「さかなのこ」の感想(ネタバレあり)
さかなクンという人
僕はずっと追いかけている訳ではないけど、NHKの今やっている「ギョギョッとサカナ★スター」もほぼ毎週見てたりで結構さかなクンのファンだったりする。
しかも今回彼の自伝を映画化するにあたって監督が沖田修一と聞いて一気に期待値が上がってかなり楽しみにしていた。
今更改めて言うのもどうかとは思うのだけど、さかなクンという人の魅力は魚の知識が詳しいという事よりも、こちらが圧倒されるくらいに本人の「魚が好きで好きでたまらない!」という熱量がビンビン伝わってくる所で、魚に興味があるから番組を見てしまうというより、好きでしょうがない事を誰かに伝えられる喜びみたいなものにちょっとした感動すら覚えるからみんなから愛されている人なのだと思う。
その部分をこそ映画のピークに持ってきたラストの初めてのテレビ出演のシーンはとても感動した。
沖田監督的には横道世之介とかとも通じるのだけど、かつて一緒に過ごした日々から自分たちは大人になって変わってしまった人達がずっと変わらない彼を見て、今思うと輝いていた日々を思い出しながらTVを眺める表情に涙腺を刺激される。
ほとんどの人が大人になるにつれ当然変わってしまうのが普通だし、それもとても大事な事だとは思うのだけど、彼の「好き」が全く色褪せず今もそこにある事の凄さと、それは実際のさかなクンという存在を知っているからこそ嘘ではないのが証明されていて、だからこそ現実と繋がった生の感動がある素晴らしいシーンになっていた。
ミー坊
今回さかなクン役をのんが演じるというのも大正解だったと思う。映画冒頭にも出る通りさかなクンという人を語る上で性という部分は関係なく、「何かを驚異的に好きな人」という事こそが重要なので、中性的なイメージがあるのんのキャスティングがこの上ない位ハマっていた。
原作の「さかなクンの一魚一会」ではさかなクンの主観で体験談として書かれているので、他の人から彼への冷静な目線がないのだけど、今作ではそこを強調してちょっと迷惑な人にも見えるバランスになっているのも良かった。
だからこそさかなクン本人がかつての自分を導く様に師匠役として出てるのは感動したし、今実際に彼がやっている事と重なって見えた。
それでいて一歩間違えたらただのヤバい人になっていたさかなクンのもう一つの未来にも見えてちょっとブラックさも感じるバランスがなんとも言えない怖さも感じた。
気になった所
個人的に途中のヤンキーグループとの交流や、水族館や寿司屋で働くくだり、あと歯科の水槽作りなど、名役者同士のコミカルなやり取りが楽しいといえば楽しいのだけど、いくらなんでも間伸びしすぎな印象がした。
特に歯科医とのくだりはその後あまり何にも繋がらないしマジでいらなかった気がする。
それとミー坊を異常な人ととして描き過ぎなシーンもあってそこも気になってしまった。
中盤のヒヨが島崎遥香にミー坊を高級レストランで紹介するシーンは何の為の何の集まりか全く分からなくて、ただ彼が笑いモノになるだけを強調しているみたいで気分が悪い。
その後ヒヨが「あの女は分かってない」みたいなニュアンスでお酒を飲むのも何か違う気がした。そりゃ彼女からすればそうなるのでは?と思うし、ミー坊も「?」みたいな感じだし、誰も幸せじゃない感じがすごく嫌だった。
あと「さかなのこ」ってタイトル凄く良いと思ってただけに、あんなどうでもいいギャグシーンでタイトルが繰り返されるのも好きじゃなかった。
脚本家のセクハラへの告発の問題
それとこの映画の製作自体に関係してないけど、個人的には脚本の前田司郎が行っていたワークショップのセクハラへの告発の問題が記憶に新しくて、いかにも前田司郎テイストな登場人物達の軽いギャグ的なやりとりが正直あまり笑えなかった。
一番気になったのは、さかなクン演じるギョギョおじさんの家にミー坊が遊びに行くくだり。
これによってギョギョおじさんは子供を誘拐した疑いで警察に連行されてしまい、ミー坊は「いたずら」をされたと噂になっていたりする。
前田氏への告発は公開直前だったのでもう映画の内容変えられる訳もないのでしょうがないのかもしれないけど、本人がやったとされる事と重なりかなり嫌な気持ちになってしまった。
それがなくても、ここは危ういバランスの描写だと思うし、よく知らない歳上の人間が「教えてあげるよ」と断りにくい状況を作って家に誘い込む怖さみたいのがはっきり気持ち悪かった。
そんな感じで全体的には好きな所もあったけど、気になる所もかなりあった感じ。それでもさかなクンという人への作り手の愛情は感じたし、やっぱりさかなクンの事を前より好きになる作品にはなっていた。
Kindle Unlimitedの読み放題に原作本が入っていたので、今途中まで読んでいるけど、映画と比較してみたいと思う。
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