窮鼠猫を噛む 映画『十一人の賊軍』
袋の鼠どもよ、己の欲求に忠実に猫を噛め!!
概要と歴史的背景
本作の概要は以下。
本作は、「仁義なき戦いシリーズ」「日本侠客シリーズ」などで知られる脚本家、故・笠原和夫の残したプロットを、映画『死刑にいたる病』「狐狼の血シリーズ」の白石和彌監督が映像化したもの。
そしてこの物語は、一応、史実に基づいている。
”一応”としたのは、本作のメインである賊軍の存在と、賊たちの戦いについては、フィクションであるからだ。
実在したのは、「戊辰戦争の最中に新発田藩で起きた裏切り事件」の部分と、それに関わった溝口内匠(阿部サダヲ)や山縣狂介(玉木宏)ら一部の人物たちだけである。
本作を鑑賞するにあたり、歴史的背景を予備知識として頭に入れておくべきか否か。この点については、私は予備知識を調べておくことを推奨したい。
冒頭、ざっと説明はなされるものの、戊辰戦争とは?新発田藩って?といった根本の部分については触れられないし、説明自体もやや早口であまり頭に入ってこなかったからだ。
罪人たちに共感させる演出力と、本当のヴィラン
本作の主要人物は、罪人たちだ。
本来ならば、尊重も共感もされない立場である罪人たち。
実際に作中の彼らも、どうしようもない奴、すぐカッとなる厄介な奴、ただ調子がいいだけのウザい奴らばかりなのだが、そんな彼らに感情移入させ、
観ている者に「どうにかして助かって欲しい!」と願わせたのは素晴らしかった。
最初の方は、コイツ好きになれないな、と思う罪人が一人はいたりする。
ところが、決死隊として戦地に赴いた彼がいざ危機に直面すると、「頼む!なんとか切り抜けてくれ!」と両手に力が入ってしまう。明確なきっかけはないが、何故かどこかで、欠けてほしくない存在になっているのであった。
そう思わせるのは、罪人を演じた十人の演者たちの実力にあることは言うまでもない。彼らの非常によく立ったキャラクター性が見事であった。
ところが、それだけではない。罪人の演者たち以上に、彼らに感情移入させる役目を担っていたのは、新発田藩の家老・溝口内匠を演じた阿部サダヲであった。
彼は、本作の最大のキーマンとも呼べる存在であり、且つ一番のヴィランである。
彼の救いようのない惨さが人間そのものを表しており、彼が残酷であればあるほど、罪人たちへの気持ちが傾く、よくできた構造だった。
ハマり役しかいない見事な配役
本作は、新発田藩、官軍、同盟軍、そして決死隊と、登場人物が多い。
そして、彼らはそれぞれの思惑を抱えているため、誰がどんな考えや企みを持ってそこにいるのかが明確に分かりやすくなっている。
そんな中で、出番の少ない役も含め、全員が漏れなくハマり役なのだ。
違和感のある配役が全くなく、鑑賞中、演者の選定に対する個人的な待ったが一度もかからなかった。
登場人物全員に対する、スタッフらのこだわりが垣間見られる。
この役はこの人にしか演じられない、と感じながら作品を観られることはそう多くないだろう。
その役柄に合った人相、声色、声量、佇まいや雰囲気、それらを表現する演技力・・・この人にしか、と思うための条件は、挙げたらキリがないほどあるが、本作のほとんどの人がそれらを全てクリアしていたと言っても過言ではない。
キャスティングの段階で正解を叩き出していたのは言うまでもないが、スタッフたちの意図を寸分の狂いなく汲み取り演じ切った役者陣に、役者魂を感じる。
豪華なだけじゃない、圧巻のアクションシーン!
太賀率いる決死隊に、山田孝之、尾上右近、岡山天音。
新発田藩に阿部サダヲのほか、吉沢悠、西田尚美。
新発田藩に近づく官軍と同盟軍それぞれに玉木宏、松角洋平。
両手に収まる程度の人数をざっと挙げてみただけでも、この豪華さである。
そして上記で述べたように、彼らの配役がベストすぎるので、これだけでもかなりの満足度を得られそうだ。
しかし、忘れてはいけない。本作は江戸時代から明治時代にかけて行われた内戦の一部を描いた物語であること、そして、罪人たちが砦を守る戦いの物語であるということを。
肝心のアクションシーンも、期待に沿う出来になっていたと感じられた。
かなり激しく、本格的な戦闘シーンが幾度も繰り広げられる。
そのスピード感は、観ていて実に気持ちがいい。
但し、一点注意点がある。
本作を監督するのが、白石和彌であることを忘れてはならない。
何が言いたいかというと、戦闘シーンや斬首シーンにおける描写に、容赦がないということだ。
彼が監督した映画「狐狼の血シリーズ」のどちらか片方だけでも、問題なく視聴ができるなら、本作の視聴にも何の支障もないだろう。
ただ、時代劇が好きだから、演者のファンだから・・・それだけの理由で(本来なら立派な理由だが)観てしまうと、痛い目に遭う可能性がある。
そのことを注意喚起しておきたい。
Dragon Ashの罠
演者が豪華!アクションシーンも迫力満点!物語そのものも面白い!
そんな本作で、ただ一つ、拍子抜けさせられた箇所がある。
それは、エンドロールだ。
本作の予告動画では、Dragon Ashの曲が使用されている。
ところが、このDragon Ashの曲は残念ながら主題歌ではない。
あくまでキャンペーンソングなのだ。(動画内でガッツリそう表記されているが)
分かっている。ただの私の早とちりだ。
しかし、予告動画の時点で「絶対この作品の内容と主題歌合ってる!劇場で聴きたい!」と思ってしまったので、この曲が流れぬまま場内が明るくなってしまったことは、本作におけるたった一つの残念ポイントであった。
いや〜この曲、劇場で聴きたかったな〜。主題歌にしてほしかったな〜。
さておき、非常に満足度の高いアクション時代劇。
私はもう一度劇場で鑑賞しようと思う。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)