「ジャックポット」の感想(ネタバレあり)
Amazonプライム・ビデオオリジナル配信限定作品。
ポール・フェイグ監督最新作でオークワフィナ主演のブラックコメディという事で間違いないだろと思って観たけど、やっぱり期待通りしっかり面白い作品だった。
2030年のアメリカが舞台。
オープニングでも説明がある通り、不景気過ぎて政府や国中の人が自分の利益優先で世知辛くなり、殺人宝くじが合法化されたディストピア。
数時間だけ宝くじ当選者への殺人が合法化され、命を守ってくれるボディガード的な存在と逃げていくという設定だけ考えると「パージ」シリーズと近いスリラーのジャンルに入ると思うのだけど、コメディ映画になっているのがこの映画の凄い&異常な所だと思う。
冒頭の当選者が追われているシーンからめちゃくちゃ怖い設定なのに、追いかけてくる人間達のしょうも無さと間抜けさで、暴力的なのに緩い空気感。
そんなディストピアなロサンゼルスに田舎からやってきた主人公ケイティなのだけど、まず街の人々のあまりの心の狭さが際立つ描写が、なかなかしんどい。
街中が貧しく他人を想いやる余裕が無く、貧困層と富裕層の差が極端に広がっているのだけど、これがそのまま現実の未来と地続きな雰囲気で観ながら、とても居心地が悪い。
ただ流石はポール・フェイグ監督でシーン単位でしっかり笑えるブラックコメディになっているのが凄くて、ずっと笑いながら観ていた。
比喩じゃない糞みたいな部屋とか、自分なら間違いなく心が折れてる。
そしてそんなケイティが殺人宝くじに見事に当選してしまった結果、街中の人間から襲われる展開になっていくのだけど、元々態度の悪い彼女の周りにいた人達が更に態度を豹変させ、殺す為になりふり構わず襲ってくるのが、笑えるのと同時に怖い。
空手教室やヨガ等、本来心と身体を鍛えていると思われる人達が、金の為に剥き出しの暴力性で大乱闘を繰り広げていくのも、なんともブラック。
そこにいきなりジョン・シナ演じるノエルが駆けつけて、コミカルさ込みの結構カッコ良いアクションで、彼女の命を守ろうと奮闘してくれるのだけど、上手い所は、彼が登場するまでに散々街の人たちの信用ならなさを描いてきたおかげで、彼が実際何を考えて彼女を守ろうとしているか読めない所で、彼の警護の条件が彼女にとってあまりに親切過ぎて、裏があると当然疑ってしまう。
そしてその信用のなさを体現するようなマッチョであるジョン・シナという配役が絶妙すぎると思う。
同じ様なマッチョな枠の役者としてロック様とかがいるけど、ロック様ではヒーロー感が勝ちすぎて、今作のノエルは出来ないと思う。
この唯一無二の胡散臭さを持つジョン・シナというアクションスターだからこその、はまり役だと思った。
パワータイプの格闘シーンとかも笑える。最初の敵がめり込む程の体当たりのテンポとか最高。
彼がしょうも無い事を話しながら常に笑わしてくれるのでコメディ作品として面白さはありつつ、物語的にいつか裏切るんじゃないか?という緊張感もありながら観れる感じで、その辺のコメディと物語性のバランスがとても絶妙だと思った。
それに対して本当に搾取が目的の悪い警護会社のリーダーがシム・リウなのが、また絶妙。
オークワフィナとはシャン・チーでの良い友達関係が印象に残っていたし、一見良い人にも見える胡散臭さ。
最終的にノエルとの過去のエピソードの真相が明らかになって、救いようの無い悪人だと分かったので、あのラストも「ざまあ!」というカタルシスが強い。
もちろん主人公ケイティを演じたオークワフィナもまあ素晴らしくて、映画を観てるこちらと同じくこの世界のヤバさにいちいち驚く世間知らずさが、よく考えれば異常なのだけど、とてもチャーミングに演じ切っていたと思う。
コメディ俳優として笑えるだけじゃなく、ケイティの母親との悲劇的なエピソードを思い出すシーンとかは、しっかりグッと来るしちゃんとドラマとしての見応えを感じた。
これまで騙され続けてきたからこそ、なかなかノエルを信じる事が出来ず、少しずつ距離を縮めていく関係性の変化が丁寧に描けていて、そこも良かったと思う。