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「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」の感想(ネタバレあり)

僕が生涯ベスト級に大好きな映画である「パディントン2」のポール・キング監督作という事でめちゃくちゃ期待して観に行ったけど、想像以上な大傑作だったと思う。
今作を観る前にティム・バートン監督版の「チャーリーとチョコレート工場」を改めて予習をしたのだけど、全然違う世界観だったし正直観なくても問題無かったなぁという印象。
ただ原作は読めていないのでどちらが近いのかよく分からないけど、ティム・バートン版のウィリーが父親とのトラウマとその和解を描いていたのに対し、今作は母親から受け継いだものを広める為に奮闘するお話になっていたのが全然アプローチが違っていて見比べられたのが面白かった。

あとどちらかというとその前に映画化された1971年の「夢のチョコレート工場」との繋がりの方が深いみたいなのでそちらを観とけば良かったかなぁと後悔。同じ楽曲が使われていたみたいだし最後のチョコレート工場のビジュアルとかもそちらを意識しているんだろうなぁ。

ポール・キング監督の手腕

「パディントン2」もそうだったけど、映画が始まって5分位の情報量の詰め込み方の手際がめちゃくちゃ良くて、相変わらず監督の手腕の高さに痺れた。
ミュージカルシーンで彼が船から街に着いて、憧れのチョコ店を出したい目的地までを一気に描くのだけど、ここで既に主人公ウィリーの純真さや、簡単にカモにされるマヌケさ、そしてなけなしのお金を困っている母子に簡単にあげる優しさ等、彼の人となりを一気に映画的に説明してくるし、憧れていた街が貧乏人が貧乏人からお金を取ろうとしたり、そもそも警察が彼の武器である「夢を見る事」を取り締まっていたりする息苦しい場所である事が分かってくる。(夢みたら罰金の所はあまりに直接過ぎるディストピア描写で笑った)
最初の5分ほどでこの一連の流れが終わり、もう宿のシークエンスに突入していく手際の良さが本当凄い。もちろんただただミュージカルシーンとして曲も演出も最高で見てるだけで楽しいし、この冒頭だけでもう良い映画なのが分かる。

先導しないと動物園から出られないフラミンゴが羽ばたいて自由になっていくのが、だんだんウィリーによって仲間たちや街の人が支配から解き放たれる様子と物語的にリンクしていくシーン等、説明セリフには頼らないけど誰にでも伝わる映画的な演出の数々もポール・キング監督は相変わらず上手い。宿の地下で集まっている仲間達の技能がそれぞれ活かされていく伏線回収とかもそうなのだけど、この子供から大人まで伝わる「分かり易さ」というのが当たり前だけどそれだけで作品として偉いと思う。

ウィリー・ウォンカ

ジョニー・デップ版のウィリー・ウォンカは変人でかなり人間性が欠けた存在として描かれていたけど、今作のウィリーは真逆で純真さと優しさを持ち合わせた太陽の様な存在として描かれていて、やはりパディントンとかに近い存在感。その彼のピュアさによって周りの人達も変わっていく物語になっている。
そんな彼自身の成長もしっかり描かれるのも良かった。ヌードルとの文字の勉強でラストに裏帳簿でヌードルの母親の名前を見つけた時の学ぶ事の喜びに気づく様な表情が素敵。
母親に聞きそびれた秘密がずっと胸に引っかかっているのだけど、そんな仲間達との交流による成長の末に辿りついた大団円のラストシーンが素晴らしくて、さりげなくも現れる母親の幻の静かな演出にまあ泣いてしまった。

演じたティモシー・シャラメはやっぱり流石の存在感だったと思う。
結構シリアスめな作品の印象が強かったけど、今回のとても明るいキャラクターもハマっていて喜劇俳優としての華が素晴らしかった。

彼と相棒になっていくヌードルとの関係性も良かった。
子供なのに人生に希望を見出さない生き方をするしかない彼女が、ウィリーとの交流を通して少しずつ夢を見る事の素晴らしさに目覚めていく様子がとても感動的だった。
中盤のキリンの乳しぼりから風船を手に空に浮いていくミュージカルシーンは生き辛さを抱えた彼女の心が解放されたのを示しているみたいで、ここでも思わず泣いてしまった。

