーニャ力だと思う。
主人公は誰からも舐められがちなのだけど、マイケル・ペーニャの受けがコミカルなので嫌な感じがしない。
あと見た目の若くも見えるし、ただのおじさんにも見える様な年齢不詳感も、違和感がなくて大学生のシーンとかも普通に受け入れられるのは何気に凄い。
途中本気で宇宙飛行士になりたいという夢を奥さんなかなか話せなくて、家族との時間も上手く過ごせず、夢に対しても本腰を入れられなくなっていくのだけど、しっかり奥さんと向き合い本音で話し合うシーンがすごく良かった。
「オムツは?」というコミカルなやりとりから弟との会話の後(ここの弟のやりとりも後で効いてくる構成がまた上手い)腹を割って話していき絆を深めていくのがグッときた。
そこから宇宙飛行士に必要な資質と、彼に今ないその資質をなんとか埋めようと頑張るシーンが入ってくるのだけど、彼がやれることは全てやろうと頑張っていくカットが重なっていくのが観ながらとても胸が踊る。
見た感じ凡人である彼が小さな努力を重ねながら宇宙飛行士という大きな夢にもう照れないで走り出していく感じが、凄く観ているこちらも勇気を貰える気がして感動的だった。
演出で良かったのが、後半いよいよ宇宙に旅立つ前の晩にベッドでこれまでの人生の節目に父親や母親や奥さんから話しかけられた言葉を思い返す回想の場面が入るのだけど、その回想で本来主人公がいる方向ではなく全部カメラ目線で登場人物達が話しかけてくる演出になっている。
主人公が見ている夢なのか記憶なのかを追体験する様な不思議だけど、凄く感動的な場面になっていたと思う。
それと奥さん役のローサ・サラザールがも凄く良かった。
「アリータ:バトル・エンジェル」のイメージが強いのだけどあちらは顔が変わり過ぎてちょっとあれだったので今回ちゃんと肝っ玉母さん的な素晴らしい演技を見れて良かった。
あと個人的に今月の初めに僕自身が入籍したばかりだったので、この奥さんと主人公が結婚するまでの流れや結婚生活描写のディテールがいちいち心に刺さったりした。
特に主人公が奥さんの頼まれごとを忘れてしまう描写とかは気をつけねば、と気が引き締まる思いに。
アメリカのスーパーはオムツ売り場の近くにビール売ってるって本当なのかな、、、。