室井慎次の現状報告 映画『室井慎次 敗れざるもの』
踊る大捜査線シリーズということで、少し期待しすぎたのかもしれない。
踊る大捜査線シリーズは、1997年にテレビドラマとして放送されたことから始まる。
私はちょうどその年に生まれており、さらに厳密に言うと放送時点ではまだ生まれていなかったので、残念ながらリアルタイム視聴はできていなかった。
しかし、再放送だったか何かで観て以来、ファンの仲間入りを果たした。
踊る大捜査線が、織田裕二のかっこ良さを知り、彼のその他の作品を観漁るきっかけを作ってくれた。
無論、劇場版も全て視聴済みだし、先日まで再放送されていたドラマ、土曜日夜に放送された劇場版で改めて予習も済ませていた。
それがいけなかったのかも知れないが、期待値MAXの状態で満を持して観た本作には、正直首を傾げてしまった。
映画概要と冒頭のファン大喜びの演出
本作の概要は以下の通り。
青島との約束を果たせなかったことを悔やみ、自身の故郷・秋田県で、二人の少年、タカ(齋藤潤)とリク(前山くうが・こうが)の里親となり生活する室井慎次(柳葉敏郎)。
そんな中、室井の前に突如現れた謎の少女。彼女の来訪とともに、他殺と思われる死体が発見される。
そして明かされる、少女の名前は…日向杏(福本莉子)。
シリーズ最悪の犯人と言われた猟奇殺人犯・日向真奈美(小泉今日子)の娘だという、衝撃の事実が判明する。
映画冒頭、ドラマと映画で誕生した数々の名シーンの回想からスタートする。
青島俊作(織田裕二)や恩田すみれ(深津絵里)はもちろんのこと、
和久平八郎(いかりや長介)も出てきて、シリーズのファンとしては、かなりテンションの上がるスタートだった。
ところが、中身の部分で失速してしまった。
多くの要素がバラバラに散りばめられており、まとめきれていない
本作では、ざっと以下の要素が描かれていた。
・室井が警察を去った理由
・辞めてからの故郷秋田県での生活
・突然現れた謎の少女・日向杏の正体について
・杏の不審な挙動について
・杏の言動に影響されたリクの心情と行動の変化
・タカの過去と、それに向き合う姿
・室井宅付近で起きた殺人事件の本格的な捜査の開始
上記の要素を、全て115分の中に詰め込んでいるため、それぞれがあまり深掘りできておらず、ただ登場人物たちの取った行動のみを映像に記録しているだけのようにも見えた。
登場人物が起こす行動の要因となった心情の変化など、機微までは描ききれていなかった印象だ。
とはいえ、それぞれの要素が無意味とも言い難い。だからこそ、これはドラマという形で、一つ一つ丁寧に描かれた状態のものを観たかったと思ってしまう。
今回踊るシリーズに加わることになった本作は、11月15日公開の『室井慎次 生き続けるもの』との二部構成ではあるが、前編の「敗れざるもの」だけの現時点では、本作が何を伝えたいのかがいまいち掴めない。
音楽のタイミングに違和感
踊るシリーズには、数々の名曲がある。
今回の映画にもそれらは登場するわけだが、どうもタイミングがしっくりとこない。
ドラマの時から使用されていた曲ばかりなのだから、本来ならば、ファンが「本作を劇場まで観に来てよかった」と思う要素の一つとなり得るはずだったが、懐かしい音楽も、使い所を間違えるとむしろテンションが下がるのであった。
ドラマでは見せ場のシーンで流されていたBGMが、本作では、見せ場ではないようなシーンでかかる。本作の内容に触れすぎるとネタバレになるため控えるが、「え、ここで!?」となる。
音楽の使い所は、マニアックなファンが口出しした方が上手くハマるのではないかと思ったほどだ。
それでも”室井慎次”はブレない
ここまで色々と言いたい放題言ってしまったが、本作の室井慎次の姿は非常に素晴らしかった。
2012年公開『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から12年が経った今でも、柳葉敏郎が演じる室井慎次は、あの室井慎次のままであるのだ。
相変わらず無口で眉間に皺を寄せていたり、異様なまでに黒いコートが似合ったり、たまにする優しい顔が視聴者がほっこりとさせたり、キムチ味のカップラーメンを食べていたり…。
状況がガラリと変わっていても、あの時の室井慎次が変わらずにいてくれている安心感を、柳葉敏郎はしっかりと見せてくれた。
本作は”警察官を辞めた今でも、室井慎次が室井慎次たる”ことを大画面で確かめたい人には、劇場で観る価値があるだろう。
後編では伏線回収に期待
前編の内容を極々簡単にまとめると、室井慎次の現状報告と、新たな事件のスタートへの第一歩を描いたものであった。
前編で残された多くの謎を、後編ではきっちりと回収してくれるだろうか。
事件捜査の山とその真相、凶悪犯・日向真奈美の娘が突如として現れた理由が、後編でしっかり描かれていると期待したい。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)