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あなたが今ここにいることの尊さ 映画『ファーストキス 1ST KISS』
結婚情報誌・ゼクシィのコマーシャルにこんな台詞があった。
「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです」
このフレーズはSNSを中心に話題となり、多くの共感を呼んだ。
映画『ファーストキス 1ST KISS』は、この台詞を嚙み砕いて映像に落とし込んだような作品だ。
恋愛と結婚の違いをリアルに描いているからこそ、「この人と結婚する/した意味」を改めて考え直すことができるのだ。結婚経験のある方には特に、強く刺さる題材だろう。
しかし、それだけに留まらないのが本作の良いところ。
まず、本作の概要は以下。
今を生きる人たちの心情をリアルにも洒脱に描き出し、日本のみならず、アジア圏でも絶大な支持を得る、脚本家・坂元裕二。是枝裕和監督『怪物』(23)では、カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。その物語は世界に届くことを証明した。そんな坂元が『ラストマイル』『グランメゾン・パリ』(24)の塚原あゆ子監督と組み、カンヌでの受賞後初となるオリジナル劇場映画を送り出す。
この時代に問いかけるべき作品として書き上げられた、『ファーストキス 1ST KISS』。お互い好き合って結婚しながら、いつしか気持ちがすれ違ってしまった中、夫が事故死。日々に追われて悲しみに暮れる間もない妻だったが、突然のタイムトラベル! そこで若き日の夫に出会い、もう一度彼に恋をする。そしてその先に待っていたのは……。
結婚、恋愛、生活。その中で誰かと生きていくということ。言葉にすることで、カタチになったことで見えてくる、そのおかしみとかなしみ。本作もまた普遍的な物語で世界に通じるものながら、これまでにない坂元作品ともなっている。
主人公・硯カンナを演じるのは、「カルテット」(17)や「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)など、これまでにも坂元作品の世界観を体現してきた、松たか子。そして、カンナの夫・硯駈をSixTONES・松村北斗が演じる。
初共演となる松と松村、そして初タッグとなる坂元と塚原が紡ぎ出す、『ファーストキス 1ST KISS』。誰もが感動を覚えながら、そこに待つのは初めて出会うに違いない、心揺さぶるラブストーリーが、世界を席巻する。
この作品のジャンルは恋愛ものと定義されている。
私もそのつもりで鑑賞したが、鑑賞後に印象が変わった。
確かにこれは一組の男女が織りなす恋愛物語だ。
しかし、敢えて主観でジャンル分けするならば、
本作は最早「ドキュメンタリー映画」だ。
無論、実在する人物を題材にはしておらず、完全にフィクションだ。
主人公はタイムリープを繰り返すので、SF的要素も含まれる。
しかし、登場人物たちの心情や会話のリアルさは我々の”現実”に限りなく近い。
だからこそ、強く胸を打つ作品であった。
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本作の鑑賞にあたって、恋愛や結婚に対する考え方は実は関係ない。
ただ、「関係性に関わらず今自分の傍にいる人がここにいる尊い意味と価値」を見つめ直し、じっくりと考えたくなる作品なのだ。
私はまず、一緒に本作を鑑賞した友人のことを考えた。
彼女と出会い、今日までの長い年月一緒にいることができている奇跡と、
これからも一緒にいたいと思うこの尊い気持ちを優しく抱きしめたくなった。
本作は、私は私の傍にいてくれる人たちに優しさを与えられているだろうか。
感謝を伝えられているだろうか。
大切にできているだろうか。
そう自分に問うきっかけを作ってくれた。
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SNSの発達により、近年手軽に気持ちを表現できるツールが増えた。
それ自体は良いことだが、頻繁且つ多くの手段で発信できるようになったために、誰かにではなく、不特定多数に気持ちを伝える機会が増えた。
また、発する言葉が簡略化し、重みもなくなってきている。
自分にとって大事な特定の誰かに、自分の言葉で伝えながら、行動でも示すことの大切さを、本作を通じ、この現代でもう一度考え直したい。
1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
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