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”人の裏側”をリアルに描く 映画『六人の嘘つきな大学生』


概要

本作は、浅倉秋成による同名小説が原作である。
私は読書好きを謳っていながら、コミック化までされている
原作小説の存在を知らなかった。
以前、別の映画を劇場で観た時に、引き付けられる予告動画を目にし、
今日、公開初日に劇場へ足を運んだ。
私が行った劇場では本作は一日6回上映されており、
私はそのうちの5回目を鑑賞した。席数は車椅子席も含めて321席。
8割型埋まっていた。

本作の概要は以下。

誰もが憧れるエンタテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用。
最終選考まで勝ち残った6人の就活生に課せられたのは“6人でチームを作り上げ、
1か月後のグループディスカッションに臨むこと”だった。
全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考を迎えた6人だったが…急な課題の変更が通達される。
「勝ち残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」
会議室という密室で、共に戦う仲間から1つの席を奪い合うライバルになった6人に追い打ちをかけるかのように6通の怪しい封筒が発見される。その中の1通を開けると…

そして次々と暴かれていく、6人の嘘と罪。誰もが疑心暗鬼になる異様な空気の中、1人の犯人と1人の合格者を出す形で最終選考は幕を閉じる。

悪夢の最終面接から8年が経ったある日、
スピラリンクスに1通の手紙が届くことである事実が発覚する。

犯人が残したその手紙には、「犯人、○○さんへ。」という告発めいた書き出しに続き、あの日のすべてを覆す衝撃的な内容が記されていた。
残された5人は、真犯人の存在をあぶりだすため、再びあの密室に集結することに…

嘘に次ぐ嘘の果てに明らかになる、 あの日の「真実」とは――

映画『六人の嘘つきな大学生』公式

基本的に本作は、就活の最終面接に参加した6人の悪事(スキャンダラスな一面)を暴くこと、そしてそんなイベントを仕組んだ人間が誰であるかを推理するシーンがメイン。
次々と6人の悪事が明かされ、そして犯人に繋がる証拠も出てくるため、物語は二転三転展開していくが、正直、結末はある程度は予測できた。

メインシーンへの導入が完璧

非常に良かった点として、6人の関係性の設定が挙げられる。
6人は、最終面接前に面接対策と称し、自主的に頻繁に集まることになる。
その中で、互いの優秀さを実感し、長所を発見し、同じ”就活生”という立場から共感し合える点を見つけ、次第に仲を深めていく。
6人が仲良くなり、”ただ面接で一緒だった人”というその場だけの浅い関係に留まらず、”友達”に発展していることで、ダークな一面を知ることで走る衝撃に、リアルさが増していた。
そして、6人の出会いから関係が発展していく過程を、きちんと作中に盛り込むことで、我々にも6人それぞれに「リーダーシップがあり正義感が強い」「優しく、誰に対しても平等に接することができる」など、性格における”印象”を持たせ、登場人物たちと非常に近い感情で鑑賞させることに成功した。

また、この設定であることが、本作におけるメッセージ、
「本当の意味で人を信るとはどういうことか」ということ、そして「現代に根付いた人との関わり方」に一石を投じることに、一役も二役も買っていた。
原作小説も読まなければ…!

就活特有のピリつく空気感

就活の異質な空気感、人生を賭けた人間たちの持つ独特な雰囲気は、やはり映像だからこそ見ることができるものであった。その緊張感がこちらにも伝わり、上映中、劇場の空気は若干ピリついていたようにさえ感じられた。
メインの役を演じた演者たちは、(恐らく)就活を経験していない。
にも関わらず、演者たちにその緊張感や特有の空気感を伝える演出を施した佐藤裕市監督と、佐藤監督の意図を受け取り演技に反映した演者たちは、素晴らしかった。

佐藤裕市監督は、2007年公開の映画『キサラギ』や、2018年公開の映画『累』などを手掛けている。いずれも、人間の内面や裏の顔にスポットを当てた作品であり、非常に見応えがある。今回の就活特有の雰囲気と、その独特な場所や精神状態で顕になる人間の本性を魅せる演出は流石だった。

また、就活生の一人を演じた乃木坂46の元メンバー・山下美月の演技が、私は好きだった。妙に頭の回転が速い自信家で、気に入った相手にはいい顔を見せ、都合が悪くなったら毒を吐きながら捲し立てて相手に有無を言わせない、感じの悪い大学生の演技が、いるいるこういう子…と嫌な印象を持たせ、作品に非常に良いスパイスを与えてくれた。

目力の強い山下美月

演者のおかしな豹変

但し、一点気になったところがある。
それは、種明かしのシーン。犯人が動機を話す際、突如奇声をあげたり、笑ったりと様子が不自然に変化する。
犯人ということで、普通とは違う狂人に見せたかったのかもしれないが、その豹変ぶりがあまりにも唐突且つ不自然すぎて、こちらはついていけなかった。
そして、発狂している様は滑稽で、何だか笑えてしまった。
さらにいうと、発狂しながら語られるその動機が、薄い。
んん…?それだけ?となってしまった。それまでの展開や演技が良かっただけに、
肩透かしを喰らったような気持ちにさせられる。

発狂するのではなく、もう少し冷静に、切実に訴えるような語り口調の方が観ている我々の同情も買いやすく、良かったのではなかろうか。

就活という世界

前でも幾度も述べているように、就活とは異質なものだ。
本格的に社会に出たことがない人間がする就活は、
ある程度の社会人経験を積んだ人間がする転職活動ともまた違うように思える。
例え同じ業界を目指していなくても、それまで仲良くしていた大学の同期が急にライバルのように思えてくるし、親友との間では、そうなりたくないが故に、自然と就活の話には深く触れないことが暗黙の了解になる。
非常に強いストレス下で、孤独と戦う時間でもあったと思う。
就活をしていた頃から数年が経った今でも、時々思う。
あれはなんだったんだ…、あの時間はなんだったんだ…と。

本作の鑑賞中、就活していた頃のことを思い出し、懐かしむような穏やか気持ちと、もう二度と嫌だなと思う強いストレスの両方を同時に感じた。
日常生活ではあまり得ることのできない不思議な体験であった。

それから一言。作中の企業の採用担当者たちよ。
別室で黙って見ていないで、流石に割って入りなさいよ!


1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。

映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。

MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
ENFPらしい性格であると他者からもよく言われるが、文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。
(明るい文章もお任せあれ!)

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