ラストに母親と再会するミュージカル場面も本当に素晴らしかった。
彼女が頭の中で描いていた夢の絵が重なる様に母親がドアから出てくるシーンでまた泣いてしまうし、ここで初めて会う母を見つめる表情が本当素晴らしいし、彼女たちが抱き合う幸せをかつての自分の母親との関係に重ねる様に切なく見つめるウィリーの視線にもまた涙腺が刺激される。
そこからその曲に繋がったまま、彼のチョコレート工場が想像から現実にそのまま繋がっていく様な圧巻のラストのビジュアルイメージで終わっていくラストの切れ味も完璧だった。

脇を固める豪華役者陣

あまり予告以外の前情報を入れないで観たので、脇を固める役者陣がめちゃくちゃ豪華なのも観ながら結構ビックリした。
パディントンシリーズから引き続き母親役のサリー・ホーキンスはそこまで出番は多くないけど登場すれば涙腺を刺激する名演だったし、こちらもパディントンシリーズから登場のヒュー・グラントもまさかのウンパルンパ役ですました顔でふざけているのが最高だった。彼が狭い瓶の中で踊りながら尻からの煙で回想シーンに入る流れとか、くだらなさ過ぎて爆笑。

あと僕の大好きなオリヴィア・コールマンもいきなりブタの様に鼻を鳴らしながら登場してめちゃくちゃ笑った。
今年ベスト級に好きな映画の「エンパイア・オブ・ライト」の繊細な演技とは正反対な豪快な悪役をギリギリの愛嬌で演じきっていて流石名優と言う感じ。エンドロールの毒を呑んだ後の姿とか「そこまでやるか」という見た目で最後まで楽しい存在感。
あと彼女の使い走りから恋人関係になっていくブリーチャー役のトム・デイヴィスも「パディントン2」から引き続き馬鹿可愛いくて良い。個人的に英国のくっきーと呼んでいたけど今回改めて名前を覚えた。
何故かこの二人のラブストーリーはめちゃくちゃ肉体関係を意識したエロめな描写が入るのがまた笑える。ヌードルの自由を奪う金でめちゃくちゃ高級な下着買おうとしているシーン本当ひどい。

映画内でのチョコレートの価値

チョコレートがウィリーにとって夢そのもので、分かち合う事で誰かと繋がり、それが世界を良くしていく。
彼が作ったチョコレートを食べる事で地の底を這う様に生活をしていたスクラビットに搾取されていた仲間たちが希望を見い出していくのが、コミカルだけど感動的だった。

それに対して、悪役側はチョコを牛耳り賄賂にして最終的に人を殺す道具として使っていてウィリーとは対照的なのが面白い。
彼らにとってチョコは人を搾取し、傷つけて、自分達の富だけを守り続けるモノとして描かれる。
もちろんポップな描かれ方にはなっているけど、自分が良ければ人殺しも平気でするかなりやばいド外道だと思う。やっている事は闇金ウシジマくんとかに出てくる悪役と大差ないレベル。

自分たちの利益を第一に考え、貧しい人達から搾り取れるだけ搾り取ろうとする存在は現実世界とも残念ながら地続きだし、観ていてしっかり嫌な気持ちにもなる。この辺の悪役の在り方とかはトーンは違うけどこの間観た「鬼太郎誕生ゲゲゲの秘密」に通じる嫌悪感とも近い。
更にオリヴィア・コールマンが演じたミセス・スクラビットの様に別に裕福じゃないけど、自分より更に貧しい人を搾取して生きている構図とかも実は結構リアルな地獄。

そんな考え方に対して「純真さ」や「誠実さ」「夢を見る事の大切さ」、そして監督がパディントンシリーズでも描いていた「優しさ」で、世界は良くなっていく希望を今作では示しているみたいで、その作り手の視線にも涙が出てきた。
物語内でも「何かを想像し夢見る事の素晴らしさ」をテーマにしていたけど、この作品自体の観ているだけで楽しくなるビジュアルやミュージカル映画として圧倒的な完成度そのもので作り手達が説得力を持ってテーマを具現化出来ている所にも本当に感動した。

そんな感じで流石はポール・キング作品というクオリティの高さで大満足な一作になっていた。
最近は映画グッズにお金を使わない様にしてたけど、久々にパンフレットとサントラ買うくらい好きになっちゃった。

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