人が人と向き合うことの難しさ 映画『室井慎次 生き続けるもの』
※ネタバレあり
来週11/15(金)公開の「生き続けるもの」を、先行上映にて鑑賞。
前回の「敗れざるもの」で撒かれた伏線は全て回収されるか。
また、”スッキリしない感”は解消されるか。
前回は室井慎次の現状報告に終始した印象だったが、今回はそこから進展があるか。
そして、誰が、生き続けるのか。
これらの謎を一刻も早く解決したく、一足先に劇場に足を運んだ。
これは「踊るシリーズ」か
結論から言う。
これは、踊るシリーズではない。
前回の「敗れ〜」も含め、あの踊る大捜査線のシリーズではない。
しかし、踊るシリーズであるか否かに拘ることをせず、単体の映画として観るとすれば、「家族」「ふるさと」「仲間との約束」「過去と向き合うこと」など、比較的ハートフルな要素がふんだんに盛り込まれた構成となっており、面白かった。
実は、「今回の室井慎次作品は踊るシリーズではない」と、室井慎次を演じた柳葉敏郎が語っている。
「これは、室井という男の生きざまを徹底して描いた物語であって、踊るシリーズではない」と。
まさにこの通りで、私はこの意見に全面的に賛成だ。
いや、この記事を読んで、ようやく今回の二作品を自分の中で納得させることができたと言う方が正しい。
この映画を一言で表すとすると、「愚直な男による、愛情の物語」だ。
「敗れざるもの」が残した謎について
前回、分からずじまいとなっていた、日向杏(福本莉子)の不可解な行動と、付近で発生した殺人事件の犯人。
まず、杏は獄中の実母・日向真奈美(小泉今日子)に月に一度面会していく中で、彼女に「生きることは憎むこと」であると洗脳されていたようだ。そして、真奈美の洗脳により、室井を悩ませる不可解な行動を取っていたのだ。
猟奇殺人犯であっても、杏にとっては唯一の母親である。
親からの愛情が欲しい杏は、真奈美の言うことに素直に従ってしまったのだ。
ところが杏は、例え血が繋がっていなくても、家族に与えるそれと同等の愛情を受け取り、また与えることも可能であると、室井慎次と、彼が引き取ったタカ(齋藤潤)とリク(前山くうが・こうが)との三人の生活の中で感じ取り、次第に改心していく。
室井慎次が杏に対して終始向き合う姿勢を崩さなかったこと、杏の迷いや葛藤に、深追いしすぎず、かといって見放すこともせずにいたことが、功を奏したわけだが、当然室井はそれを難なくこなしたわけではない。まして、多感な女の子相手である。時に、地元商店の店主からの助言を得て、時に秋田県の大自然に助けられ、時にタカとリクに支えられながら、自分の信念を曲げずにいた結果であった。
杏が次第に改心し、三人の中に家族として溶け込んでいく様は、実に自然で、観ているこちらも優しく心が温まった。
次に、室井慎次宅付近で発見された他殺遺体だが、身元は「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」で逮捕された犯人グループの一味であった。そして、彼を殺したのもまた、その一味の中の一人であったことが判明する。
「人はそう簡単には変わることはできない」。このことが、事件を通して表現されているが、その様が、母親からの洗脳を解き、改心した杏の姿と対比している。
「人はそう簡単に変わることはできない。だが、正面から向き合う者が一人でも存在すれば、変えることができるかもしれない」。
これが、室井慎次二部作が伝えたかった大きなメッセージではないだろうか。
つまり、今回の殺人事件は、このメッセージを伝えるための手段の一つに過ぎなかったのだ。
「生き続けるもの」は、前回の冒頭から終わりまでぼんやりとし続けた「敗れざるもの」と打って変わって、メッセージ性の強い、見応えのある内容であった。
「敗れざるもの」がそのメッセージを伝える助走のためだけに存在させられたことは、未だにモヤっとするところではあるが、全体としては観てよかったと思える内容に仕上がっていた。
室井慎次と青島俊作、そして踊るシリーズのファン
但し、最後に言い添えておきたい。
私はこの映画の結末に、決して納得はしていない。
最後の最後、「THE LEGEND STILL CONTINUE」の文字を出すことで、
「安心してくださいよ、踊るシリーズはまだ続くかもしれませんよ!少なくとも、皆さんの中では生き続けますから!」
と説得するような終わり方にしたことも含めて。
人はどんなに強くてもいずれ死ぬし、それがいつになるかは分からない。
長生きしそうだねと言われていた人に限って、案外あっけなくいってしまうことだってある。
故に、彼が亡くなるエンドであること自体は、まだいい。
ところが”その時”は、本当に今だろうか?
柳葉敏郎は、本作を踊るシリーズだと思っていないと公言していることを冒頭で紹介し、私もそれに賛成はしたわけだが、それでも数々の踊るシリーズのキャラクターを登場させ、最後には青島(織田裕二)まで出しておいて、あの終わり方が本当に正しいと言えるだろうか。
確かに、室井は青島との約束は果たせなかった。それでも、最後に言葉を交わすことすらなくこれで終わり?本当に?と思ってしまう。
前回の「敗れ〜」の開始時点で、もう既に室井は警察を辞めている。
ドラマからスタートし、多くの物語を届け、たくさんのファンを擁した室井と青島の最後をファンに見せないとはどういうことか。
シリーズのファンとしては腑に落ちないというか、俄かに信じがたい気持ちだ。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)