「キャンディマン」の感想(ネタバレあり)
理想的な続編
92年版を直前に観てから鑑賞した。
観る前はリメイクなのかなぁと思っていたけど、完全に続編になっているのに驚いたし、個人的には92年版を観るのは必須だと思う。
味わいとしては「エクソシスト」に対しての「エクソシスト3」みたいな繋がり方で、ハッピーエンドで終わったと思った話が全然終わりじゃなかったという感じのダークな続編だと思う。
あと前作を観て良かったと思う点は、今作の理解度が増すのはもちろんだし今作を観たことで前作の作品理解度も増した所。
前作であまり描けていなかった黒人であることで迫害されてきた怨念の化身であるキャンディマンというキャラクター側面を今回は強調した事で前作の印象も深くなった。
前作で黒人の怨念の化身であるのに、黒人の貧困層ばかりで人を襲い続けていたのが何だかスカッっとしなかったのだけど(その救いのなさも好みではあるが)今回は明らかにアンソニーの芸術作品の知名度に乗せて白人を中心に襲いかかる様になっているのが、テーマをより明確にしている気がした。
そして芸術作品を通して自分の痛みを理解して貰うという構図自体が、この映画作品を通して作り手がやろうとしていることをメタ的に表しているみたいで不思議な感動がある。
ラストのキャンディマンへとアンソニーが変貌するショッキングさより、駆けつけた警察官の対応への絶望、怒り、悲しさ、それらを引き裂く暴力描写は怖さと同時にカタルシスがあった。
そして100年以上形は変わって都市伝説になっても芯にある本質的な痛みを伝える怪物になる宣言をして終わる映画の余韻が切なくも熱くて素晴らしい。
鏡の演出
冒頭の映画会社のロゴが全てあべこべになっていて、そこから始まるオープニングの鏡の中から見上げた様なビル群と音楽の神秘的な雰囲気で「これは凄い映画が始まったぞ、、、」という予感がビンビンしてくるし、今回の重要な要素である「鏡」が印象づけられる。何より画として僕はここで心を鷲掴みにされた感じ。
その後の鏡描写のホラー映画として絶妙に不安な気持ちになるシーンの作り方が良くて、「鏡の中にだけ何か写ってるんじゃないか、、、」と隅々まで見てしまうし現にチラッと現実の中にいないものが写っている前半が思わずゾクゾクする。
だからこそ不穏に溜めた後、ここぞという所で遂にその姿を完全に現した最初のギャラリーでの殺戮シーンはビクッとしてしまった。ここのギャラリーの不穏なライティングも最高にきまっていてバイオレンスなのに見とれるような美しさも同時に感じた。
どのシーンも考え抜かれた画づくりをされていて、どこを切り取っても映画的な魅力に溢れている。
そして主人公アンソニーの前に襲いかかる訳ではなく、不穏に現れるシーンがどれも怖い。
何かしてくるというより彼がどんどんキャンディマンに侵食されていく恐怖で、鏡の中から「お前は俺だ」と繰り返し伝えてくる。特に中盤のエレベーター内での文字通り逃げ場のない鏡地獄シークエンスは怖くて最高だった。
ニア・ダコスタ監督、次はマーベルでキャプテンマーベルの続編やるらしいけど、この重厚な演出力と画面作りのセンスがどう活きるのかが楽しみだ。
キャンディマンという象徴
92年版ではキャンディマン自身がかつての奥さんにヘレンを重ねている様で、怪物ではあるのだけど人間味も感じられるキャラクターになっていて、それもあるから亡き妻への愛情をヘレンとの一体化を通して成就しようとしていたのだけど、今回は彼自身の分身としてアンソニーと一体化しようとしている感じ。
自発的にアンソニー自身が仕事として画家を選んでいる様に見えるけど、赤ん坊の時にキャンディマンと過ごした日々が影響してキャンディマンと同じ職業を選ばされている気もする。前作で自分の指を母乳の様にアンソニーに吸わしていたシーンとかを不穏に思い出す。絵自体も後半からキャンディマンに描かされている感じだ。
92年版は「実はこの人は本当に狂っていてキャンディマンなんかいないんじゃないか?」というヘレンの主観的な目線の映画にも思えるバランスになっている気がした。
というかキャンディマンのヘレンへの罪の着せかたが小狡くて、他の人から観たらそりゃ逮捕しかないでしょってもどかしくなる感じだったのに対し、今回はキャンディマンがガッツリ人を襲う様子が描かれている。それ故にキャンディマンの暴力がこっちの方が怖いけどスカッとするバランスで良い。
あと前作の様にキャンディマン自身があまりしゃべらないし、彼自身の考え方が直接語られず現れるのがホラー映画として不穏で怖い。(まあ前作のインテリっぽい雰囲気で全部しゃべってくれるキャンディマンのサイコ感も良かったけど)
ラストの影絵で表す悲劇の歴史も、怖さと切なさ両方を感じる素晴らしいシーンだった。そしてこの悲劇は今もまだ続いているという怒りと悲しみをスクリーンの中からキャンディマンが投げかけてくる様な重さを感じた。
都市伝説の芯にある本物の痛みに想いを馳せる余韻があった。
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